GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
アートと暮らすライフスタイルを提案する場 New Possibilities for Living with Art
河内 タカ
銀座という街を一言で表すならば、「古いものと最新のものが集まりつつ、常に進化し続けているところ」ということになるのかもしれません。それはつまり国内外からの最先端のものをいち早く受け入れながら、その一方で日本の伝統的な手工芸品を扱う老舗が共存しているという意味合いを含んでいます。そんな場所柄を象徴するかのように、最新のアートやデザインという要素を取り入れることで新たなライフスタイルのあり方を提示しているのがGINZA SIXであり、中でも6階フロアの大部分のスペースを占める銀座 蔦屋書店は「Art Is Life」をテーマに掲げる今までになかったような意欲的な書店です。
アートやデザインやファッション関連の書籍を常時約6万冊以上取り揃え、その圧倒されるアートブックが軒を連ねる通称 “アートストリート” を歩くと、この書店の本気度合いを肌で感じられるのではないでしょうか。迷路のような店内はそれぞれ日本文化、写真、文芸、西洋美術、日本美術、ファッション、デザイン、建築、雑誌に分けられ、アートが特に好きな人でなくても必ずや自分の琴線に触れる1冊に巡り会えるはずです。
ロンドンのTate Modern、そしてニューヨークのMoMA(そういえば、MoMAの建築を手がけられた谷口吉生氏がまさにこのGINZA SIX の外装設計もされたんですよね)といったハイレベルの美術館に併設されている書店よりさらに一歩も二歩も踏み込んだ本のラインナップであり、当然のごとくオンラインショッピングでは味わえないようなリアルな醍醐味に満ち溢れています。
嬉しいことに自分の著書である『アートの入り口』もちゃんと置かれていました。欧米のアーティストや写真家に関しての人となりを書き綴った2冊なのですが、本の中で取り上げた約150名にも及ぶ画家や写真家に関する本がここにはほぼすべて揃っています。マティスやピカソ、ジャコメッティやクレー、マン・レイやウィリアム・クライン……他にも川村記念美術館と原美術館で開催された展覧会で一躍注目されるようになったサイ・トォンブリー(現代アートを代表するアーティストで殴り書きしたような文字や線や記号を組み合わせた絵画で知られています)に関しての作品集やカタログ、あるいは絶版本さえも取り揃えて販売されている書店は、世界広しといえどもおそらくここ以外にはないでしょうね。
さて、その銀座 蔦屋書店のすぐ横に隣接している….というか、「え、こんなところに」という場所にスペースがあるのをご存知でしょうか。入り口に「THE CLUB」と控えめなサインがあるだけ。実をいうとここは銀座 蔦屋書店と同じくCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が運営するアートギャラリーなのです。初めての方にはちょっと入りづらいもしれませんが、思い切ってドアを開けてみると、その向こうには感度の高いアート作品が展示された空間が広がっていてちょっと驚かれると思います。
THE CLUBでは年に4−5回のペースで企画展を開催していくそうで、今回訪れたときはブラジル人アーティストたちによるグループ展「DIALOGUE」が行われていました。現在、パリを拠点としているデタニコ・アンド・レインによる蛍光灯を使ったミニマルな作品「LIGHTNESS」をはじめ、言語が持つ可能性に着目しそれをアートへ昇華させた知的な作品が展示されていて見応えも十分あります。
THE CLUBは日本であまり見られなかったような作品を展示し、現代アートファン向けに特化するのではなく、ファッションやカルチャーに興味を示す感度の高い人たちにこそ見てほしいとのことなので、気軽に本物のアートに触れることのできるGINZA SIXの穴場的なところと言えそうです。
そのTHE CLUBよりさらに入りにくい雰囲気を醸し出しているのが(笑)、5階フロアの奥に佇む黒い漆喰の謎めいた外観を持つ特別なお客様だけがアクセスできるメンバーシップラウンジ LOUNGE SIXです。空間と家具デザインを手がけたのが、現代アート界の第一線で活躍されている杉本博司さんが建築家の榊田倫之さんとで主宰する「新素材研究所」で、日本モダニズム建築の代表格でもあったホテルオークラの今はなきロビーを思わせる落ち着いた空間に、『海景』など杉本作品のみが展示してあるという空間は感動的でもあります。
そしてアート繋がりとして最後に紹介するのがLOUNGE SIXと同じフロアにある"スタイルのあるプロダクツ”を取り扱うMARK'STYLE TOKYOが運営するMARK'STYLE GALLERYです。ここは直営ショップに併設されたギャラリースペースで、日本が世界に誇るクオリティをまとったこだわりのグッズを扱うMARK'STYLE TOKYOなだけに、通常のアートギャラリーにはないようなものにこだわるクリエイティブな企画をこれからも期待したいところです。
アートをより身近に感じてもらうために様々な意匠が施されているGINZA SIX。2017年4月の開業当初から中央吹き抜け部分に漂うように展示されている草間彌生さんによるオブジェもまもなく展示が終わってしまうそうですが、春の訪れととともにまた新たなアート作品がこの場に設置されるそうなので今から楽しみに待つことにしましょう。
Text:Taka Kawachi Photos:Kaori Imakiire Edit:Yuka Okada
GINZA SIX EDITORS Vol.24(Lifestyle)
河内 タカ
便利堂 海外事業部ディレクター / 編集者。高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し展覧会のキュレーションや写真集を数多く手がけ、2011年長年に及ぶ米国生活を終え帰国。海外での体験をもとにアートや写真のことを書き綴った著書『アートの入り口』を刊行。現在は創業130年を向かえた京都便利堂にて写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指したプロジェクトに携わっている。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中