イラストの可能性を拡張し続ける、その伸びやかな世界
ジャン・ジュリアンを知りたい!
GET TO KNOW JEAN JULLIEN
「まだまだ知らないGINZA SIXへ」というテーマでお届けする秋のGINZA SIX magazine。この巻頭では、来る10月下旬からGINZA SIXの中央吹き抜けに登場するインスタレーションを手がける最注目のビジュアルアーティスト、ジャン・ジュリアンのインタビューも交えた特集からスタート! その作品に魅せられた全世界のインスタグラムのフォロワー数は2022年8月時点で124万人。GINZA SIXで発表される新作は、イラストを軸に多彩な表現の場を開拓するジャンから、型にはまることなく自らの可能性を表現する次世代へのインビテーション。
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今号の表紙をパリから届けてくれたビジュアルアーティスト、ジャン・ジュリアンを知っているだろうか? 「はろー」と一枚の紙から陽気に抜け出してきたキャラクターの名は、“PAPER PEOPLE(ペーパーピープル)”。子どもにも大人にもひと目でわかる設定、そこから何かが始まりそうな愉快な予感に満ちたこのPAPER PEOPLEの物語は、2021年に渋谷PARCOでの個展をきっかけにスタートした長期プロジェクト。そのエピソード2となる新しいチャプターがこの秋、草間彌生やダニエル・ビュレンなどのレジェンドをはじめ、2022年の9月までは名和晃平がインスタレーションを展開してきたGINZA SIX中央の吹き抜け空間で、ベールを脱ぐ。
写真/吹き抜け空間に登場する空飛ぶ絨毯に乗ったPAPER PEOPLEのスケッチ。「この物語ではチャプターを更新する度に新たな展示方法にチャレンジしたい」と掲げるジャンにとって、今回は「パブリックアートとして大規模なスケールで展開する」という試みで、初めて宙に浮く作品に取り組んだ。
そもそもPAPER PEOPLEとは何者なのか? 誕生のきっかけは、ジャン・ジュリアンの出自とこれまでの多彩なアートワークに隠されている。フランスの港湾都市ナントに生まれ、ブルターニュの海辺の街カンペールで育った少年は、「幼い頃から伝えたいことがあると、上手い下手は別に、とにかくたくさん絵を描いてきた」という。その後、ロンドンへ渡り芸大のセントラル・セントマーチンズを卒業し、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士号を取得。ほどなくしてシリアスな時代や現代の暮らしをユーモアをもって描いたイラストーションが支持され、「The New York Times」「The New Yorker」をはじめとする一流雑誌の表紙、クライアントワークを次々と手がけることに。並行して絵画やインスタレーションにも取り組み、世界各地の有力ギャラリーでの個展も展開してきた。さらに2011年には彫刻・ドローイング・陶芸・電子音楽など多岐に活躍する同じくアーティストの弟、通称“ニコ”ことニコラ・ジュリアンと、ジュリアン・ブラザーズ・スタジオを設立し、以降アニメーションフィルムなども共作。2022年はGINZA SIXにもストアがある「AMI PARIS(アミ パリス)」の限定カプセルコレクションのためのシンボルを描いたり、5月にはビジュアルアートブックで有名なイギリスの老舗出版社Phaidon(ファイドン)から、ファン待望の作品集も発売になった。
「昔からイラストを軸にいろいろな表現を試したいと思っていたんですけど、絵画を描きギャラリーと仕事をしていくなかで、コマーシャルとは違う表現に挑戦するようになりました。例えば彫刻。とはいえ3D彫刻にしてイラスト特有の線を失うのではなく、いかにイラストの特徴を損なわずに立体化できるかに興味があった。そういう意味でPAPER PEOPLEにも、僕の作品に共通する独特の線のタッチが活かされています」
GINZA SIXでは実際には紙でなく、金属製の素材を使ったPAPER PEOPLEが、ジャンのアートとして初めて宙を舞う。もともとPAPER PEOPLEは本人曰く「自分を生み出そうとしたクリエイターに放置されていることに気づき、その心細さから、紙で仲間を生み出そうと閃いたキャラクター」で、今回のGINZA SIXでは彼らが空飛ぶ絨毯に乗って、世界を探検する旅へ出発! そのタイトルはフランス語で「Le Départ」、英語では「The Departure」。すなわち「出発」を意味する。
「マンネリ化しがちな都会の日常生活から抜け出して田舎の風景を見に行こう!というインビテーションでもあるんです。僕自身も子どもたちの学校の都合でパリにいることが多く、創作活動の拠点であるスタジオを弟のニコとシェアして互いに切磋琢磨している一方で、休息したいときは故郷のブルターニュで家族と過ごして、バランスを取っている。田舎に身を置くことでイラストより内省的な絵画を描くことに集中できるんです。パリは多くの刺激があって重要な場所だけれど、ストレスが多いのも事実。でもそれを感じる都会にいることでむしろエネルギーが湧き上がったりも。つまり、心電図のように上がっては下がり、下がっては上がり…結局、そんなリズムの中で仕事をするのが今の僕には合っているのかもしれないです」
写真/今回のGINZA SIX magazineのために創作の拠点とするパリのアトリエの扉を開いてくれたジャン・ジュリアン。オブジェやトイ、スケッチなどもそこここに。秘密基地のような空間からGINZA SIXに届けられる作品とは?
