GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
光りもの好きのサンクチュアリで時間を忘れてそぞろ歩き Forgetting Time Strolling in a Sanctuary for Lovers of Shiny Things
岡部 駿佑
少し前に話題になった海外のある論文に「何故人類は光沢のあるものに弱いのか」というものがあった。曰く、水を連想させるキラキラとした質感は、古来より遺伝的に人類を惹きつけてきたらしい。真偽のほどが定かではないが、光りもの好きを正当化してくれているのだから、これほど有難い口実はない。
銀座中央通りに新たに誕生したランドマークGINZA SIXは、これ以上ないほど光りものに相応しい建物だ。内装を手がけたのはフランス人のデザイナー、グエナエル・ニコラ。広々とした空間使い、そして開放的な吹き抜けのアトリウムは、銀座のアイコンの名にふさわしい。その壮大なアプローチに想いを馳せながら、モダンなクリエイションで人気を集める3つの店舗をぶらりと覗いてみようと思う。
まず2階の三原通り側で待ち受けるのが、フランク ミュラーのブティック。同じ銀座に路面店も構えるフランク ミュラーだが、GINZA SIXの店舗ではトータル・ライフスタイルブランドとしてオリジナルの家具や雑貨なども揃い、世界初のコンセプトを取り入れている。
まず店に足を踏み入れると目に入るのが、ブランドのシンボルでもあるトノウ(樽)型のショウケース。覗き込むと、見目麗しいタイムピースの数々が佇んでいる。男性顧客が大半を占める機械式時計業界で、女性のファンを多く抱えるブランドらしく、手前のディスプレイには華やかなジュエリーウォッチが並ぶ。
こちらは神秘的な光を放つ、マザー オブ パールのレディースウォッチ。手首に寄り添うように絶妙なカーブを描くケースが、程よくステートメントを演出してくれる。
さらに店内奥の方へ進むと目に入るのが、ミニマルモダンなソファ。顧客の商談用…ではなく、これら家具もフランク ミュラーによるもので、全て売り物とのこと。なるほど、よく見るとディテールにトノウ型が踏襲されている。
ちなみに奥に飾られたダイニングテーブルも、ディスプレイされたクリスタルウェアも、シルバーカトラリーも、トノウ型の什器に並ぶバッグもフランク ミュラー! ちなみに、アイコニックなビザン数字をテキスタイルに取り入れた窓を覆うカーテンも受注可能らしい。
そしてこのユニークなコンセプトを最も体現するのが、入り口の隣に併設されたパティスリー。もちろんこちらも世界初の取り組み。ショウケースには、時計と同じくキラキラと輝くスイーツたち。中には一粒約2千円もするマロングラッセもある。何故パティスリー?と不躾にもスタッフに聞くと、“時を楽しむ”というブランドのコンセプトから発展した、食べることにも特別な時間を提供したいがための新たな提案との答えが返ってきた。優雅な気持ちに浸りながら、去り際にまた来ますと伝えた。
続いてヨーロッパの老舗ジュエラーが軒を連ねる1階。中央通りのエントランスから入り、エスカレーターのすぐ奥に見えるのが、1924年にイタリアで創業したダミアーニのブティックだ。
正面のガラスケースに並ぶのは「ベル エポック」や「ディーアイコン」をはじめとするアイコンジュエリーの数々。中でも目を引く「エデン」シリーズは、ジュエリー界のオスカーとされるダイヤモンド・インターナショナル・アワードを受賞した名作。昨今ジュエリー業界で新定番として定着しているイヤーカフだが、ホワイトゴールドにパヴェダイヤモンドがあしらわれたこちらは、トレンド性と、タイムレスなデザイン美学が感じられる傑作だ。
ダミアーニといえば、2年前に世界最大級のフラッグシップストアを同じく銀座にオープンしているが、先のフランク ミュラーと同じくこちらのブティックは世界でここにしかないユニークなコンセプトを採用している。何を隠そうこのブティック、ヴェニーニとのハイブリッド店舗なのだ。
ヴェニーニといえば、モダンなデザイン、そして数々の著名作家とのコラボで知られるヴェネツィアン グラスの老舗ブランド。2016年の1月にダミアーニがヴェニーニを傘下に収めたこともあり、両者の名前を掲げた初の店舗をこの銀座の地にオープンした。
例えばこちらは安藤忠雄氏の作品。宝石とガラス、素材は違えど、伝統的な職人技を現代へと伝える2つのブランドからは、互いに呼応しあうフィロソフィーが感じられる。
なお、舶来品だけでなく、国内のジュエリーブランドが数多く出店するのもGINZA SIXの大きな特徴。2階ではアーカー、アベリ、ビジュードエムなど日本の実力派ジュエラーが並ぶ。その中で目を引くのが、日本のダイヤモンドジュエラー、アイファニーのブティック。
いい意味で銀座らしからぬインダストリアルな内装が目を引くこの店舗では、アイコニックなモチーフジュエリーや、カラーダイヤモンドを使ったハイジュエリー、そして壁面には、ブランドの創業者でありデザイナーの川村“JURY”洋一氏が別注したというアートワークも掲げられ、これらも販売されている。
中でも印象的だったのは、漢数字をモチーフにしたチャーム。見ていると、海外からの旅行客が喜ぶのが目に浮かぶようだ。インバウンド狙い、と括ってしまうのはあまりに雑だが、海外進出に積極的な日本のジュエラーにとって、GINZA SIXは絶好のプラットフォームになっているというわけだ。実際にこの店舗では海外のファンが多く足を運ぶという。
GINZA SIXが標榜するコンセプトは「ニューラグジュアリー」。新しいラグジュアリーとは何か。フランク ミュラーやダミアーニのように他店舗にないコンセプトを取り入れた新業態か、それとも老舗メゾンと国内の気鋭ジュエラーが共存する独自性のあるキュレーションか。その解釈は様々だが、壮大なスケールのこの建物では、博物館のような重厚さと、近代都市東京ならではのハイブリッドな感性、そして銀座ならではの浮世離れした優雅な佇まいが見事に共存している。
Text : Shunsuke Okabe Photos : Utsumi Edit : Yuka Okada
GINZA SIX EDITORS Vol.5(Jewelry&Watch)
岡部 駿佑
1990年生まれ。横浜国立大学在学中より、インデペンデント誌「The Reality Show」で経験を積む。その後フリーランスのエディター、スタイリストとして独立。これまで「SPUR.JP」、「WWD」、「i-D Japan」をはじめ数々のファッションメディアに寄稿する傍らで、デジタルネイティブ世代ならではの経験を活かし、デジタルコンテンツのディレクション、コンサルティングを行う。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中