JAPAN DENIM NOW その今を知るジャパンデニムの旅
穏やかで深い青を湛える瀬戸内海。その色を映し出すかのように、海沿いで織られるのがメイド・イン・ジャパンのデニムだ。世界で高く評価される美しいデニムを日本で最も生産しているのが、広島県福山市であることは思いのほか知られていない。福山を中心に産地とデザイナーをつなぐブランド「JAPAN DENIM」初のショップが、3月5日にGINZA SIXにオープンした。地域に受け継がれるものづくりの文化を土台に、次なる時代と世界への展開を見据えた新たな取り組みを追いかけていこう。

〈ジャパンデニムを手がけるアクセが本社を置くのは広島県尾道市。同市の名刹として名高い千光寺へ向かう中腹から尾道水道を見る。尾道中心部から福山市内までは車でわずか30分程度。いずれの工場まで同程度の時間でアクセスできる。〉
日本最大のデニム産地、福山
豊かで穏やかな海と、そこに広がる無数の島々。瀬戸内海は古くから交通の要として機能し、その中央にある広島県福山市鞆の浦は千年を超えて栄えてきた。この港を擁する福山は現在、鉄鋼業や造船業が盛んな工業都市として知られる。
しかしそれらに先んじて福山に根付く産業が繊維業だ。福山藩初代藩主の水野勝成が綿花栽培を推奨したことに端を発し、国内有数の綿花産地となった福山では製織や染色が盛んになる。江戸後期になると寛政の改革で絹織物の着用が禁じられたことから綿織物の需要が高まった。こうして福山で、伊予絣、久留米絣とともに日本三大絣のひとつに数えられる備後絣が生まれる。藍染による厚手生地の織布である絣の技術は、戦後になるとデニム生地の製造に転用された。今や福山は国産デニムの7割を手がける日本最大の生産地として、世界を魅了する。
デニム生地の衣服には5つの工程を要する。糸を作る「紡績」に始まり、糸を藍に染める「染色」、糸を織って生地を作る「織布」、生地から製品を作る「縫製」、製品に洗いやダメージを施す「加工」だ。これらの工場がひしめく福山で、その技術力に着目し、国内外のデザイナーによる新たな表現を融合させた新しいデニムコレクションを展開するのが「JAPAN DENIM(ジャパンデニム)」だ。
事業を展開するのは福山市に隣接する尾道市に拠点を構え、GINZA SIX 4Fにもセレクトショップ「PARIGOT(パリゴ)」を運営するアクセ。1925年、衣装雑貨店から始まった同社は、洋装店、複合ショップなど、地元尾道に根付いて、人々に衣料品を届けてきた会社だ。若くして他界した父を継いだ3代目の現社長が世界を周り、いち早くセレクトショップ業態へと変換を図ったのは1992年のこと。今やGINZA SIX 4Fをはじめ首都圏、山陽四国に7店舗を展開する。
同社専務の髙垣道夫さんは産地とデザイナーをつなぐなか、サステナブルなデニムのあり方を模索し始める。髙垣さんの案内で、紡績を除く4つの工程を追いかけることにした。まず訪れたのは、染色を行う坂本デニム。染色加工は「整経」「染色」「分繊」「糊付」の4工程からなり、まずは原糸をあらためてロープと呼ばれる形状に巻き取る「整経」に始まる。

〈芯に巻かれた原糸は、その形状からチーズとも言われる。このチーズ約600本から、ロープと呼ばれる形状にあらためて糸を巻き取っていく。この作業により色染めのムラがなくなり、作業効率も良くなる。ここで巻き取られた糸はおよそ1万メートルにも及ぶ。〉
続く「染色」では、独自開発のロープ染色機で糸を染めていく。不溶性の色素である藍は、浸染作業に酸化還元反応を必要とする。そのため、まずは藍を水素と化合させてアルカリ性の染色液を作成。その液で糸を浸染したのち、空気に触れさせて酸化反応を起こすと色が定着する。浸染と定着を繰り返し、染色槽の数や空気に触れる時間で望む色を作り出していく。

〈坂本デニムで稼働するロープ染色機の様子。手前は未着色のため白く、奥に行くほどに青が濃くなっていく。天井近くまで巻き上げられ、ふたたび染色液に浸けられる。何十にもわたって繰り返されるが、あくまで糸の芯は白い。〉

