GINZA SIXを刺激する表現者たち
これまで、そしてこれから。今特集ではGINZA SIXをさまざまに彩るアーティストとクリエイターをスクープ。その表現は実に幅広いが、等しく人々を魅了する存在として、時代はなぜ彼らを求めるのか。その答えの一端を、それぞれの創作の現場と現在の言葉から解き明かす。
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[Public Art]
Yoshirotten
Artist, Creative Director
-Nakameguro-
写真/YOSHIROTTENさんの仕事場。左から手前のコントロールパネルでモニタ上のグラフィックを触覚的に操作して楽しめる《RGB Machine》、絵画作品《PUDDLE》、2022年にGINZA SIXのために制作したモニュメント《WARMEST WISHES》の一部、近年の代表作のひとつ「SUN」のアルミニウムプリント版。
Limitless Creative Possibilities
グラフィックを拡張し、創造力を拓く
平面から、立体、映像、そして公共スペースを舞台にしたパブリックアートまで。多彩な表現を展開するYOSHIROTTENさんの現在地。
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クリエイティブディレクターであり、美術家であるYOSHIROTTENさん。彼の創作を振り返ると、その幅広さに驚かされる。ファッションブランドのプレゼンテーション、ミュージシャンのジャケットやミュージックビデオ。GINZA SIXでは、2022年のホリデーシーズンにエントランスでアートモニュメント《WARMEST WISHES》を展示。2023年には屋上の「GINZA SIX ガーデン」にアートパークを出現させるなど、ビジュアルから空間まで、その多彩さとともにスケール感もどんどん増している。
ものづくりに関心を持ったきっかけは、学生時代に出合ったコンピュータ。光を放ちモニタに浮かぶグラフィックに惹かれ、自分も作ってみたいと思ったのだという。
写真/ 1枚目. 創作の断片や実際の作品が、その脳内を辿るかのように無造作に置かれている。 2枚目.最近、アトリエを借りるビルの一室に個室を設けたYOSHIROTTENさん。「今でも僕の創作の基本はグラフィック。ただ、たとえばモニタに現れているグラフィックはどんな素材にアウトプットするかで、平面にも映像にも立体にも空間作品にもなります。僕がこの数年、実践してきたことは、ある意味でグラフィックをどのように拡張していけるのかということだったとも思います」
それがよくわかるのが、コロナ禍に始めた代表作「SUN」プロジェクトだ。鮮やかなグラデーションで描いた丸い太陽のアートワークのシリーズで、そのビジュアルをレコードジャケットやオブジェ、NFT、さらに公園やビーチを舞台に、巨大なオブジェや映像を体感できる大規模なインスタレーションへ展開した。面白いのは、それぞれに得られる体験が異なることだ。ジャケットは手に持ってじっくり眺めたくなるし、インスタレーションでは空間への没入感に浸りながら、そこに集った多くの人とその時間を共有できる。それぞれに独自の価値と魅力がある。
写真/ 1枚目. 「SUN」のアクリルオブジェ。 2枚目.宇宙への関心が強く、ソーラーパネル製家具や人工衛星で使われる素材にグラフィックを描いたアートワークなど「宇宙へ持っていける作品」が並ぶ。そして期待されるのは2024年秋、出身地鹿児島県の霧島アートの森で開かれる個展『FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima』だ。展示作品の多くは霧島の自然が主題に。公立美術館での個展は意外にもこれが初めてだ。
「僕はギャラリーで作品を売ることよりも、なるべく多くの人に作品を見てもらいたいと思って制作してきたので、公共の美術館での個展はずっと目標にしていたこと。霧島は火山地帯で、固有の自然環境があります。そこに生息する植物や岩肌など、自然のディテールをスキャニングした作品を含め、新しい実験的な作品も多く見せる予定です」
その創作が向かう先を本展で目撃したい。
YOSHIROTTEN
1983年鹿児島県生まれ。アーティスト、クリエイティブディレクターとして活動。10月8日から霧島アートの森で個展『FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima』を開幕。
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[Premium Lounge]
Sayoko Sugiyama aka Okashimaru
Japanese Confectionery Artist
-Kyoto-
写真/京都市内のアトリエに佇む杉山さん。現在は新しい拠点への移転を予定。
The New Era of Wagashi
季節を感じ、味わう、和菓子の新地平
無二の創作で注目を浴びる「御菓子丸」こと杉山早陽子さん。その独自の歩みが見据える、現代の和菓子とは?
