House of Design 靴づくりに挑んだ建築家の冒険
Interview with Rem D. Koolaas
Founder & Creative Director
デザインに投影される建築家的アプローチ
靴のデザインにはかたちから入ったというレムだが、そのスマートな機能性と快適さ、製造過程の簡易化や効率向上も関心事になっていく。それは細かな手作業が大半の伝統的な靴の製造は将来的でないと見直した結果であり、その視点こそがユナイテッド ヌードでは定番のアイテムですら常にアップデートしている理由でもある。例えば10年ほど前に生まれ、高い人気を誇る“Geisha”モデルは、その後、数タイプのモデルに分裂しながら進化している。他方で来春発売予定の“Wa Hi”モデルはその最新バージョンで、3カ所をアジャストできるストラップ、レザーとファブリック素材の使い分け、軽量素材などを取り入れ、独創的なデザイン性を保ちながらチャンキーで安定性のある靴となった。すなわち、手作業の簡略化や接着剤不要を目指すことで、製造過程も進化し、それが履きやすさにつながっているのだ。
〈今秋GINZA SIX店で出会えるコレクションからレムが選んだ3点。左からシューズ“ストーンレースアップ”(ヒール高5cm) 36,300円/ブーティー“ジンクラン”(ヒール高6cm) 39,600円/ブーツ“スペースキックV”(ヒール高6.5cm) 41,800円〉
「ユナイテッド ヌードがデザインと同じくらい重要視してきたのは、実際に履きやすい靴を作り、お客様のお気に入りの一足になることです。だからこそ一度でもユナイテッド ヌードを経験したお客様には、もう一足、さらに一足とリピートで購入いただくファンが大半で、ある人は『40足以上持っている』と話してくれました」とも語るレム。その上で、建築家は自身の考えを落とし込み、かたちとして実現できるスキルが高いとも続けた。
「ファッションではスタイルに周期があって流行が顕著だけれど、建築やプロダクトデザインではデザインの恒久性が大切です。建築家にとってデザインがタイムレスであることは普遍のゴールで、建築家である僕がデザインを統轄する靴も、例外ではないのです。ユナイテッド ヌードではこれまで実験的なクルマをデザインし、家具や時計もつくっています。現在も新たなクルマのデザインが進行していますが、それは僕たちが常に進化するタイムレスなデザインを捉えようとしているから。ユナイテッド ヌードがランウェイでコラボレーションをしているイッセイ ミヤケも、ファッションでタイムレスデザインを極めたブランド。20年前の商品が今なおモダンで特別な服だなんて、素晴らしいことです」
一方でコロナ禍で人々がおしゃれをして外出する機会が激減し、ハイヒールの需要が激減した状況を受けて「実はコロナ以前から始まっていた快適性のトレンドが加速しています。今後も履きやすい、チャンキーな靴がより受け入れられることになるでしょう。安定性を優先したデザインでも、新開発フォームなどを使用すれば重くならないし、製造法を改善することで、よりつくりやすく履きやすい靴になり得る。パンデミックの振り子効果でハイヒール人気が高まるかもしれないけれど、チャンキーはきっとメジャーなトレンドになるはず」とも今後を予想する。
〈82年のデロリアンはレムの愛車。そのブランドマークがユナイテッドヌードのロゴと似ているのは偶然ではない。〉
最後にユナイテッド ヌードというブランド名についてレムに聞いてみた。拠点とする近年のアメリカでは、特に分断や差別への問題意識が高まり、分断に対する団結(ユナイテッド)やありのままの自身(ヌード)についての認識と会話が深い意味をもつからだ。
「ブランド発足当時はユナイテッド ヌードという名前が挑発的すぎると不評でした。でも今ではムーブメントの名称に使えるほど、時代に迎合しています。『なりたい自分になる』というメッセージという意味において」
この秋、GINZA SIX店にはユナイテッド ヌードの新しいコレクションが並ぶ。一捻りしたチャンキーソールをあしらったスニーカーや洗練された新素材を組み合わせたファッション性の高いヒールなど、改めてなりたい自分の一片を見つけに、ぜひとも出かけてほしい。
Text: Chinami Inaishi
Photos: Kaori Suzuki
Editing Direction: Yuka Okada(81)
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