GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
銀座でヨウジさんに挑む My Attempts with Yohji Yamamoto in Ginza
増田 海治郎
ファッションショーが好きだ。この7年間、パリとミラノの海外メンズコレクション、ピッティ・イマージネ・ウオモ、そして東京コレクションのほぼ全てを、この目で見てきた。年間にして250本ペース。完全にデフィレ中毒患者だ。ランウェイのレビューを書く機会が多いから、ゴリゴリのモード派と思われがちだけど、私は1980~90年代の多感な時期を、いわゆるデザイナーズブランドと交わらずに過ごしてきた。アントワープ・シックスの面々もマルタン・マルジェラも興味はあったけれど、20代の私にはセレクトショップに置いてある“欧米の知る人ぞ知る銘品”のほうが魅力的だったのだ。
2000年代初頭に、吉田十紀人さんの「TOKITO(トキト)」と松下貴宏さんの「(m’s braque(エムズ ブラック)」という強烈な美意識を内包したブランドと出会い、私はデザイナーズブランドの魅力に開眼した。以来、洋服選びの“可動域”が年を経るごとに拡張し、今では完全に収まりがつかなくなってきている。ハタチそこそこの若手のドメスティックブランドにもチャレンジするし、相変わらず欧米の銘品にも目がない。古着では、以前は死んでも着たくなかった80年代のDCブランドに猛烈にハマっている。毎年肥大するウエストの縛りはあるが、今は興味のあるまま何でも着てやろうという気分になっている。
そんな壊れかけのマスダが、いまだ袖を通せていないのが山本耀司さんの服だ。今のヨウジさんの勢いは本当にスゴい。パリのメンズのショーに入れる人数は、せいぜい250人。会場入口にはインビテーションを持っていないファンが幾重にも列なり、周辺は異様な雰囲気になる。売り上げは世界でも日本でも絶好調で、ここ数年はミレニアルズ層のファンが爆発的に増え続けている。孫世代を夢中にさせることができるデザイナーって、世界中を見渡してもヨウジさんと川久保さんだけだと思う。じぶんの親世代と言うことを考えれば、その存在はもはや神に近い。
でも、ヨウジさんの服は、誰もが似合う類のものではない。毎シーズン「着てみたいな」と思うものに出会うけれど、ひとつのブランドをトータルで着るのが苦手な自分には、今ひとつ踏ん切りがつかない……。そんな時に頭に浮かんだのが「Ground Y(グラウンド ワイ)」の存在。ジェンダーレス、エイジレスなスタイルを提案するブランドで、言わば「地上(グラウンド)に降りてきたヨウジさん」だ。定番的な商品も多く揃えていると聞いている。そんなわけで“マイ・ファースト・ヨウジ”を探すべく、GINZA SIXの4Fへ足を向けた。
売り場でこんなにドキドキしたのは久しぶりだ。ファッション経験値は高いほうだと思うが、自分で着こなせそうな商品がなかなか見つからなくて焦る。モデル&フォトグラファーの服部恭平くんやタレントの栗原類くんとか、自分の周りのヨウジファンは細く長い完璧な体系の人ばかり。はたして、太く短いメタボリックな私に似合う服は見つかるのだろうか……。
で、ピックアップしたのが、この2着。トロンとした落ち感のテンセルバーバリーとテクノラマ天竺を組み合わせたアシンメトリーシャツ(38,000円 ※以下全て税抜価格)と、定番のウール/ポリエステルのギャバジンを使ったマント(76,000円)。見た感じでは、たぶん問題なく着こなせそうだ。自信満々で袖を通した。
ずーん(笑)。私のワードローブには数着のマントがあって、なんの照れもなく普通に着ているのに、これは最上級に難易度が高い。冒険は止めて、ここはもっとベーシックなやつにしてみよう。イケメン店員さんに助けを求めた。
