International Sustainability Updates
ファッションと百貨店をめぐるサステナブルな取り組み
世界各国で深度を増すファッションと百貨店をめぐるサステナブルな取り組み。特に果敢なアクションを実践するロンドン・パリ・ソウルの速報からも学びを。
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<LONDON>
写真/1枚目:サステナブルなディスプレイが目を惹く旗艦店。2枚目:緑の看板で消費者意識を改革する「プロジェクト アース エディット」コーナー。3枚目:「スニーカーズ ER」では100種類以上の靴紐をストック。英国発トレンドセッターが仕掛ける
プロジェクトアースに迫る
[Selfridges]
新進気鋭ブランドをフィーチャーした、感度の高い商品セレクトとアートフルなディスプレイで、流行発信源として知られる、英国老舗デパート「Selfridges(セルフリッジズ)」。旗艦店は、ロンドンのオックスフォード・ストリートに立地し、トレンドに敏感なだけでなく、サステナビリティに関する取り組みを早くから実施。2005年に毛皮製品を販売停止し、2015 年にはショッピングバッグのプラスチック使用を禁止した。業界内外から一目置かれる存在だ。
2020年には、アンドリュー・キース社長のリーダーシップのもと「プロジェクト アース」を始動。「マテリアル、モデル、マインドセット」の三本柱を軸に、小売業の改革とネットゼロの未来を実現するために、新たな目標を掲げた。
「マテリアル」では、自社の環境および倫理基準を満たすモノを調達することを約束。「モデル」では、サステナブルな商品とサービスが、全取引の45%を占めることを目指す。「マインドセット」では、地域社会、お客様が全ての決定において「人と地球を第一に考える」包括的なリテール文化を構築する。キース社長は、2030年までにこれらの目標達成に加え、2040年までに事業全体で二酸化炭素排出量ゼロを目指すことを表明した。
写真/20,000点のアイテムがローテーションで店頭に並ぶレンタルサービス。
野心的な目標を具現化すべく、現在ロンドン店では、グリーンの「プロジェクト アース エディット」マークが、店内至るところに配置されている。これは、サステナビリティをビジネスの中心に据えるブランドを支援する目的でスタートしたもの。すでに55,000以上のアイテムを紹介し、2021年の売上高の12%を占めた。1階アクセサリーフロアーには、resellfridges.comから買いつけたプレラブドのハンドバッグから、敏腕バイヤーが厳選したヴィンテージサングラス、スカーフ、イヤリングなどの一点モノが集結する。また2階メンズフロアでは「スニーカーズ ER」が特設カウンターを構え、ラグジュアリースニーカーのクリーニング、リペア、カスタマイズなどのサービスを提供。修理済アイテムは28,000点以上に及ぶ。さらに4階のウィメンズフロアでは“THANKS, IT’S RENTED”というネオンサインが目印のレンタルスペースが。ここは、人気レンタルストアー「HURR(ハー)」とのコラボレーションによるもので、ドレス、シューズ、バッグ、アクセサリーを取り扱う。特にウェディングシーズンに需要が高く、今までに2,000点以上のアイテムをレンタルした。
今年4月末からは、12週間以上にわたるサステナビリティに特化したプロジェクト「ウォーン アゲイン」が始動し、第一弾はLVMHプライズを受賞した、フランス発のウィメンズブランド「Marine Serre(マリーン・セル)」が旗艦店1階のザ コーナー ショップに登場。アップサイクル ワークショップ、メイド・トゥ・メジャー・クチュール、一点モノのカスタマイズ ピースが一挙集結した。5月には下取りプログラムをフィーチャーした「ザ ストック マーケット」、6月には使わなくなったアイテムを交換できるファッション スワップを導入した「ザ スワップ ショップ」がローンチ予定。そうして夏にかけて一層盛り上がっていく、セルフリッジズのプロジェクトアースは、英国市民のサステナビリティへの意識に大きな変化を与えそうだ。
♦︎Store Information♦︎
セルフリッジズ
1909年創業の老舗デパート。ロンドン店は英国で2番目に大きなデパートで、ダニエル・バーナムの設計により1909年にオープン。マンチェスター、バーミンガムと合わせ、全4店舗を展開。直営店は全て、100%再生可能エネルギーで運営中。2025年までに、男女の賃金格差をなくし、女性が全役員の半分を占めることを確約している。
