ALAÏA|Embedded in the Design
空間デザインに潜むもの Vol.1
銀座最大級の商業施設というスケールをポテンシャルにした、それぞれのブランドによる空間デザインも見逃せないGINZA SIX。ここではアライアの新ショップに潜むストーリーを、設計を手掛けた建築家のソフィー・ヒックスのインタビューを通して紹介する。
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ALAÏA (3F)
ピュアであり続けるため、
ローマテリアルに思いを託す
( Retail Design )
写真/GINZA SIXの3Fに4月に誕生したアライアのフィッティングエリア。2つの個室に店内から衣服を届けるラック、回転鏡とライトボックスで、自らの姿を確認できる。
建築のなかに生まれたもう一つの建築とでも形容すべきか。アーティーな空間が並ぶGINZA SIXの3Fに生まれた「ALAÏA(アライア)」のブティックは、鉄骨やモルタルといった重量感ある素材づかいで異彩を放つ。設計はアライアの創設者であるアズディン・アライアと親交のあった建築家のソフィー・ヒックス。そのデザインを知るには、アズディンとヒックスの歴史を紐解く必要がある。
写真/ショップファサードは鉄骨によるフレーム、モルタルと漆喰によって構成される。ヒックスは装飾を好まないが、構造となるトラス架構はアズディン・アライアのイニシャルであるAへのオマージュでもある。素材はいずれも着色せず、生の色を使う。ピュアな素材にはキャラクターがあり、タイムレスだとヒックスはいう。
アズディン・アライアは「キング・オブ・クリング」の名で呼ばれたクチュール界の奇才だ。クリング(まとわりつく)と表現されたように、ボディラインを美しく見せるコンシャスなドレスで彼を知る人も少なくないだろう。「女性の第2の肌」とも言わしめるほどに多くの女性を虜にした彼の本質は、彫刻的なフォルムにあり、それを支えるカッティングと縫製の技術にある。彼は2017年に逝去したが、2021年にピーター・ミュリエがクリエイティブディレクターに就任。アズディンから継承したタイムレスな美しさ、大胆でいて繊細なフォルムでメゾンは次なる歴史をたぐり始めた。
一方ヒックスは17歳にして、老舗ファッション雑誌がティーンエイジャーに向けた特別号のゲスト編集者として仕事を始めた人物だ。高校卒業後も『Tatler』『British Vogue』などのファッション誌でエディターとして働き、写真家のピーター・リンドバーグやパオロ・ロベルシ、アーサー・エルゴートやブルース・ウェーバーらと仕事を重ねた。1986年、彼女は雑誌の世界からアズディンのもとへ移り、2年間にわたって彼の作品集制作に携わる。その後、彼女は幼少期からの夢だった建築家の道を目指した。
ヒックスは、空間のルーツにパリ・マレ地区にあるアズディンのアトリエを挙げる。それは鉄骨がガラス屋根を支える19世紀の建築だ。GINZA SIXでもショップフロントには鉄骨、そしてコンクリートを思わせるセメントと漆喰を使う。いずれも建物の外装材に使われることが多いベーシックな素材だとヒックスは言い、「アズディンは本物の素材に強い欲求をもっていました」と語る。
写真/ピーター・ミュリエによる2度目のコレクションで発表された、ネイビーカラーのマキシサイズのウール製キャバンコート。ボリュームのあるカラーと2サイドポケットがアクセントとなる。上部にボリュームを、下部にタイトなフォルムをもたせた、美しく構築的でアライアらしい一着。¥546,700/アライア(3F)
「彼が好んだのは力強い素材です。そしてピーターもまた、アズディンと同じスピリットをもつデザイナー。彼はいま、アズディンと同じアトリエでスタッフとともに伝統的な技術も使いながらクリエイションに挑んでいます」と語る。また、ピーターからは建築のディテールを撮影した写真を見せながらミニマルな空間を求められたという。
「実のところ、私はミニマリズムが好きではありません。しかし彼が求めるものが、シンプル、ストレート、モダンであると解釈しました。そして同時に彼は、とても面白いことを求めました。ショップを訪れるゲストには普段と違う振る舞いをしてほしい、と。そこで私たちはフィッティングエリアを広く設け、ゲストにいつもと違う行動をとってもらうこと、そしてそのためのサービスを提供することを決めたのです。ゲスト自らがフィッティングで衣服を研究すること。それが私たちの出した答えです。スタッフが服を集めてフィッティングエリアに運び、ゲストは自分のために用意されたレールから服を順々に試着し、服を試します」
鏡とライトボックスが半円形に並べられたフィッティングエリアは、中央に回転する鏡があり、前はもちろん、後ろ姿まで見ることができる。この空間はクチュールフィッティングのエスプリを与えたものだとヒックスは語る。
「アライアは非常に高いレベルをもつクチュールです。ですからそれを感じてもらう空間をも重視しました。この半円形のフィッティングエリアは、ブティックの1/3程度を占めるんです」
写真 1枚目//同じくピーターによる彫刻的なハートシェイプのレザーバッグは、愛の象徴をピュアなフォルムで表現。カラー展開も豊富でアイコニックに楽しめる。“クール”左から¥123,200・¥155,100・¥123,200 2枚目/ロック部分にアライアの“A”をあしらったこの秋デビューのレザーバッグスモール“パパ”(アイボリー)¥281,600/アライア(3F)
ヒックスはさらにフィッティングの壁に防音塗料を用いたことに気づいただろうかと問いかける。塗料本来の色をそのまま用いた壁はわずかに他と色が異なる。共用部や周囲のブティックから漏れる音を抑え、安らいで服に向き合う時間を作る。彼女は、「次はぜひフィッティングエリアで声を出してみて。違いがわかるはずだから」と微笑む。
装飾ではなく機能を伴うからこそ美しい。そのためにピュアであり続け、結果個性が宿る。美のために純粋であり続ける。それこそがアズディンの時代から続くアライアの信念なのだ。
SOPHIE HICKS
Profile:1960年生まれ。17歳でファッション雑誌『Harpers & Queen』のティーン向け号でゲストエディターとして仕事を始める。10年にわたりファッションエディターを務め、アズディン・アライアの写真集『AA』でスタイリングを担当。1988年にAAスクールで建築を学び、1994年に公認建築士となり、多岐にわたる建築に携わる。
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Edit & Text: Yoshinao Yamada
Photos: Junpei Kato
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