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GINZA SIX EDITORS

ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。

Comfort and Inspiration from Reaching Without Overreaching

小澤 匡行

ストリートカルチャーに青春を捧げた自分にとって、必要なものは渋谷や原宿で見つけることがスタンダードでした。しかし大人になると、欲しいものや似合う服の価値や基準が、環境の変化によって広がったり極端に狭まったり、大きく変わるもの。自分のファッションの原体験を肯定しながら、今のファッションを楽しめる人が、おしゃれで素敵だと思います。つまりデファクトであり、デジューレではない。ストリートで出会い、僕の中で育っていたブランドたちが、ラグジュアリーやライフスタイルと同じ空間で、大人の街にあるべきファッションを提案しているGINZA SIXには、ただ背伸びするだけじゃない、本当のデファクトスタンダードを見つけることができます。そんな3店舗をぶらりと訪れてみました。

まずはソフ。ここには「ソフネット」と「ユニフォーム・エクスペリメント」、「F.C.R.B.」の3ブランドがそろいます。もう17年来のファンです。「ソフネット」に関してはカタログ制作で約10年お世話になっていて、時代の空気を探りながら変化を加えていく様を見続けてきました。フットボール文化との密接な結びつきを、今知っているお客さんはほとんどいないかも、なんてスタッフも仰っていましたが、僕にはまだそこかしこに香っています。息子のサッカーの引率や観戦が休日のほとんどを占めてしまう今になって、より身近なブランドになりました。

取材時にリリースされたばかりの「ヴァンズ」のSK8 MID(¥14,000 ※以下全て税抜価格)。ハイカットやローカットのOLD SKOOLは定番ですが、日本ではあまり見かけないミッドカットがポイント。昔はアメリカへ出張に行った時によく買ったものです。ヒールのジップは<ソフネット>の象徴的なディテールで、脱ぎ履きが本当にしやすい別注モデルです。この原稿を書いているときに調べたらオンラインはすぐに売り切れ。お店での一期一会の出会いを、もっと大切にすべきだったなと、後悔。

シーズンなりの色や柄が取り入れられたベーシックウェアは、シンプルでいたいけど、着こなしにちょっと遊びが欲しいときに便利です。ソフも会社が設立してまもなく20年。随分と大人な品ぞろえになりました。「F.C.R.B.」では休日の使い道が何かと多い「ヘリノックス」のチェア(¥19,000)や「コールマン」のクーラーボックス(¥6,000)、「スタックストー」の収納バケツ(¥3,800)などを別注もそろっています。ちなみにバケツは、いまもメイド・イン・フランスです。

続いては、ミスターハリウッド。ここは昔を懐かしむというより、今がどこにあるのかを導いてくれるブランド。無駄のない、商品が引き立つ内装は、世界観を凝縮した表参道の旗艦店とはむしろ真逆の趣ですが、大人にはとても見やすい構成になっています。

レジ前には大きなポプリが他のお店と同じようにどっしりと置いてあり、どこの何だろうと気になっていました。これをいい機会に、と聞いたら、やっぱりフィレンチェ最古の薬局のあそこでした。

デザイナーの尾花さんの気になるあれこれを取材させていただく機会は、自分の携わっている媒体で多いのですが、いつもすごく参考にしています。僕が「N.ハリウッド」でもっとも好きなのは、古着への造詣が深い尾花さんらしいヴィンテージのアーカイブと、モダンな素材との組み合わせ。こういう発想に、とてもセンスを感じるのです。最近は、指定外繊維やシルク、そして上質なウールが目立ちます。カジュアルと高級感のバランスが、大人のデイリーウェアに心地よいちょうど良さ。今日はいている「グラミチ」への別注パンツ(¥32,000)も、繊細で柔らかなウールを使ったもの。仕事でネイビーを試着して、あまりのはきやすさに感動して購入したのですが、今日ブラックもあると知り、買ってしまうかと企んでいます。

「N.ハリウッド」といえばスニーカーのセレクトも玄人好み。得意のミリタリーの要素を感じるニューバランスの990(¥25,000)、レザーで新装した別注の「トップサイダー」(¥14,000)も、夏の大人の足元にはぴったりです。シュータンの上にはロゴが並んだ、特別仕様です。今季は少しブランドにアメリカントラッドのエッセンスが見受けられました。それを踏まえてのチョイスだと思います。

最後は、最近気になっていた玉川堂へ。ちょうど3月に青山の店舗で、銅板で栞を作るワークショップが開催されると聞いて、興味を持っていました。1枚の銅板を叩き起こす「鎚起銅器」の伝統技術を、200年にわたって継承している、新潟県は燕市の老舗。僕も愛用している数々のApple製品の研磨や、「SUWADA」のネイルニッパーの製造など、日本でも有数なものつくりの産地でもある燕三条の伝統工芸ですが、その中でもとくに世界的に認知の高いブランド。ルイ・ヴィトングループのシャンパンブランドや自動車のMAZDAとコラボレーションするなど、歴史に裏打ちされた無形文化財の価値を、現代に広く伝えています。

残念ながらお酒を受け付けない体質なので、酒器より茶器を。叩いて伸ばすのではなく、叩きながら丸めて縮めるその高度な技術には、職人の勘も頼りです。そして、何より美しいのは、玉川堂の色彩です。過日、益子焼の取材に訪れた際に、塩焼きによる美しいブルーを見て以来、青い器の虜になりました。ものつくりの方法や考え方は違いますが、玉川堂への興味が僕の中で大きくなったきっかけでもあります。

この青は、聞くとまず硫化カリウムで黒く着色し、乾かし磨き、そして色水で煮沸する加減によって青くなるのだとか。スタッフの熱心かつ丁寧なご説明に完全にこころが動かされ、入門にふさわしい青色の茶筒(¥24,000)を購入してしまいました。

最近、南ドイツで無農薬栽培された、ヴェルヴェーヌのハーブティーに出会い、仕事の合間に飲むことがささやかな楽しみ。その中にこの茶筒に保存した葉っぱを取り出すという粋な動作を加えたいと思います。

GINZA SIXがオープンして1年が経ち、久々にゆっくりとした時間の中で楽しむことができました。あの賑わいに空気の薄さを感じていた当初には感じられなかった、背伸びをするよりも等身大の自分の好きなもの、を探す感覚を味わえました。改めて、自分の好きなものを見つめ直すために、ここで心地よい刺激をもらうのも、いい大人の休日の過ごし方かもしれません。

Text:Masayuki Ozawa   Photos:Yuichi Sugita   Edit:Yuka Okada

GINZA SIX EDITORS Vol.37

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小澤 匡行

2001年より大学在学中より、フリーのライター活動を開始。現在は雑誌『UOMO』や『MEN’S NON-NO』などの編集に加え、広告やカタログにて活動。著書にスニーカー文化の発展の歴史を証言的に編纂した『東京スニーカー史』、日本語監修した『SNEAKERS』がある。前述の『UOMO』をはじめ『eyescream』、『文春オンライン』など紙媒体やウェブ媒体にて連載コラムを寄稿。
Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中

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2018.04.17 UP

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