Luxury is Forever 顧客との絆が生んだ最高級品
Interview with Giovanni Nodari Serapian
Head of Bespoke & Serapian Patrimony
「私たちのファミリーは店で顧客と接することをずっと大事にしてきて、操業当時からのそうした顧客との近しい距離感が今でもブランドに生きていると思います。顧客とのやりとりから“シークレットバッグ”のような製品も生まれています。これは秘密のポケットを作ってほしいというお客様の個人的なリクエストから生まれた、内側の裏地部分に隠しポケットが付いたトートタイプのバッグですが、今では人気アイテムの一つとなりました(※現行モデルには隠しポケットはない)。その秘密のポケットに何を入れるのかは、あえて誰も聞きませんでしたけどね(笑)」
他方、コロナで店を閉めざるを得なかった一時期には、顧客が本当に必要とする商品について考え直したとジョヴァンニはいう。それはオンラインで顧客の意見を聞く機会が増え、よりニーズを知ることができたことにも因る。例えば、ブリーフケースはこれまで同ブランドの主力商品の一つだったが、オフィスのあり方が変わっている現在、ビジネスバッグとしてのリュックに注力した。そして図らずして得た多くの時間で、家族との時間を持てたのは、個人的にもブランドのためにも貴重だったようだ。
「これまでにはあまりなかった家族と過ごす時間を楽しんだだけでなく、商品についても沢山話す機会がありました。特に妻からは女性目線の様々な意見をもらいました。セラピアンはこれまでもファミリーの絆を大事にしてきたブランドですが、一緒にブランドを築いてきた創業者夫婦の時代に戻ったような感じですね」
〈貴族の庭の一部として建設され、建物を覆う緑が有名なミラノを代表するアールデコ建築、ヴィッラ・モーツァルト内にある本社。〉
コロナ禍において、ファッションはおざなりにされた部分が否めないが、ジョヴァンニは「これからは長く使える上質なものがより求められる時代だ」と確信している。
「数カ月で終わってしまうトレンドアイテムよりも、本当のリュクスを強く求めているように感じます。特に日本のお客様は品質や仕上げのクオリティへの関心が高いので、セラピアンにとっても好機です。そしてそのあり方は、結果的にサステナビリティにもつながると思います。使い捨てをしないことで環境へのインパクトも少なくなるわけですから」
サステナブルといえば、セラピアンでは近年エコ素材開発に注力している。昨年からはブドウの搾りかすから採った繊維によるエコレザーのラインを展開。そして次回のコレクションではリンゴの繊維で素材を作る予定だとか。このような新素材の開発には創業以来築いてきた、サプライヤーとの信頼関係も大きい。
〈工房に展示されたパターンや工具たち。〉
そしてこのような時期だからこそ、ビスポークやパーソナルなケアにもより力を入れている。これはセラピアンゆえにできるサービスであり、人と人とが離れ離れになっている状況下、より顧客との結びつきを大事にしたいからだ。単にパーソナライズされたオーダーができるだけでなく、オンラインでお客様とセラピアンのスタッフが直接話をして意見を交換したり、職人が実際に作業をしている状況を見ることができる“Client to Craft”というサービスもスタートした。セラピアンの本社の地下には、1947年に発表されて以来、同ブランドの代名詞的存在となっているナッパレザーを編みこんだ手法“モザイコ”の工房があるが、そこにオンライン配信用の照明セットを設置して、職人の作業状況を顧客にリアルタイムで届けている。
ちなみにこのサービスはGINZA SIX店でも取り入れている。ジョヴァンニ本人は残念ながら、まだ実際に日本に来て店に足を運ぶことができずにいるが、寄せる期待は大きい。
「日本のお客様は洗練されたセンスがあり、セラピアンはこれまでも大変高い評価をいただいてきました。特にGINZA SIXのお客様は文化的にもとてもレベルが高いと聞いていますので、セラピアンの芸術的な商品をご理解いただけると思います。そして改めてイタリアのクオリティの素晴らしさを体験していただきたいですね。そしてこれまでもセラピアンがお客様たちの意見を大事にしてものづくりをしてきたように、私も早く皆様にお会いしてご意見を伺いたいと思います。それによって、もしかしたら、第二の“シークレットバッグ”が誕生するかもしれません(笑)」
〈黒のグラデーションを施し“モザイコ”を駆使した、幾何学な菱形が特徴のバッグ。創業者が残した8,000近いデザインの中にあったものを現代風にアップデートした。“ベトラバッグ”〈高さ20 × 幅15 × マチ9 cm〉 147,000円(ショルダーストラップ付き)〉
Text: Miki Tanaka
Photos: Tomoyuki Tsuruta
Editing Direction: Yuka Okada(81)
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