House of Design 靴づくりに挑んだ建築家の冒険
Interview with Rem D. Koolaas
Founder & Creative Director
「ユナイテッド ヌード」の靴はしばしば「アーキテクチャルシューズ(建築的な靴)」と呼ばれるが、これはなぜなのだろう。いかなる定義よりまずそのコレクション歴を振り返ってみたい。2003年にロンドンで生まれたユナイテッド ヌードは、どのシーズンのコレクションもアートオブジェのようにデザイン性が高く、従来の靴の概念を打破するような大胆な形状や構造を特徴としてきた。色や素材は時のファッショントレンドを敏感に捉え、新開発素材や技術も取り入れる。さらに建築家が手がける建造物は目的に準ずるものとして機能することが大前提であるように、ユナイテッド ヌードでは靴としての機能、履きやすさが卓越していることに定評がある。
クリエイティブディレクターとしてブランドをリードするのは、現在はロサンゼルスを拠点とする創業者のレム・D・コールハースだ。そのデザインにはヨーロッパのアバンギャルドなセンスが貫かれ、アートやデザイン愛好者からも熱い支持を受けるが、名前を聞けば、アムステルダム出身の建築界の巨匠、都市計画や思想家としても世界的な影響力をもつレム・コールハースを思う方も多いはずだ。もっとも、二人は叔父・甥の血縁で、大学で建築を学んだ甥のレムはかつて叔父の建築プロジェクトにも参加している。すなわち、レムは建築家であり、そんな彼が靴をデザインしてみようと思ったのは、叔父のチームの一員としてプラダのニューヨーク店舗の設計に関わった頃だという。
〈レム・D・コールハース。ユナイテッドヌードの靴の進化を丁寧に説明してくれた。ちなみにこの日着ているボトムスはコラボレーターであり、尊敬を捧げるイッセイ ミヤケのもの。靴以外でも業種を超えてタイムレスデザインを探求するコラボレーションが楽しいという。〉
「アーティストが自由に作品を制作するように、自分も美しく機能性の高いものを作りたいという好奇心から、靴を作ってみたくなったのです。建築は規模が大きく、クライアントと作品が一対一のカスタムメイドですが、靴は実物も製造過程も規模が小さいので、シンプルなフォルムと機能的構造の追求をデザインするなら、建築より自由で多様なアプローチが可能だろうと考えました。ただ、そうして完成させたデザインをミウッチャ・プラダやセルジオ・ロッシなどに見てもらったところ、あまりにも既存の靴からかけ離れていたこともあり『うちのシグナチャーではないから、作ることはできない』といった反応ばかりで…。ファッション業界ではブランドがブランドたるシグネチャーを中枢に展開されていることがよくわかりました」
誰のシグネチャーでもないという理由で商品化できない前衛的なデザインの靴。一方で、そのデザインはレムが作りたかったものだし、いうならば彼のシグネチャーである。そしてレムは英国老舗ブランド「クラークス」の7代目で、靴製造を熟知するガラハド・クラークの賛同を得て、ユナイテッド ヌードを彼と共同創設。2003年に後にユナイテッド ヌードのシグネチャーとなる“メビウス”を発表し、靴業界にクールな挑戦状を叩きつけた。その名の通り、無限大を意味するメビウスの輪のようなシンプルで美しいフォルムに、これまでの靴業界にないスマートなデザインと構造、製造過程をもを見出した背景を、彼はこう語る。
「靴づくりの知識がゼロで何も知らなかったからこそ、これまでにないアプローチのデザインや製造が叶い、新しく自由な発想の靴が誕生したんだ。業界のディスラプトの多くはアウトサイダーによるもの。例えばテスラやスペースXのイーロン・マスクは、自動車産業でも宇宙産業のプロでもなかったからこそ、巨大な業界をディスラプトすることができたように」
〈レムがデザインからプロデュースまでを手がけたローレゾカー。ランボルギーニなどの3D画像の解像度を極力落とし込んだコンセプトへの実験的な試みだ。雑誌『Wallpaper』のデザイン賞受賞後、ミュージックビデオなどにも提供。一台はLAの自動車博物館が所蔵する。このようにユナイテッドヌードは家具、クルマなどのプロジェクトにも携わるデザイン集団だ。〉
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