「年配の方からも人気があって、着る人を選びません」とオススメされたのがこちら。軽くて滑らかなテンセルバーバリー素材のダブル仕様のロングコート(58,000円)は、ボタンを上まで留めればモードっぽい雰囲気になるし、私のごん太の体躯をすっぽり包み込んでくれる。これなら日常的に使えそうだし、ビジネススーツの上から羽織っても違和感なさそうだ。いくつになっても、新しいじぶんを発見するのは楽しい。
続いて向かったのは、2Fの「discord Yohji Yamamoto(ディスコード ヨウジヤマモト)。1972年のデビュー以来、ファッションの既成概念を覆してきたヨウジさんが提案するラグジュアリーアクセサリーのブランドだ。
最初に目を惹いたのは、傘のコレクション(128,000円)。持つと「えっ?」と声が出るくらい軽い。中棒と骨の部分はカーボン製で、開閉動作の感触は、筆舌に尽くし難いほどラグジュアリーだ。傘部分の素材は高密度ポリエステル。特殊な織構造を採用していて、水滴が蓮の葉のように切れるのだという。なんかすげー! 価格は税込14万円越えとご立派だが、この日は平日の夕方にもかかわらず、すでに2本が売れたという。GINZA SIXのお客さんもすげー!
バッグはやっぱり私には難易度が高かったので、アクセサリーに逃げることにした。この隈取がモチーフの小物入れ(39,000円)は、ネックレスに引っ掛けて使うとスタイリングのアクセントになりそう。
白ダルマも可愛い! 左のスマートフォンフォルダー(39,000円)は、iPhoneはもちろん、カードやお札も収納できる優れもの。次のコレクション取材に持って行きたいな。
肩がけのワンショルダーのバッグは、女性向けのイメージが強いかもしれない。でも、今はジェンダーレスな時代。カップルや夫婦間でシェアしたら、より楽しめそうだ。
ヨウジさんとの勝負で疲れ果てたので、気合いではなく油を注入したくなった。私は白いご飯と同じくらい、ポム・ド・フリット=ポテトフライが好きだ。ヨーロッパの家庭では必需品の、炊飯器型のフライヤーを大学生の頃から持っていて、かなりの頻度で自家製フリットを作っている。私の92cmのウエストの主要因は、間違いなくコイツのせいだ。で、向かったのは、本場ベルギーからインスパイアされたB2Fのフレンチフライ専門店「AND THE FRIET(アンド ザ フリット)」。GINZA SIX店は、その場で揚げるのではなく、スナック形式のドライフリット専門店だ。
ドライフリットとは、分かりやすく言えば、カルビーのじゃがビーの高級版。プレミアムソルト、バルサミコ アンド ペッパー、黒トリュフソルト、ハニーソルト アンド バター、アンチョビ アンド ガーリックなど、聞いただけで涎が垂れそうな魅惑的な味が揃う。すべて店頭で試食できるので、遠慮せずガンガンいただく。どれも美味しいけど、一番は黒トリュフソルトかな。
油まみれの罪悪感を軽減する飲み物も販売している。ハニーレモンウォーター(550円)は、甘さ控えめのお味でスッキリ。油よ、さらば!
購入したのは6パックがアソートで入った「ドライフリット オカモチ」(3,210円)。どれかではなく、全部食べたかったのだ。今宵はセレブなカウチポテトじゃー!
その日の夜、夢の中でヨウジさんに「テメエ痩せろー!」と言われながら、飛び蹴りされたのは内緒である。
Text: Kaijiro Masuda Photos: Yuya Kobayashi Edit: Yuka Okada(edit81)
GINZA SIX EDITORS Vol.88
増田 海治郎
1972年生まれ。雑誌編集者、繊維業界紙記者を経て、フリーのファッションジャーナリストとして独立。メンズとウィメンズの両方が取材対象で、カバーするジャンルの幅広さは業界でも随一。著書に「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)がある。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中