GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
プロダクトと空間、デザインの先端に触れる Products and Spaces on Design’s Cutting Edge
土田 貴宏
GINZA SIXのひとつの楽しみは、世界レベルのデザイナーの新しい仕事にいたるところで出会えること。館内全体の空間構成がゆったりしていることもあり、ギャラリーのような気分で歩きたい店がいくつもあります。そんな中から、ライフスタイル系のショップと空間のデザインに注目したいブティックをひとつずつ選びました。
4階のCIBONE CASEは、青山にあるCIBONEからスピンアウトしたショップ。その審美眼を細やかに生かしつつ、銀座のインターナショナルな雰囲気をふまえたお店になっています。ここで扱っているベルギーの新鋭デザイナー、Muller van Severenによる椅子は、インダストリアル感のあるミニリズムと意外性に富んだ色使いが魅力です。まるでモダンアートのような佇まい。
ブルックリンが拠点のLadies & Gentlemen Studioによる「Aura chime」・「Playscape mobiles」。身近な素材を自分たちの手で組み合わせてデザインを発想する二人組の作品です。揺れると素朴な音が響くこのプロダクトは、彼らが得意とするモビールの要素を持ち合わせていて、80年代風の形や色も今のインテリアの気分です。
デンマークの伝統あるブランド、Lyngby Porcelænのフラワーベースは1930年代からつくられているモデル。色合いやサイズのバリエーションも絶妙で、いくつか並べて使いたい。そのままでも、花を活けても絵になります。
ここに挙げた3アイテムのうち2つは、今のところ日本での取り扱いはおそらくCIBONEだけ。ちなみに海外でも、こうしたものを扱うショップはまだごく一部です。そんな意味では、CIBONEは時代を先取っています。さらにCIBONEが独特なのは、その1点1点が長い時間軸で愛着を持てるものでもあること。未来の定番を見極めようとする、そのバランス感覚が見事です。
CIBONE CASEのインテリアをデザインしたのは二俣公一。左右に広い独特の形の空間を、量感のある壁や引き戸状の棚を設けて緩やかに仕切っています。素材の選択が巧みで仕上げも美しく、見ていても飽きません。
こちらは地下1階から4階にわたり店舗を構えるヴァレンティノのブティック。GINZA SIXがオープンした時、特に空間に圧倒されたのがこの店でした。現在、世界各国のヴァレンティノのインテリアは、イギリス人建築家のデイヴィッド・チッパーフィールドが大きな役割を担っていて、その作風はGINZA SIX施設全体の外観設計を行った建築家、谷口吉生との相性のよさを感じさせるものです。ブティックの壁と床は均質なグレーのテラゾー(人工石)で統一され、カラーラ大理石、真鍮、オーク材などが効果的に用いてあります。
4階のメンズ・シューズをディスプレイしたスペース。壁面の棚は店舗全体で使われているもので、上端を壁の段差に掛ける仕組みになっています。商品を照らすLEDが内蔵されている上に、店内のレイアウトに合わせて左右に移動できる構造だというのが驚きです。さすがチッパーフィールド。
4階のメイド・トゥ・メジャーのコーナーで、シャツのカラーやカフスのサンプルを載せた棚。店内のほとんどの棚は真鍮のフレームとオーク材でできていますが、こちらは真っ白いレザーで棚板を包み、端正な形のカラーをオブジェのように際立たせています。
一連のオークの家具もチッパーフィールドによるオリジナル。彼らしいミニマルなフォルムが特徴で、椅子はテーブルの下にぴったり収まるようにできています。メイド・トゥ・メジャーのコーナーでは、ここに座ってスーツやシャツのオーダーのやり取りをします。
たとえ用はなくても体験してほしいのが、店内のフロアを結ぶエレベーター。大理石の床面以外、すべて真鍮でできていて、まるで金の茶室のようです。そこに至るアプローチも大理石でできています。
ブラックレザーのラウンジチェアは、デンマークの家具デザインの名手、ボーエ・モーエンセンが1963年に発表した歴史的なもの。すみずみまでストイックに構成された空間の中で、椅子については人をくつろがせるものを選ぶ視点に唸らされます。もちろん上質さやクラス感は一貫していて、完璧に調和しています。
ヴァレンティノのスタイルを象徴するアイテムのひとつ、カムスター(カモフラージュ×スター柄)のバッグ。このブランドの製品に感じるのは、ファッションへの圧倒的な愛情と探究心で、それは(普段はファッションを対象にしていない)私のようなライターにも伝わってきます。たとえばカモフラージュはあらゆるブランドで使われていますが、ヴァレンティノの柄が最も洗練されたオリジナリティがあるように思います。
ブティックのデザインは、こうしてシーズンごとに生まれるさまざまなアイテムの背景でありながら、同時に建築的な快感にあふれています。紹介しきれませんでしたが、大理石づくめの階段や、グレーで統一されたフィッティングルームも見逃せません。「神は細部に宿る」とは近代建築の黄金律ですが、その醍醐味が体感できる絶好のスポットになっています。
Text : Takahiro Tsuchida Photos : Kaori Imakiire Edit : Yuka Okada
GINZA SIX EDITORS Vol.4(Lifestyle)
土田 貴宏
ライター、デザインジャーナリスト。1970年北海道生まれ。会社員などを経て、2001年からフリーランスで活動。家具などのプロダクトを中心とするデザインと、その周辺のカルチャーについて専門誌などに寄稿している。学校で教えたり、エキシビションのディレクションをすることも。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中