世界へと発信する、GINZA SIXの「和の真髄と革新」
拙者は在仏22年。年に3回は帰国をし、東京散歩を楽しみますが、今年のビックニュースはGINZA SIXのオープンでした。昭和の風が吹き抜け、文化の香りも漂う銀座を昔から愛していましたが、GINZA SIXは佇まいからも、「和の真髄を革新として伝える」使命への覚悟が伝わってきます。「ひさし」や「のれん」をイメージしたファサードを抜け、アトリウムの天井から落ちる、和紙を通した柔らかな光へと導かれる。流行・文化を生み出してきた聖地から、日本伝統が新しく世界へと発信されていく、その先を見つめることができるようです。私自身、パリにて「DOMA」というウェブメディアを主宰しており、食を通じて、日仏の理解を深めるという活動を行っています。そのため、GINZA SIXの使命が、散策の中で心に響いてきます。

地下2階フロアでとりわけ私の心をとらえたのは、酒屋「いまでや銀座」でした。調度やフローリングをはじめ、木調で展開した空間。柔らかな温もりに、背筋が伸びる匠のこだわりが伝わってくるようです。酒、造り手との出会いを大切にし、お酒1本1本の物語を蔵というものづくりの現場から伝えたいという、2代目「いまでや」小倉秀一社長の思いが詰まっていました。


「いまでや」に頻繁に足を運びたくなるのは、社長自身が感じた感動を、お客さまにも味わってもらいたいと、一期一会の仕掛けを設けてくれているから。「角打ち」コーナーでは、日替わりで蔵元の有料試飲を提案。取材日は三重の銘酒「瀧自慢」の勧める6種の酒が試飲できました。また二十四節気に合わせた、季節にあった酒セレクトも並びます。「処暑」の候では“目指したのは とりあえずビールに代わる 涼夏の日本酒”「宝剣 涼香吟醸」や、“芳醇ながら軽快なうまみ 西酒造の造る麦焼酎”「一粒の麦」など。俳句のような詞を 載せた名札文からも、今日の食卓のイマジネーションをかき立てられます。

真骨頂は、「いまでや」が、2017年春、自社庫を開設して始めた、長期熟成日本酒の提案でしょう。海外との取引も果敢に進める小倉社長は、各日本酒が持つ特性によって、ワインと同様日本酒にもヴィンテージが可能であると実感し、日本酒の味わいの新たな可能性を引き出すことに挑戦しています。店長でいらっしゃる大川翔平さんの丁寧なガイドで、今までに味わったことのない、深い日本酒の魅力に触れてみてはいかがでしょう。

また、レストランフロア13階の「ミクソロジー サロン」も是非足を運んでいただきたいカクテルバーです。オーナーは、東京に5店舗を展開するミクソロジスト、南雲主于三さん。ミクソロジーとは、従来のレシピの枠を超え、自由な発想のもと創り出す新しいカクテルを生み出す新手法のこと。実は南雲さんは、パリでカクテルと料理とのマリアージュディナーを開催したことがあり、私もお手伝いさせていただくという僥倖にあずかりました。味にうるさいパリの美食家をして「ワインを忘れさせるカクテルだ」と言わせる好評価を得たのです。


この銀座のサロンでは、著書もあり、クラシック・カクテルで権威のある伊藤学さんが、チーフ・バーテンダーを務めます。ミクソロジーという舞台で、新たな挑戦をしたいという伊藤さんのカクテルへの想いは熱く、南雲さんのレシピの中で昇華されています。

この銀座店の軸は“日本茶”です。ウォッカに自家製蕎麦茶を浸して香りを出した液体をベースに、フレッシュのパイナップルを加え、味噌のパウダーを散らした「蕎麦茶カクテル」や、やはり玉露を贅沢に浸して香りづけしたウォッカベースの「玉露マティーニ」。バーボンウイスキーと宇治抹茶のマリアージュが美しい「グリーンティファッションド」など。いずれも、お茶の魅力がカクテルによって研ぎ澄まされ引き出されていた傑作でした。

世界への舞台を開く人は、伝統を知りぬき、素材をとことん突き詰めたからこそ、新たな価値、文化を創造する力がある。「いまでや銀座」も「ミクソロジー サロン」も、世界に誇る食を通した日本文化の未来の可能性に出会える場所なのです。
Text:Aya Ito Photos:Masatoshi Uenaka Edit:Yuka Okada
GINZA SIX EDITORS Vol.1(Food)
