CARTIER|Embedded in the Design
空間デザインに潜むもの Vol.2
銀座最大級の商業施設というスケールをポテンシャルにした、それぞれのブランドによる空間デザインも見逃せないGINZA SIX。ここではアライアとカルティエの新ショップに潜むストーリーを、デザイナーのインタビューやアトリエの取材を通して紹介する。
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CARTIER (2F)
職人の技術が宿る空間に、
グランドメゾンの美学を見る
( Art Wall )
写真/9月30日(金)に、GINZA SIXの2Fに誕生するカルティエ ブティック GINZA SIXの壁面を飾る白鳥のモザイク画を手がけるアトリエにて。複雑な色で表現された白鳥が空飛ぶ姿を描いた。
カルティエをグランドメゾンたらしめているものはなにか。それは、彼らがクリエイティビティと技術の対話だと表現する「サヴォアフェール(匠の技術)」の存在だ。時計やジュエリーなど、多岐にわたる分野の職人が精緻な作業を重ねることであらゆるアイテムに美を宿らせてきた。
世界各地でカルティエのブティックを手がけるフランス人デザイナーのブルーノ・モワナーは、それぞれの土地に宿る、文化、歴史、環境などを参照しながら空間を生み出す人物だ。今回GINZA SIXに生まれるブティックでは、アートウォールに日本の職人技術を起用する。彼はサヴォアフェールの姿勢を日本の美意識やものづくりへのこだわりに重ね、空間に表現したいと考える。
「それぞれのブティックが強いアイデンティティを持ち、その国の魂がカルティエでの体験に反映されることが重要です。ですから、私たちは驚きを生み出す専門性を求めているのです。日本には工芸という文化があります。それは繊細で、貴重で、緻密なもの。そこには日本という国の気配りや精神が反映されているようにも感じています」
写真/東京都府中市にある「大理石モザイク上」のアトリエより。モワナーから届いたデザイン画をもとに、上が細部を再提案して制作作業に。写真は仮組み作業の風景で、今回はガラスやタイルを使わずに大理石で組む。新たなブティックは全体にオパールの色彩が強く、目地にパールホワイトやシャンパンゴールドの箔で仕上げて階調をだしたいと上。カルティエを「エレガンスで、軽やかさとともに宝石のもつ豊かな世界観を表現するメゾン」と読み解く上は、洗練されていながら明るさのある魅力が若い世代の心まで届くのではないかと、より明るい表現を目指した。
その一つが、つがいの白鳥が空を舞うモザイク画だ。白鳥のつがいは生涯添い遂げることから、永遠の愛を象徴するといわれる。このロマンティックなモザイク画を手がけるのは「大理石モザイク上」を主宰する上哲夫だ。上は、東京藝術大学大学院在学時にモザイク壁画の第一人者である矢橋六郎に師事した人物。国内の公共施設をはじめ、さまざまな空間で手がけてきた緻密なモザイク画の数々は美術品のように美しい。今回はスペインやギリシャの大理石を使い、モワナーが提案する図案を形作る。
「石はとても美しいものです。自然が生み出す微妙な色は石を割ってはじめて目にすることができるものです。カルティエと私たちは石を扱うという意味で親しい仕事かもしれません。またモザイクタイルは、古代ローマ時代から愛される文化です。カルティエとのやりとりを通じ、彼らがいかに空間を大切にしているのかを理解しました。この絵は訪れる人々との対話を果たす重要な役割を担います。そしてなにより、カルティエは人間のもつ高みを目指すメゾンであると感じました。その姿勢をどうやって形にしていくか、それを問われるような仕事です」と上は語る。
写真/福岡県大川市に拠点を構える内装材メーカーの「エレガントウッド」は、店内の壁面を飾るために天然木の突き板によるアートウォールを制作。そこにパンテールと桜を描く。光沢のあるトチ材を使い、木目を互い違いに張り込んだパネルを染色。唯一無二の表情を描く天然木を使いながら、天然素材には表現できないデザイン性を織り込んだパネルに、パンテールと桜を箔で張り込む。
ブティックを彩るもう一つは、カルティエの象徴である「パンテール(豹)」を描いた木製パネルだ。パンテールは現在、世界各地のカルティエ ブティックを彩る存在となっている。新しいブティックでは、染色した木製パネルにパンテールと桜を箔で描く。
そもそもカルティエは、いち早くジャポニスムに着目したフランスのメゾンといえる。フィンセント・ファン・ゴッホが浮世絵に大きな影響を受けた『花魁』『タンギー爺さん』を描いた1887年、カルティエもまた日本刀をモチーフにしたブローチを制作したことがメゾンの台帳に遺されている。同社の礎を築いた立役者である三代目、ルイ・カルティエは日本の美に強い関心をもち、帯の結び、扇子、提灯、印籠などをモチーフにしたアイテムが19世紀末から20世紀初頭にかけていくつも制作された。カルティエは世界各地の様々な美に触発されてきたメゾンだが、日本の美意識もそこに含まれることは言うまでもない。
「モザイク画は非常に豊かなデザインを可能にするだけでなく、歴史を思い起こさせ、かつ現代的でカラフルな表現を可能とします。それは創作の幅を無限に広げます。もう一つのアートウォールには、木の温かみを求めました。そのうえで染色によってはっきりとコントラストをもたせました。そこに描かれる桜は“生命”を象徴します」と、モワナーは言う。
写真/ウィンザー公爵夫人のためにデザインしたブローチをはじめ、カルティエの象徴であるパンテールを用いた数多の作品は名作に発展した。左からすべて“パンテール ドゥ カルティエ”リング〈YG、ツァボライトガーネット、オニキス〉¥1,742,400・ブレスレット〈PG、ツァボライトガーネット、オニキス、ブラックラッカー〉¥2,956,800・リング〈YG、ツァボライトガーネット、オニキス、ブラックラッカー〉¥913,000/カルティエ GINZA SIX(2F)※9/30オープン予定
いみじくも上が言うように、カルティエは人が築いていた文化や技術に学び、それを研ぎ澄ませてきたグランドメゾンだ。ブティックに宿る一つひとつが宝石のように輝くのは、彼らが大切にしてきたサヴォアフェールが息づいているからに他ならない。
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Edit & Text: Yoshinao Yamada
Photos: Junpei Kato
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