そうして都会から離れて時に田舎を求める姿は「自身の分身でもある」ともいうPAPER PEOPLEが空飛ぶ絨毯で出発する様子とも重なる。同時に従来のイラストレーションの枠を果敢に拡張し続けるアーティストの姿は「時が経っても人々の記憶に残り、魅了し続ける。そんな作品になることを願っている」と語った今回のインスタレーションを通じて、同じように個々を縦横無尽に表現する世代の共感を呼ぶに違いない。
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Installation Information
『The Departure』
「まだアートスクールの学生だった頃から実験的に紙に描いたキャラクターを切り抜いては、それを人形で遊ぶように物語の主人公として、写真にレイアウトしたりしていたのが原型」という「PAPER PEOPLE」。こちらは今回のインスタレーション「The Departure(出発)」のメインビジュアル! 展示は2022年10月26日(水)~2024年春までを予定。
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JEAN JULLIEN’s
MAJOR WORKS
多彩なイラストで知られるジャン・ジュリアンが展開するアートワークは、現代アートの新たな地平を描く。ここではその作品の中から一端を紹介。その他も充実の最新ニュースはHPでチェック!
- クリエーションの故郷であるイラスト。実はコロナ禍の2020年、ジャンは弊誌の表紙のためにワイングラスとショッパーを手に、動物の浮き輪でディスタンスをとる男女を描いてくれた。
- 韓国のクリエイティブディレクター、ホ・ジョヨンが立ち上げた「NouNou」は、ジャンのイラストをモチーフに食器やキャンドルなど日用品から食品、衣料品、ラグなどを制作するグッズブランド。
- Phaidon社より今年5月に刊行した作品集「Jean Jullien」の出版記念として、パリの老舗アートギャラリー「イヴァン・ランベール」が開催した個展で壁に描いた画。PAPER PEOPLEの物語を辿る。
- 2021年に渋谷のアートギャラリー「NANZUKA」がキュレーションを担当した「PARCO MUSE UM TOKYO」での個展「PAPER PEOPLE」より。イラストの平面的な魅力を損なわない立体彫刻。
- 海辺の街で育ったジャンがこよなく愛するサーフィンは、多数の絵画のモチーフに。今年4月、ブリュッセルのアリスギャラリーでの個展「Bye Bye Blue」で発表した壁画付き絵画の最新作。
- ジャンの個人的な経験を反映する絵画と、イラストの緩やかな統合を目指し、キャンバスの枠を超え、周りの壁をも描いた斬新なニュースタイル。アリスギャラリーの個展「Bye Bye Blue」より。
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COMMENT
南塚真史
日常の一瞬の美しさを普遍的な物語に
ジャンの作品の素晴らしさは、私たちが普段気に留めることなく通り過ごしている何気ない日常の一瞬を、とても美しい情景として描き出している点です。海の生き物たち、風に揺られる麦畑、戯れる人々、子どものオモチャ、空を飛ぶ鳥たち、汽笛を鳴らす船、波とサーファー、これらはすべてジャン個人の記憶であるとともに、私たちすべての普遍的な物語でもあるのです。
Profile:
1978年生まれ。日本におけるジャンの所属ギャラリー「NANZUKA」代表。イラストの文脈に属する作家や国内外の新進作家を取り扱い、「アート」の文脈を拡張し「ファインアート」の枠を壊すため異業種とのコラボも積極的に行う。
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Text: Chiyo Sagae,Yuka Okada(81)
Edit: Yuka Okada (81)
©︎Jean Jullian
Courtesy of NANZUKA
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