GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
いつだってGINZA SIXは楽しい GINZA SIX Is Fun Whenever
澤田 真幸
隅田川を渡った先に住んでいることもあって、銀座は何かと近く、普段からふらっと訪れることが多い。銀座という街の魅力は、それこそたくさんあるけれど、個人的には懐が深いところだと思っている。目抜き通りにはきらびやかに彩られたハイブランドのメゾンが立ち並び、値段も格式も最高級のお店が集まる一方で、すぐ横の路地を一本入ると100年続くいぶし銀の老舗や気軽に入れる庶民的なお店が軒を連ねる銀座は、いい意味での敷居の高さがありながら、それでいて間口は広く、いつどんなときでもここに来れば楽しいと思わせてくれる懐の深さがある。
実は、これと同じようなことをGINZA SIXにも感じている。世界各国から個性豊かなお店が集まった館内は、さながら諸国漫遊の趣があり、行くたびにテーマパークに迷い込んだかのような高揚感を覚え、その感覚はオープンから2年近く経った今も変わらない。特に目的がなくても、GINZA SIXに行けば必ず何か楽しいことがある。今回もそんな気持ちでGINZA SIXをぶらりと訪ねてみた。
館内に入り、2Fに上がると、頭上に巨大なアート作品が展示された吹き抜けの空間が現れる。GINZA SIXはフォトジェニックな場所が多いけれど、この空間が個人的にいちばん好きだ。特に上階へと向かうエスカレーターから見る吹き抜けの景色は格別エモーショナル。上がっていくにつれて眼下の景色が広がり、それはまるでひとつの街が立ち現れるような感じで、いつ見ても心が躍る。中央のアート作品はおよそ半年で展示替えするらしく、現在はニコラ・ビュフの作品が飾られているが、2月27日より塩田千春による新作インスタレーションが展示されるという。どんな景色が立ち上がるのか、楽しみだ。
そのままエスカレーターに乗って5Fへ。今使っている名刺入れが少しくたびれてきたのを思い出し、「ソメスサドル」を覗いてみることにした。「ソメスサドル」は1964年に北海道歌志内市で創業した、日本で唯一の総合馬具メーカー。世界で活躍するトップジョッキーのための鞍や宮内庁に納める馬車具を手がけるほか、バッグや財布などの革製品も製作している。以前ここのバッグを取材したことがあり、革の品質に対する徹底的なこだわり、オールハンドメイドによる妥協のないものづくりに共感する部分が多く、ずっと気になっていたのだ。
まず手に取ったのは、希少素材である馬の尻部分の革、コードバンを使った定番シリーズ「ハノーバー」の名刺入れ(14,000円 ※以下全て税抜価格)。コードバンはほかの革に比べて水に弱く、濡れるとシミができるという弱点があるが、やはりこの独特の深い艶と色合いは魅力だ。
コードバン以外にもカーフを使ったアイテムもあり、そちらも文句なしに上質。そして、名刺入れを見たあとは、バッグもチェック。気になったのは、「ソメスサドル」がシューズデザイナーの坪内浩をデザイナーに迎えて2014年にスタートしたHTレーベルの「BOSTON L」(180,000円)。革はしっとりと柔らかく、馬具用のミシンで仕立てられた丸いハンドルはいかにも丈夫で手に馴染む。底の四隅には厚い牛革が当てられているので、汚れや衝撃を必要以上に気にしなくて済むのもうれしい。2泊3日程度の旅ならリュックで出掛けることが多いけれど、こういうボストンもいいよなと思った次第。
「ソメスサドル」の商品は、名刺入れにしてもバッグにしても、どれもこれ見よがしではない品のよさがあって、大事に長く使いたいなと思わせるものだった。そもそも革製品はちゃんとケアすれば、一生付き合えるアイテムだ。軽やかにトレンドを楽しむマインドも必要だが、ひとつのものを大事に使い続けていくことの喜びはちゃんと知っていたい。使い込むと色艶を増し、経年変化とともに自分だけの味が出てくるレザーは、これからの自分の目指すべき生き方とも重なるようで、俄然愛着が湧く。しかも、「ソメスサドル」はサービスも手厚く、購入時に無料でネームを刻印してくれるだけでなく、店内に併設したメンテナンススペースでは革の手入れに欠かせないオイルアップも無料で行っている。万が一壊れたときは修理専門のチームがいるので、その点も安心万全だ。
続いて向かったのが、「シボネケース」。南青山にある「シボネ」からスピンアウトしたこのお店は、ライフスタイルショップが集まる4Fの中でもひときわ存在感を放っている。取り扱っているのは、国内外のクリエイターの作品や現代の日本のものづくりなど、ジャンルにとらわれず、自由な切り口で集められたプロダクトたち。個人的にインテリア雑貨が好きでいろいろなお店を覗いているが、ここはセレクトが自分好みなので、インテリアのヒントをもらうためのショーケースとしてGINZA SIXに来たときは決まって立ち寄るようにしている。
