JAPAN DENIM NOW その今を知るジャパンデニムの旅
穏やかで深い青を湛える瀬戸内海。その色を映し出すかのように、海沿いで織られるのがメイド・イン・ジャパンのデニムだ。世界で高く評価される美しいデニムを日本で最も生産しているのが、広島県福山市であることは思いのほか知られていない。福山を中心に産地とデザイナーをつなぐブランド「JAPAN DENIM」初のショップが、3月5日にGINZA SIXにオープンした。地域に受け継がれるものづくりの文化を土台に、次なる時代と世界への展開を見据えた新たな取り組みを追いかけていこう。
歴史と先進性宿るデニムを
糸を染め、糸を織って完成したデニムで「縫製」を行う日本デリバリーサービスもまた、新旧の技術を織り交ぜたものづくりに力を入れる。他の工場と違い、近代的なビルの一室にはコンピューターが並ぶ。彼らはまず、デザイナーがおこしたパターンから生産を見据えた縫製仕様に設計ソフトを用いて引き直す。時に、衣服にかかる負荷を計算しながら強度ある仕様への見直しを提言することも。
〈設計図をもとに、身体の圧や動きからデニムのどの部分にダメージが発生しやすいかをシュミレーションする。ダメージが大きくなる箇所は設計を見直し、負荷の少ない形を探る。〉
同じくデジタル化された裁断機で、端布を最小限に抑えて丁寧に布を裁断。一方縫製作業では、ジーンズマニアから絶大な支持を得ているアメリカ製のヴィンテージミシンを用いて味あるチェーンステッチを現在に届ける。
〈電子制御の機械を積極的に取り入れる一方、アナログなヴィンテージミシン、ユニオンスペシャルを使う。このミシン特有のチェーンステッチが、デニム好きの心をくすぐる。〉
縫製を経てひとまずの形を見た製品は、「加工」を経て完成を迎える。四川は、ミネラル分を多く含む海洋深層水を用いた独自の加工法「オーガニックウォッシュ」を開発した事業者だ。
〈縫製後の製品を洗うことで、最終的な表情を生み出すのもデニムならでは。四川では月に何度か、海洋深層水を運ぶために高知県室戸市まで往復する。海洋深層水のミネラルが独自の表情を出す。〉
ストーンウォッシュやブリーチといった耳慣れた言葉は加工法を示すものだが、近年は環境負荷が大きい手法ゆえに見直しが進んでいる。四川は高知県室戸市で海洋深層水を取得し、人工的な塩素系・水素系漂白を用いずに黄みがかったダスティーブルーを表現する。生地を傷めることなく、長年履き込んだ雰囲気を作る技術に定評がある。こうしてデニム製品は完成を見せる。
〈かつては天然石を用いたストーンウォッシュも、現在はセラミック製の人工石を使って洗いを掛ける。削れるスピードが速かった天然石に対し、セラミックは長持ちし、環境にも優しい。〉
4つの工場を巡り終えると、髙垣さんは「私自身もはじめはデニムの深い知識はなく、まずは産地の事業者さんを回らせていただきました」と振り返った。現在は80社以上ある事業者のうち70社ほどを回り、それぞれの強みを知り、産地全体でできることを考えるようになったという。一方、髙垣さんをはじめとするアクセの面々はユーザーに製品を届けてきたプロだ。潜在的なニーズを探りながら、事業者、デザイナーとともに、新たなデニムのコレクションを考えている。
「これまでも私たちはお客様を見つめ、デザイナーと話し、ものづくりを届けてきました。ジャパンデニムの試みは、これまでにやってきた事業が一つに繋がったように感じます。今回はそこに事業者のみなさんが連なりました。我々バイヤーが考えるのは、探す楽しみがあり、絶対に買えるものがあるブランドなのです」と、その言葉は力強い。
〈髙垣さんが手にするのはフェイクレイヤード仕立ての「CULLNI(クルニ)」のデニムジャケット。カジュアルになりがちなデニムジャケットにテーラードの要素を加え、上品に仕立てた。バックスタイルはダーツのみのシンプルなデザイン。〉
現在、ジャパンデニムに参加する16ブランドのうちのひとつで GINZA SIXの5Fにも店舗を構える「KURO(クロ)」の八橋佑輔さんは、デニムへの知見を活かしたものづくりで知られるデザイナーだ。彼は福山のものづくりを、「工場はトレンドを求めず、技術を磨き続ける場。だからこそ、常に僕のものづくりは工場の職人から影響を受け続けているのです」と語り、新たな取り組みによって「ファッションにおいてデニムは独特の区分がなされています。だからこそ、現状の垣根を超すことでさらなるファン層を獲得できるように思えるのです」と期待を寄せる。
それを受け、「これまでの経験から、デニムに精通し、ユーザーのみなさまに喜んでいただけるブランドにお声がけしました。とはいえ個々の事業者の技術や特徴をデザイナーの誰もが知るわけではありません。作りたいものに合わせた結びつけなど、コーディネーションにも力を入れています。またブランド単体では最低ロットの確保が難しい生地の提供など、この仕組みだから実現可能な挑戦もあります。そしてそれは産地にとっても刺激となることを願います。両者にとって可能性を広げていくことで、産地の未来、そして次世代にも届ける試みなのです」と髙垣さん。
さらにジャパンデニムの製品すべてに、産地と事業者名、その情報につながるQRコードを載せたラベルを添えた。これまで裏方であった産地を視覚化し、トレーサビリティーにも力を入れる。これは産地の事業者にとっても、新たな顧客確保につながる新しい取り組みだ。デニムという言葉に集約される織物だが、濃淡豊かな青の表情、生地の性質や表情は進化を続けている。そこにデザイナーのクリエイティビティが加わると、たった一つの言葉では表現のできない無限の可能性が宿る。藍に宿る歴史と先進性、そんなデニムがGINZA SIXを刺激する。
次なる時代のデニムを目指して
現在ジャパンデニムは「08サーカス」「チノ」「クルニ」「エズミ」「ロキト」「マーカ」「ミュベール」「ウジョー」「リプレイ」「ヤヌーク」など、国内外の16ブランドが参加。
GINZA SIXのショップオープン時には、レディス、メンズ、ユニセックスの35アイテムが揃う。
Text: Yoshinao Yamada
Photos: Ooki Jingu
Edit: Yuka Okada(81)