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<PARIS>
写真/1枚目:「モノグラム」のコーナーではエルメスのバーキンも販売。2枚目:掲げられた各ヴィンテージショップのサインが視認しやすい売り場。3枚目:ヴィンテージだけでなくサステナブルな雑貨も人気の「プチ・シネウーズ」より。パリの老舗のデパートが
古着に注目する理由
[Galeries Lafayette]
モードの中心パリで古着のムーブメントが起こっている。2021年の秋に「Galeries Lafayette(ギャラリー・ラファイエット)」が、本館の3階に500㎡の規模の「(Re)-Store」を設置。サーキュラーファションを提唱する若い革新的なブランドと、カジュアルな中古品と呼ばれるセカンドハンドを集結させ、身近なものから高級品まで様々なファッションと向き合い、話題となった。
「コロナ禍の経済危機的な状況もあって、お客様はこうした問題をより意識するようになり、私たちは敏速な変化を余儀なくされました。デパートとしてお客様の声に耳を傾けその要望に応える義務がありますが、同時に消費者を惹きつける手腕も必要です」とグループのマネージングディレクター、ニコラ・ウゼ氏は話す。スタート段階ではSNSで話題になっている7つのヴィンテージショップと提携し、それぞれのコーナーを展開。今では14にまで拡大し、ラグジュアリーメゾンや最先端のデザイナーのバックや小物を展開する「Monogram(モノグラム)」を筆頭に、ラグジュアリーブランドの状態がいいヴィンテージをセレクトした「Personal Seller(パーソナル セラー)」、パリのトラディショナルな70年代の古着を扱う「Relique(レリック)」、コンセプチュアルなモードとリンクした古着に特化した「Entremains(アントレマン)」、アートピースのようなオブジェが人気の「Petite Chineuse(プチ・シネウーズ)」、そこにいわゆるセカンドハンドといわれる古着屋も加わり構成されている。「アントレマン」のファウンダーであるソフィー・ボワラーとカミーユ・シャトレはギャラリー・ラファイエットに実店舗をもったことによるインパクトを「本当の意味での顧客体験を提供できて、新しいお客様との出会いもあって、私たち自身の意識も変わり、何よりセカンドハンドを伝えるには膨大な熱意が必要だとも気付かされました。ベストセラーはバイクジャケット、レザージャケット、カーゴパンツ、2000年代のトップス。今年はメンズのセカンドハンドを展開していく予定です」と語る。
写真/500㎡の広さにも存在感を感じる「(Re)store」のコーナー。
一方で「(Re)store」担当は10年ほど前から「責任ある雇用者と支援者、エコロジー転換の担い手、責任あるファッションのショーケース」という3つの柱を中心に、サステナブルデザインの戦略を意欲的に展開してきた。百貨店が環境に与える最も重要な影響は販売する商品にあると認識し、2018年以降、現在は1,000社を超えるパートナーブランドとの間で「Go for Good Selection」を約束。環境負荷を低減し、より社会的責任のある方法や、ローカルで生産された商品を取り扱っている。2024年までには100%の製品がGo for Goodの要件を満たすことを目標に、近年は自社ブランドにも着手。2023年の優先的な取り組みは、中古品と地域に特化したGo for Good商品の開発だ。そういう意味で「(Re)store」は、アップサイクル、はし切れの再利用、天然素材、オーガニック素材、リサイクル素材など、地球への影響を軽減した新しい創造の方法と、より持続可能な消費へのギャラリー・ラファイエットのコミットメントを示すスペースとなっている。
♦︎Store Information♦︎
ギャラリー・ラファイエット
1893年にパリの中心となる2区に70㎡からスタートし、1912年に20世紀のアール・ヌーボー様式の美しい歴史的な建物で再オープン。現在は本館・紳士館・メゾン&グルメ館と3つの建物で構成され、パリで最も有名な老舗デパートのひとつに。屋上テラスはパリを見渡せる絶景のスポットでもあり、パリの人々や買い物客の憩いの場にもなっている。
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<SEOUL>