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きっかけは一冊の本だと、御菓子丸の名で和菓子を提案する杉山早陽子さんはいう。重厚かつ雅なイメージの和菓子を軽やかに表現した本に触れ、現代的な和菓子を自ら表現したいと考えるようになった。杉山さんは花鳥風月を尊ぶ和菓子の精神を継承しつつ、素材、食感、そして佇まいで新たな和菓子の未来を切り拓く。2023年にはGINZA SIXのプレミアムラウンジ「LOUNGE SIX」でも、限定で提供された。
大学卒業後は京都の老舗和菓子店に就職した。職人の仕事を望むも、30キロの砂糖袋を肩に担ぐことが求められる男性社会だった。販売員を続けながら機会を狙ったが、そのうち自ら和菓子を作り始める。やがてそれが評判を呼び、勤務の傍ら納品を始めた。
「当時は従来の和菓子作りを模倣することに精いっぱいでした。羊羹を炊けば火傷し、道具も一から使い方を独学で覚えて。仕事を終えてから徹夜で和菓子を作って納品をしていました。会社が副業を認めてくれたことや職人さんから教えていただくなど、望んだのとは違うかたちで修業時代を過ごしたのです」
写真/ 1枚目. 果実を使った琥珀糖「鉱物の実」は御菓子丸のシグネチャー。 2枚目.季節のフレッシュな素材を使う和菓子は自然な甘さで、これまでにない優しい味わいを特徴とする。御菓子丸の名で活動を始めたのは2014年のこと。そこで味の表現を追求することに関心が高まった。和歌の言葉遊びにちなみ、季節ごとに姿を変えるのも和菓子の魅力だと杉山さん。しかし一方で餡を主体とするため味に大きな変化はない。「たとえば、春の山をモチーフにした和菓子を食べたら春の味がする。物語を視覚的に表現し、そこに思いと美味しさを重ねることに新しい可能性を感じ始めたのです」と当時を振り返る。この時期、果皮を淹れた琥珀糖「鉱物の実」を作り始める。色も風味も出るうえに、自然の甘みがある。和菓子はもともと柑橘がルーツにあるといわれ、果実が化石になったようなイメージを形にした。いまや代表作だ。
杉山さんは和菓子に惹かれた理由を「食べるとなくなってしまう」ことにあると笑う。
「そんな当たり前が、私にとってはとても面白く大発見でした。当然、私が作った菓子は100年後には残っていません。今、この時代をともに生きている面白さが食にはあるのではないでしょうか。自分の体験や記憶に結びついて、味を思い出すことがあります。大切な誰かと楽しんだ味。記憶の断片に結びついて、それを引き出す装置でありたいという思いがあります」
だからこそ五感で感じる和菓子でありたい。杉山さんはそう静かに語ってくれた。
杉山早陽子
1983年三重県生まれ。老舗和菓子店での修業を経て、2006年より10年間にわたって和菓子ユニット「日菓」として活動する。2014年より「御菓子丸」を主宰する。
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[Acne Studios]
Halleroed
Design Studio
-Stockholm-
写真/クリスチャン(左)とルクサンドラ(右)。
A Space that Resonates and Redefines
空間で再定義するブランドの精神
H&MのARKETやBYREDOなど、多くの北欧ブランドの空間を手がけるHalleroed。ストックホルムにあるスタジオで主宰の二人が語ったGINZA SIXに誕生したACNE STUDIOSの空間デザインの裏側。
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北欧から発信される高感度なブランドのストアデザインを数多く手がけるデザインスタジオ、Halleroedのクリスチャン&ルクサンドラ・ハレロード。彼らとACNE STUDIOSの関係は20年ほどになるという。なかでも創業者の一人、クリエイティブディレクターのジョニー・ヨハンソンとは長い付き合いで感覚を共有してきた。
「ジョニーは、建築、インテリア、デザインをはじめ、アートやカルチャー全般に深い理解がある人。彼との対話はいつも適切なフィードバックを得られる。新しいストアデザインのコンセプトを固めていくプロセスは常に楽しいものです」と、二人は語る。
