Take a Step Forward 履く人の美しさを引き出す靴
GIANVITO ROSSI
Fashion
「私は中部イタリアのサン・マウロ・パスコリで生まれ、父の工房で靴に囲まれて育ちました」
ジャンヴィト・ロッシは自分のブランドの説明をこんなシンプルな言葉から始めた。が、実はここにすべてが集約されている。中部イタリアといえば靴のメッカ。そしてサン・マウロ・パスコリはその中心地であり、特にラグジュアリー系の靴の生産で知られている。そんな地で、伝説的シューズデザイナーだったセルジオ・ロッシの息子として、幼い頃から職人技を駆使した靴づくりに触れ、芸術的なデザインの中で育ってきたのが彼なのだ。
創業者かつデザイナーのジャンヴィト・ロッシ。父のもとで20年以上靴づくりを学んだ後、2006年に自身の名によるコレクションを発表。デビュー直後から、セレブを始め、世界中で人気に。
「靴づくりは自分の生活の一部で、この道に進んだことは“選択”というよりは、人生そのものでした」という彼が、2006年に自分の名を冠したシューズブランドを立ち上げたのも、ごく自然な流れだったのであろう。
そしてジャンヴィトは2008年、ミラノに旗艦店をオープン。旧貴族の邸宅、バガッティ・ヴァルセッキ宮の一部を使用したその空間には、店というよりはサロンのような、上品で洗練された雰囲気が漂う。
ミラノ本店は、一部が美術館でもある貴族の邸宅だったバガッティ・ヴァルセッキ宮の中にあり、店全体に上品な雰囲気が漂う。
「ブランドのDNAである質の高さと職人技、そして靴づくりにおいてこれまで培ってきたエレガンスが、この優雅で伝統的な建物にマッチしていると思います。ミラノというダイナミックな都市で随一洗練された通りにあること、19世紀後半にあえてルネサンス様式で造られた建物だという点も、モダンと伝統が同居する私の靴に呼応していると思っています」
ミラノ本店についてこんな風に語った彼はGINZA SIX店についても「伝統とモダンが融合していて、ブランド哲学とマッチしている」「文化や伝統、建築などの価値がモダンでフェミニンな空間に昇華されている」という点に特に賛辞を述べる。
繊細な編み込みのフロントストラップが効いたアーモンドトゥのメンズペニーローファー“マッシモ”各¥116,600 ※キャメルのみ9月中旬販売予定
靴づくりにおいて彼が最も大事にするのは「女性をより美しく見せる」こと。「私の靴を履く女性一人ひとりの個性が生きるような靴を作っていきたい」と語る。過去にもイタリアの媒体でしばしば“傑作ではなくてそれを飾る額縁”と自分の靴を形容していたが、彼にとって靴はそれ自身が注目の的になるのではなく、履く人を引き立てるものであるべきなのだ。そしてそんな姿勢は、シンプルな中にモード感が漂うタイムレスなデザインと、その履きやすさに現れる。コレクションを構成する際、素材やヒール高などを変えて既存モデルをアップデートしていくのも、どんな嗜好の女性にも合うものを提供するためなのだろう。
コロナ禍において彼は、特にリボンのモチーフに想いを込めたと言う。
デザイナー本人によるリボンスタイルのスケッチ画の数々。
「自分のイニシャルであるGRのかたちに結ばれたリボンは私にとって、この大変な時期から復活するためのポジティブさの象徴です。特に今シーズンは光をとりこんで変化する鮮やかな色と、軽さや透明感がマッチした遊び心あるもので展開しました。コロナ禍では必要不可欠なものだけが必要だと思われがちですが、ファッションはどんな時代にあっても我々に夢を見させてくれる。そして今を乗り越えた後、私達はより強くなれると思っています。
スティレットヒールに施した光を取り込むレザーは、夜の街の灯りがインスピレーション。PVCのクリアなディテールが映える“リボン・ドルセイ”〈ヒール高10.5㎝〉¥123,200/ジャンヴィト ロッシ(2F)
Interview with Gianvito Rossi
Designer
Text: Miki Tanaka Photos: Tomoyuki Tsuruta Editing Direction: Yuka Okada(81)