写真/1枚目:白を基調としたザ・ヒョンデ・ソウルのシンボルである、開放的な中央の庭園スペース。2枚目:2015年より継続的に実施されている“365リサイクル”キャンペーン。3枚目:昨年開催された板橋(パンギョ)店の“Re.GREEN”のポップアップ。顧客とサステナブルを“共有”する
新しい形のサービスを展開
[The Hyundai Seoul]
韓国内に2023年4月段階で全16店舗を構える「現代(ヒョンデ)百貨店」は、ファッションからインテリア、食品まで、最先端と伝統を融合しながら複合的に展開しているデパートメントストア。なかでも、2021年にソウルの汝矣島にオープンした「The Hyundai Seoul(ザ・ヒョンデ・ソウル)」では、環境に配慮された空間作りを意識している。具体的にどのような点で設計・演出しているのか。2015年より積極的に実施している現代百貨店の環境への取り組みについて、ESG推進協議体副委員長のヤン・ミョンソン常務はこう話す。
「ザ・ヒョンデ・ソウルは、天井にガラスを使用し採光を高め、1階まで光が入るようにディレクションしています。5、6階にある“SOUND FOREST”はエコがテーマで、3,300㎡規模の天然芝と室内でよく育つ南部生種の木、花などを植樹。まるで野外庭園にいるような、自然にあふれた空間にしています。また店内広告を電子ディスプレイにすることで、紙やプラスチックの使用を大幅に削減。持続可能な構造を採っています」
写真/緑を基調としたショッピングバッグ。
現代百貨店全体でも、サステナブルに対するプロジェクトを積極的に行なっている。その代表的なひとつが、顧客参加型の“365リサイクル”だ。自宅で使用していない衣類や雑貨など様々なものを寄付品として受け取り、協業する機関にて販売。それによって生じた販売収益を、小学校のPM2.5の削減のために、教室内に森を作るという取り組みをしている。加えて、昨年は透明PETボトルを回収し、食品館に用いる再生プラスチック容器を製作。1年で約20万個ものリサイクルに成功した。そして本や雑誌、新聞などの廃紙は、再生紙100%のショッピングバッグに役立てている。この施策は、韓国の百貨店業界で初めて。高いクオリティでの実現に向け、こだわった点はエコ的価値を高めるとともに、顧客が従来通りに便利に使える品質を保つこと。耐水性や強度が弱い再生紙を用いるために約1年間、大学の研究チームや専門機関とタッグを組んで、飲料缶41個にも耐えられる紙袋を開発。製作プロセスも見直し、年間800万枚使用されるショッピングバッグを、再生紙だと約1万3,200本の樹木、約3,300万トンの炭素を削減している。その他にも、再生紙本来の色を生かし、現代百貨店のグリーンカラーを基調としたデザインを採用するなど、可能な限り環境を意識したものづくりをしているのだ。
百貨店とサステナビリティの関わりについて、2023年以降はどのような目標を掲げているのか。
「お客様とコミュニケーションを取りながら、環境配慮について考えるきっかけを増やしていきたいと考えています。例えば、アップサイクルのブランドを集めたセレクトショップを作る“Re.GREEN”プロジェクトもそのひとつ。約150ものブランドを紹介する専用のオンラインモールを作る予定です」
♦︎Store Information♦︎
ザ・ヒョンデ・ソウル
2021年、ソウルの汝矣島にオープンした現代百貨店16店舗目のデパート。地下2階から6階、売り場面積約8万9,100㎡と広大な敷地に約600ものショップが入っている。スタイリッシュな建築は自然との共存がテーマ。随所に緑や休憩用のベンチがあらわれ、ショッピングしながら癒しをもらえる空間になっている。ソウルの今を感じ取れるランドマーク。
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Edit & Text: Minori Okajima
Coordination & Text: Kiyoko Matsushita (London), Masae Takanaka (Paris)
Coordination: Shinhae Song (Seoul / Tano International)
Photos: Manabu Matsunaga (Paris)
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