Experimental Spirit コンフォートとエレガンスの革新
CLERGERIE
Fashion
今年、クレジュリーはブランド創設40周年を迎える。現在アーティスティック・ディレクターを務めるダヴィッド・トゥルニエール・ボーシエルは、これまでバレンシアガ、クロエなどファッションブランドのシューズデザインを手がけ、イタリア、スペインの製靴にも技術にも精通している。
「クレジュリーが後継者を探していると聞き、それまでに自分が得た様々な経験をもたらしたいと僕から志願しました。それはブランドへのリエペクトゆえ、そしてノスタルジーゆえなんです。というのも、僕が生まれたのはクレジュリーの工場があるロマン・シュル・イゼールで、学校に行くとき毎朝その前を通っていました」
2017年、アーティスティック・ディレクターに就任したダヴィッド・トゥルニエール・ボーシエル。’’美しい空’’を意味する苗字のボーシエルは母の旧姓で、エネルギーが与えられるところが気に入っている。日本びいきで靴の構造面では日本の建築に触発されるそうだ。
靴産業が栄えるフランス南東部のこの街で幼少期、学校が休みの日は製靴技師の父に連れられいろいろな工場を見学した思い出がある。マシンの爆音、釘が打ち込まれるリズミカルな音、糊の匂い…4年前からクレジュリーの工場で仕事をするようになり、子供時代を生き直しているようだと語る。
「創業者ロベール・クレジュリーの思考こそがメゾンのDNA。これが守り続けられるべきものです。彼なら僕の立場でどうするだろうか、と常に彼の頭の中に入り込んで働くようにしています。女性のためのマニッシュな靴として知られているけれど、これは表に見える一部に過ぎない。アヴァンギャルドなリサーチや実験、新しい技術などの特性を裏に秘めているメゾンです。創業者は何でも一番乗り。今や当たり前のストレッチ・ブーツにしても、彼が織物業者と素材を開発したんです」
ロマン・シュル・イゼールにあるクレジュリーの工場。時代やテクノロジーに応じ、靴型など微妙に進化させている。
カクテルパーティーのためではなく、クレジュリーは移動のための靴であり日常生活の品だとダヴィッドは強調する。かつて創業者はボリュームある木の靴底にスリットをいれることで、歩きをラクにした。ダヴィッドはそのアイデアを現在マイクロセルラーの靴底に適用している。これは軽い素材だが厚みのあるデザインなので、スリットが入ってる方がずっと歩きやすくなる。
「こうした靴底に対し、アッパーはエレガントでフェミニンなデザインにするのです。このミックスはクレジュリーの歴史に通じるもの。ロックダウンの間、人々の気持ちはイージーでクールなモードへと向かい、モードの新しい消費、新しい欲求が生まれました。かつてはおしゃれじゃないとされたものが、人々の目に美しく映るようになった。例えば健康サンダル系の靴は履いて快適、幅広のかたちは見た目も快適です。その点クレジュリーの靴は、履きやすさを生むテクノロジーは表に出さず、見た目のエレガンス、洗練さをキープするようにしています」
大勢の職人たちが手を動かし、アルチザナルな靴を作り続ける工場内。
靴博物館もあるロマン・シュル・イゼールでここは今も残る唯一のリュクスなシューズブランドの工場だ。
マンハッタンの秋をテーマにした新コレクションでも、それは守られている。NYでセントラル・パークを散歩した時、樹木や葉の色、公園を囲む高い建築物に彼はエレガンスを見出し、都会なのに田舎にいる気分が味わえるコントラストも気に入った。そこに70年代の映画『アニー・ホール』の主人たちの無頓着なモードが重なって生まれたコレクション。日本女性にも受け入れられる、と彼は確信している。
秋の新作、左よりシューズ“アンジャ”〈ヒール高7.5cm〉¥82,000,・シューズ“ベッカ”〈ヒール高4.5cm〉¥80,000・ファー付きサンダル“タリア”〈ヒール高6.5cm〉¥71,000/クレジェリー(2F)
Interview with David Tourniaire-Beauciel
Designer
Text: Mariko Omura Photo: Kanako Noguchi(shoes) Editing Direction: Yuka Okada(81)