〈染色槽に浸かる糸。数十個の染色槽に浸けた糸を引き上げ、ふたたび染色槽に浸けて、藍色を濃くしていく。引き上げることで染色液に浸染した色が空気に触れて酸化し、色が定着する。この時間や槽に浸ける回数で複雑な色の濃淡を実現していく。〉
一方で同社は環境負荷低減のため、新しい技術の採用にも積極的だ。たとえばアルカリには洗浄力、酸性には殺菌、漂白力をもつ電解水に着目し、高温水や洗浄薬剤を使わない染色前後の洗浄作業を実現した。使用後の電解水はもとの水に戻るので排水処理や洗浄薬剤の使用が大幅に軽減され、高温水の未使用で二酸化炭素の排出も抑えられる。さらに坂本デニムは、国内で初めて糸の表面だけを染めて芯を白く残す「芯白染色技術」の開発に成功した会社だ。

〈染め終わった糸はこの後、巨大なボビンのようなビームに巻かれる。坂本デニムは濃色に染め上げても芯白を保つ技術をもっており、他社では難しい濃淡さまざまで豊かな色と風合いを実現する。この芯白がデニムを育てる楽しみにつながっていく。〉
芯に白い部分を残す芯白で、デニムを育てる楽しみを生み出した。こうして染め上がった糸の束を再びビームに巻き取る「分繊」を経て、「糊付」が行われる。
続く「織布」のために訪れたのは篠原テキスタイルだ。かすり織物から綿織物に発展し、さらにデニム織布の製造へと変遷した同社は完成度の高いデニムに評価も高い。デニムとは、藍で染色した経糸と未染色の緯糸を綾織にしてできあがる布だ。その語源はフランス語のセルジュ・ドゥ・ニーム(ニーム地方の綾織物)とされ、英語圏で簡略化されてデニムと呼ばれるようになった。篠原テキスタイルでは電子制御された織機と古いシャトル織機という新旧の織機を両立させながら、それぞれに特徴あるデニム生地を織り上げる。

〈こちらは篠原テキスタイルの1950年代から使い続ける古いシャトル織機。ほかにも高速、高効率に織るエアージェット織機も用い、生地の特性に合わせて使い分ける。インディゴの染料で織り機のすみずみまで青く染まったデニムの製織工場。〉

〈電子制御された高速回転のエアージェット織機。24時間稼働させることで、短納期にも対応する。ベーシックなコットンからリサイクルコットンや合繊、テンセルといった幅広い糸を使い、新しい感覚のデニムを生み出すことに力を入れている。〉

〈1950年代から使い続けられるシャトル織機。スピードはゆっくりだが、この織機でしか出せない表情がある。糸に加え、レピア織機、シャトル織機など、織機も幅広く使いこなすことで、生地の表情、多重織や柄の表現などを幅広く実現している。〉
なかでも同社を代表するのが多品番を誇るテンセルデニムだ。間伐材を原料とするセルロース繊維のテンセルを使ったデニムは、ストレッチの効いた滑らかな質感をもつ。これまでの綿製デニムにはない光沢、とろみある柔らなか表情で、次なる時代のデニムを目指す。

〈デニムは、藍で染色した経糸(縦糸)と未染色の緯糸(横糸)を綾織にしてできあがる布。近寄ることで、二種の糸で織られていることがわかる。使い込んだデニムは緯糸に加ええ、縦糸の白い芯部分が露出することで独自の表情を生み出している。〉
歴史と先進性宿るデニムを
糸を染め、糸を織って完成したデニムで「縫製」を行う日本デリバリーサービスもまた、新旧の技術を織り交ぜたものづくりに力を入れる。他の工場と違い、近代的なビルの一室にはコンピューターが並ぶ。彼らはまず、デザイナーがおこしたパターンから生産を見据えた縫製仕様に設計ソフトを用いて引き直す。時に、衣服にかかる負荷を計算しながら強度ある仕様への見直しを提言することも。

〈設計図をもとに、身体の圧や動きからデニムのどの部分にダメージが発生しやすいかをシュミレーションする。ダメージが大きくなる箇所は設計を見直し、負荷の少ない形を探る。〉
同じくデジタル化された裁断機で、端布を最小限に抑えて丁寧に布を裁断。一方縫製作業では、ジーンズマニアから絶大な支持を得ているアメリカ製のヴィンテージミシンを用いて味あるチェーンステッチを現在に届ける。

〈電子制御の機械を積極的に取り入れる一方、アナログなヴィンテージミシン、ユニオンスペシャルを使う。このミシン特有のチェーンステッチが、デニム好きの心をくすぐる。〉
縫製を経てひとまずの形を見た製品は、「加工」を経て完成を迎える。四川は、ミネラル分を多く含む海洋深層水を用いた独自の加工法「オーガニックウォッシュ」を開発した事業者だ。

