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偉大な創業者の遺産を守り続ける
ミリアム セラーノ Myriam Serrano
CEO of ALAÏA
メゾン初のクリエイティブディレクターを迎えて
モード界に大きな悲しみをもたらした「ALAÏA(アライア )」の創業者アズディン・アライア の突然の逝去から3年半後となる昨年2月、メゾンのクリエイティブディレクターにピーター·ミュリエが就任した。
〈ピーター·ミュリエ。創業者アズディン・アライアにオマージュを捧げたデビューコレクションでは、新しい始まりを告げる原点回帰としてメゾンのコードを継承。女性の身体をシルエットにフォーカスしたセンシュアルなクリエーションを発表した。〉
ディオールなど複数の高級メゾンで経験を積んだ、ベルギー出身のデザイナーだ。昨年7月に発表した初のコレクション、そして今年1月のセカンドコレクションは、どちらも大きく温かな拍手で迎えられた。かくして創業者を失ったメゾンで、新しい章が始動。4月29日(金・祝)予定で、GINZA SIX 内にいよいよ日本初のブティックがオープンする。
1981年創業の知る人ぞ知るアライア。この名前に馴染みがない人が少なくないのは派手な宣伝もせず、コンフィデンシャルでエクスクルーシブなブランドとしてのポジションを創業者が守り続けたゆえだ。
〈アズディンが自身の作品·芸術·モードの所蔵品を守るべく設立した協会が前身のアズディン·アライア財団は、国に公益性が認められている。かつてショー会場にも活用されていたマレ地区にある19世紀の建物では、定期的にエキシビションを企画。〉
彼が創り上げる女性の身体を美しく見せる彫刻的な服は、一度それを体感した女性たちの誰をも虜にした。小柄だったが、その才能は偉大と称えられた伝説的クチュリエである。
「ピーターの就任は、亡きアズディン·アライア同様にクリエーションの中心となる人物がクライアント、VIP、ジャーナリストに対して必要だ、と感じたからです。服作りに長けているだけでなく、ラグジュアリーの知識、グローバルな視点を持ち、創業者同様にアートやモードのコレクターであるピーターこそがその人だと確信しました」
こう語るのはCEOのミリアム·セラーノ。
〈CEOのミリアム·セラーノ。アライアを着ると体が引き締まるように感じ、強さが与えられると語る。天井のニューソンのライトに呼応するようなアンティークの丸い椅子は、ピーター·ミュリエのセレクション。ブティック内にも過去と現在の対話がある。〉
彼女はクロエから、2019年秋にアライアにやってきた。セリーヌ、ニナ·リッチなどモード畑で着々とキャリアを積んだ、若く美しいエリートである。
「クチュリエの求める高い要求に応えて、パーフェクトに作られたハイレベルの服。以前からアライアというのは私に夢を見させてくれるブランドでした。そのメゾンの発展に一役買えることになったのは、実に栄誉なことです。CEO の肩書きは初めてのことで当然恐れもありますが、自由に任され、様々な可能性を前に興奮しています。想像していた以上にアルチザンな仕事をしていて、家族的なメゾンだという発見もありました。創業者と身近だった昔からのスタッフも多いだけに、彼らと対話を交わし、メゾンを理解することから始め、全員が愛情と情熱を持って前進することを望む状況に至るまで、じっくりと時間をかけました。クリエイティブディレクターを迎えるのはアライアでは初めてのことですが、ピーターの就任は、いいタイミングだったと思っています」
前進は必ずしも変化という意味ではない。リスペクトと謙虚さを忘れずに、過去と現在を上手くつなげてメゾンのアイデンティティを大切に前進し発展させてゆく背景には、守るべきアズディン·アライアのヘリテージがある。クオリティーの高さから、ディテールへの細心の注意、パーフェクトなカット、ボリュームに至るまでにこだわり抜き、アトリエで服を創り上げるクチュール的方法は、ピーターの時代になっても変わらない。
〈左:グラデーションのシースルーデザインが特徴的で、女性のボディラインを美しく見せるドレス 411,400円・レーシーなレザーカットを施したレザーブーツ 198,000円・イヤリング 81,400円/右:アズディンの故郷チュニジアから着想を得たフードディテールが施されたデニム フーディー 159,000円・デニムパンツ 101,200円・イヤリング 81,400円・ベルト 174,900円(参考価格)・サボ 129,800円(参考価格)〉
女性のボディをコレクションの軸に置き、時代を超越する服として時間をたっぷりとかけて作ってゆくことも。また素晴らしいサヴォワール·フェール(職人技)によるニットも未来に継ぐ貴重な財産だ。
「フェミニンでセンシュアル、セクシーといったアティチュードについても守っていきます。アライア を着る女性は極めてエレガントでありながら、肌を露出することも恐れない主張のある強い女性たちです。メゾンのアイデンティティを守りながら、現代のこうした女性たちの期待に応じるべく、ピーターはアズディンの残した多数の遺産を再解釈し、そしてアライアをクリエーションの新しい段階へと導いていくのです」
パリではマレ地区と8区に2店舗を持つアライア。
〈パリのマリニャン通りに8年前にオープンした旗艦店。アズディンと親しかったデザイナーのマーク·ニューソンのデザインによる丸い浮輪型の照明に迎えられる。〉
GINZA SIX店はそのどちらの店とも異なり、新しいコンセプトによる世界初のブティックとなる。ピーターと共同でコンセプトを考えたのは、かつてのファッション·エディターでアズディンとも親交があり、メゾンの過去に精通している女性建築家ソフィー·ヒックスだ。アライアならではのクリエーションの価値を最大に引き出し、来店者がゆったりと時間を過ごせる100平米近い空間が誕生する。
「日本で初めてブランドのあらゆる世界をGINZA SIX店で表現できることになり、アライアを知る女性だけでなく、知らない女性たちにも語りかけていきます。クリノリンのドレスのように洗練された高価な品もあれば、ハイウエストのジーンズといった日常的で手頃な価格の品も。コルセット·ベルトやアイレットが模様を描くバッグをはじめ、アイコニック·ピースを中心とした小物類も多く並びます。そうして様々な価格帯の幅広いセレクションを提案することによって、日本のお客様に満足してもらえたら。新しい世代もきっと気に入る品を見つけられることでしょう。時間と手間をかけて作られ、流行を超えた完成度の高い特別な服であることは、実際に手に取ることで年齢を問わず理解されるはずです」
ミリアム·セラーノ
HEC (パリ経営大学院)、IFM(フランス・モード研究所)で学んだ後、セリーヌ、ニナ・リッチを経由してリッシュモングループのクロエへ。コミュニケーション、アクセサリーなど異なる分野を担当し、2019年9月、同グループにてアライアのCEOに抜擢された。
Text: Mariko Omura
Photos: Mohamed Khalil
Photo Copyright: Paolo Roversi
Edit: Yuka Okada(81)