「こういう使い方はたしかにいいかも」「これはいいアクセントになりそう」。そんなことをあれこれと想像しながら店内を回遊。店内の一角にはギャラリースペースがあり、約1カ月ごとに新たな企画を展開しているのだが、そこで新しい作家を知ることもあり、それもまた楽しみのひとつになっている。日々の暮らしの解像度を高めてくるグッドデザインなプロダクトとの出会い。訪れるたびに新しい発見の喜びがあり、ついつい時間が経つのを忘れてしまう。
欲しいものはたくさんあったが、その中から今回は2つをチョイス。埼玉県で陶工房を営む鳥居明生の作品は、陶の塊を窯で焼き、表面を磨いてつくったもの(3,981円~)。例えばこれは一見すると茶筒のようだが、蓋はなく、言ってしまえばただの筒状のやきものなので、ペーパーウェイトにしたり、アクセサリーや小物を置いたりと、使い方は自由。自分だったらどう使うだろう? 単なる道具としての機能を超えて、使う側の想像力を試されるのが面白い。プレゼントとして贈るのもいいかもしれない。
カラフルなうつわたちは、千葉県にアトリエを構える竹村良訓の作品。決まった型はなく、形も色も即興でつくり上げていくスタイルのため、出来上がった作品はひとつひとつフォルムや色彩が異なり、それぞれに魅力がある。本音を言うと全部欲しいが、気になったのは、一輪挿しタイプのもの(ショートピースB/5000円)。何を飾って、どこに置こうか。新しい暮らしの風景を想像するこの時間が何とも楽しい。
最後は、B2Fまで降りて、フーズフロアへ。このあと人に会う予定があり、そのときに渡す手土産を探しにやって来た。人と会うときはできるだけ手土産を用意するようにしている。しかし、この手土産が難しいのだ。量や値段、見栄え、味など、考え始めたらキリがない。だから、いい手土産を知っているかは、できる大人のバロメーターだと思っている。
そんなできる大人におすすめされたのが、「甚五郎」だ。「甚五郎」は、栃木県日光市で1907年に創業した老舗米菓店「日光甚五郎煎餅 本舗 石田屋」が都内に初めて出したお店。名物はもちろん、煎餅である。なかでも、GINZA SIX限定となる「匠美」は絶品と評判で、わざわざ買いに来る人も多いという。
うるち米ともち米をブレンドしてつくられ、ざくっとした噛みごたえと豊かな風味が特徴の「匠美」。味は全部で6種類(しお、海苔しお、海苔醤油、海老、胡麻味噌、梅ざらめ)あり、いちばん人気は「しお」(18枚入り1,200円)。ひと口食べると、口の中に洗練された塩のうま味が広がり、いやあ、これは評判以上のおいしさ。パッケージも洒落ているので、手土産に最適だ。
ほかにも、店内にいろいろな味の煎餅がずらりと並び、気になる味は試食させてくれるので、辛党な自分は「スパイシーカレー」(445円)をリクエスト。世の中にあるカレー味の多くは辛さがもの足りなかったりするが、これはかなりスパイシーで大満足。さらに、店員さんとの話の流れから、「パクチー」(445円)も試食。パクチーは苦手だけれど、「そういう方にこそぜひ食べてみてほしい」と店の人に言われ、トライすることに。うん、たしかにパクチーだ。でも、レモンの風味が効いて、イヤじゃない。むしろこれ好きかも。
店名の「甚五郎」は、日光東照宮にある「ねむり猫」の作者としても知られる伝説の名工、左 甚五郎に因んで名付けられたという。この左 甚五郎は謎が多く、実在の人物ではなかったとも言われているが、彼がつくったとされる作品は今も全国に100か所ほど残っている。ことさらに蘊蓄をひけらかすのは野暮だけれど、手土産がちょっとした会話のネタになるのはありがたい。その点でも、「甚五郎」はおすすめだ。
ノープランでふらっとやって来ても、何かしら楽しい出会いがあり、必ず満足して帰ることができる。自分にとってGINZA SIXは、日々の暮らしを楽しくしてくれる場所だ。そういう場所があったほうが、人生は間違いなく豊かになると思う。GINZA SIXがあって本当によかった。
Text:Masayuki Sawada Photos:Yuichi Sugita Edit:Yuka Okada
GINZA SIX EDITORS Vol.73
澤田 真幸
エディター、ライター。1975年生まれ。埼玉県出身。早稲田大学商学部卒業後、IT企業での会社員生活を経て、フリーランスのライターに。現在は、幅広い分野での人物インタビューを中心に、雑誌や書籍、ウェブ、カタログなどで編集・執筆を手掛けている。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中