写真/ 1枚目.GINZA SIXのACNE STUDIOSのプランを語るクリスチャン。 2枚目.ルクサンドラが手にする洗面ボウルの試作品はACNE STUDIOSのパリオフィスで使われているもの。手前のスツールはスウェーデンのデザイナー、アントン・アルバレスの作品。 3枚目.ヴィンテージのアームチェアはオークションで購入。2024年4月にオープンしたGINZA SIX 3階のACNE STUDIOSは新しいコンセプトを反映した日本初のストアだ。オリジナルで開発したピンクアルマイトのディスプレイキャビネット、これまでも協業してきたデザイナーのマックス・ラムによるシルバーレザーのプーフ、ロゴを組み込んだ漆喰の壁、ミニマムなインテリアにアクセントを与える毛足の長いグレーのカーペットといった要素で構成される。
「コンセプトは、ロボティック、メカニカル、未来的だけれどローテク。以前よりもソフトでエレガントな雰囲気だと思う」とルクサンドラ。クリスチャンは「ジョニーから一枚の画像を渡され、それをもとにディスプレイキャビネットをデザインしました。当初は大きな金具を使うステンレススチール製だったけど、より軽やかなデザインにしたくてピンクのアルミ製に変更しました。シグニチャーカラーのピンクはシャープな印象のアルミで表現し、素材や色味でスイートになり過ぎないように検証を重ねました」と応える。
「ストアデザインは一目でブランドを認識できるよう、それぞれのブランドらしさを明確に、そして正確に表現する必要があります。ブランドを深く理解し、物理的な空間の中で新たな美学を生み出すことはとても興味深くやりがいのある仕事」と二人は言う。では、そのなかにあるHalleroedらしさとはどのようなものなのだろう。「それぞれのブランドの個性を表現する仕事において自分たちのスタイルというものはないけれど、しいて言えば素材の扱いやディテールへのこだわりでしょうか」と、ルクサンドラ。クリスチャンは「ミニマルを意識しているわけではないものの、やはりスカンジナビアのミニマリズムがベースにあるのかもしれない」と続ける。
写真/ 1枚目. 手にするのはピンクアルマイトのキャビネットの一部。 2枚目.ジョニー・ヨハンソンとのブリーフィングで渡された、新たなストアデザインのコンセプトイメージ。 3枚目.スタジオはかつてマンションの共同ランドリーだった場所を改装した。「僕らは常に要素を3つほどに絞り、丁寧かつわかりやすくデザインすることを心がけています。ファッションの店舗はあくまで服が主役。空間に商品が入って初めて完成するものだし、商品も入れ替わりますしね」
ストックホルムのでクリエイターやアーティストが多く暮らすセーデルマルムのスタジオは、アパートの共同ランドリースペースを改装したというコンパクトなワンルーム。娘が生まれたタイミングで職住近接にしようと移転した。スタジオにはプロジェクトのプロトタイプ、ヴィンテージのスウェーデン家具、コラボレーションもする友人のアーティスト、アントン・アルバレスのカラフルな陶芸やガラス作品などが並ぶ。訪れた日のスタジオには彼ら以外たった一人だけ、他に育児休暇中のスタッフがいるという。世界的に活動しながら、「すべてのプロジェクトに自分たちが深く関わり、クオリティをコントロールしたい」と、これ以上その規模を拡大するつもりはないと語る。
「短い滞在時間の中で、それぞれのストアでどんな体験を提供し、ブランドへのインスピレーションを得てもらえるか」を常に考えているという二人。彼らが再解釈したブランドの精神を隅々から感じられるGINZA SIXのACNE STUDIOSを、お見逃しなく。
ハレロード
1998年設立のストックホルムを拠点とするデザインスタジオ。家具職人としての経験をもつデザイナーのクリスチャン、建築家のルクサンドラ・ハレロードは公私ともにパートナー。北欧ブランドの店舗を中心に、世界各地でプロジェクトをもつ。
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*掲載内容は9/2(月)時点の情報です。
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Editor in Chief: Yuka Okada (81)
Edit: Yoshinao Yamada
Text: Yoshinao Yamada (Introduction, Sayoko Sugiyama aka Okashimaru)、Masanobu Matsumoto (Yoshirotten)、Sanae Sato (Halleroed)
Photos: Hiroyuki Takenouchi (Yoshirotten)、Haruhi Okuyama (Sayoko Sugiyama aka Okashimaru)、Sanna Lindberg (Halleroed)
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