〈縫製後の製品を洗うことで、最終的な表情を生み出すのもデニムならでは。四川では月に何度か、海洋深層水を運ぶために高知県室戸市まで往復する。海洋深層水のミネラルが独自の表情を出す。〉
ストーンウォッシュやブリーチといった耳慣れた言葉は加工法を示すものだが、近年は環境負荷が大きい手法ゆえに見直しが進んでいる。四川は高知県室戸市で海洋深層水を取得し、人工的な塩素系・水素系漂白を用いずに黄みがかったダスティーブルーを表現する。生地を傷めることなく、長年履き込んだ雰囲気を作る技術に定評がある。こうしてデニム製品は完成を見せる。

〈かつては天然石を用いたストーンウォッシュも、現在はセラミック製の人工石を使って洗いを掛ける。削れるスピードが速かった天然石に対し、セラミックは長持ちし、環境にも優しい。〉
4つの工場を巡り終えると、髙垣さんは「私自身もはじめはデニムの深い知識はなく、まずは産地の事業者さんを回らせていただきました」と振り返った。現在は80社以上ある事業者のうち70社ほどを回り、それぞれの強みを知り、産地全体でできることを考えるようになったという。一方、髙垣さんをはじめとするアクセの面々はユーザーに製品を届けてきたプロだ。潜在的なニーズを探りながら、事業者、デザイナーとともに、新たなデニムのコレクションを考えている。
「これまでも私たちはお客様を見つめ、デザイナーと話し、ものづくりを届けてきました。ジャパンデニムの試みは、これまでにやってきた事業が一つに繋がったように感じます。今回はそこに事業者のみなさんが連なりました。我々バイヤーが考えるのは、探す楽しみがあり、絶対に買えるものがあるブランドなのです」と、その言葉は力強い。

〈髙垣さんが手にするのはフェイクレイヤード仕立ての「CULLNI(クルニ)」のデニムジャケット。カジュアルになりがちなデニムジャケットにテーラードの要素を加え、上品に仕立てた。バックスタイルはダーツのみのシンプルなデザイン。〉
現在、ジャパンデニムに参加する16ブランドのうちのひとつで GINZA SIXの5Fにも店舗を構える「KURO(クロ)」の八橋佑輔さんは、デニムへの知見を活かしたものづくりで知られるデザイナーだ。彼は福山のものづくりを、「工場はトレンドを求めず、技術を磨き続ける場。だからこそ、常に僕のものづくりは工場の職人から影響を受け続けているのです」と語り、新たな取り組みによって「ファッションにおいてデニムは独特の区分がなされています。だからこそ、現状の垣根を超すことでさらなるファン層を獲得できるように思えるのです」と期待を寄せる。
それを受け、「これまでの経験から、デニムに精通し、ユーザーのみなさまに喜んでいただけるブランドにお声がけしました。とはいえ個々の事業者の技術や特徴をデザイナーの誰もが知るわけではありません。作りたいものに合わせた結びつけなど、コーディネーションにも力を入れています。またブランド単体では最低ロットの確保が難しい生地の提供など、この仕組みだから実現可能な挑戦もあります。そしてそれは産地にとっても刺激となることを願います。両者にとって可能性を広げていくことで、産地の未来、そして次世代にも届ける試みなのです」と髙垣さん。
さらにジャパンデニムの製品すべてに、産地と事業者名、その情報につながるQRコードを載せたラベルを添えた。これまで裏方であった産地を視覚化し、トレーサビリティーにも力を入れる。これは産地の事業者にとっても、新たな顧客確保につながる新しい取り組みだ。デニムという言葉に集約される織物だが、濃淡豊かな青の表情、生地の性質や表情は進化を続けている。そこにデザイナーのクリエイティビティが加わると、たった一つの言葉では表現のできない無限の可能性が宿る。藍に宿る歴史と先進性、そんなデニムがGINZA SIXを刺激する。
次なる時代のデニムを目指して
現在ジャパンデニムは「08サーカス」「チノ」「クルニ」「エズミ」「ロキト」「マーカ」「ミュベール」「ウジョー」「リプレイ」「ヤヌーク」など、国内外の16ブランドが参加。
GINZA SIXのショップオープン時には、レディス、メンズ、ユニセックスの35アイテムが揃う。



Text: Yoshinao Yamada
Photos: Ooki Jingu
Edit: Yuka Okada(81)
