GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
時にはルンバのように、銀座に戻って好奇心を充電する Like a Roomba, I Return to Ginza to Recharge My Curiosity
粂 真美子
度重なる地方・海外取材のおかげで、自宅兼オフィスは一時期トランクルーム状態に。今でこそ出張の回数は減ったものの、仕事の都合で都心不在の期間はむしろ増えているような……。あちこち忙しく飛び回るのは性に合っているし、のどかな田舎町や自然の中にいると心は安らかだけど、フードシーンの最前線を行く東京はちゃんと追っておかないと(仕事になりませんもの)。好奇心や刺激がぷつんと切れそうになると、いそいそとチャージに赴くのがGINZA SIX。いざ、詣でます。
まず向かったのが、6F「銀座大食堂」。330坪ものフロアには、鮨、うなぎ、すき焼き、牛しゃぶ、焼鳥、とんかつといった専門店が軒を連ねます。さらに1941年創業の果実店から生まれたパフェが人気の「フタバフルーツパーラー 銀座本店」、洋食とスイーツのカフェ&レストラン「銀座モダンテラス」もあり。そのネーミングからも分かるように、昭和のデパートを象徴する大食堂を現代的にアップグレードさせたようなスタイル。ここ数年、スナックや大衆酒場がブームだけれど、往年の食の業態をリバイバルさせるのもまた、東京の銀座ならでは。フロントにずらりと並ぶ精巧な料理サンプルは見もの!
お腹が空くと黙っていられないたちなので、早速のれん街の「韓国薬膳料理 尹美月(ユンミヲル)」で腹ごしらえ。2019年9月26日にオープンし、2014年よりミシュランガイド東京版で二つ星を獲得している「銀座 尹家」の姉妹店。同店のオーナーシェフでありプロデュースする尹美月さんは、韓国政府が指定した韓国伝統料理名人です。野菜がたくさん摂れるし、汁ものも多い韓国料理は外食のスタメンから外せません。
初めて韓国を訪れた時。朝ごはんを食べようとホテル近くのごはん屋さんに入ったら、オーダーも聞かないうちからイシモチ定食「クルビベックパン」が出てきて驚いたっけ。朝のメニューは1種類だけのようで、わかめスープとパンチャン(おかず)付き。懐かしく思い出しながら「スンドゥブとイシモチ、合うわ〜」と唸る。
コース中心の本店「銀座 尹家」に対して、こちらはアラカルトをメインにより大衆的な料理を提供しているよう。ナムルやキムチはもちろん、チャップチェ、薬膳豚煮込み「ボッサム」にもそそられるけれど、今回は「スンドゥブ定食」(2,500円 ※以下全て税抜価格)をいただきます。自家製の豆腐、アサリ、エノキ、春菊、白ネギと具だくさん。味つけは唐辛子、牛脂、香味野菜で作る韓国万能調味料「タテギ」で。焼いた干しイシモチには甘酸っぱい薬味ソースを。尹さん曰く、スンドゥブとイシモチは相性が良いのだとか。ひと口味わっただけなのに、トリップ感が凄い!
日本では甘めの味付けが多い中、「尹美月」のスンドゥブはキレがあって奥深い。理想的な好みの味わいです。小皿には、豆もやしのナムルと白菜キムチ、キュウリとタマネギのキムチも。提供は店内のみでしたが、3月からはフロア中央のテーブル席でも食べられる出前の“オカモチ”サービスがはじまるそう。こういう遊び心とシャレは効かせるほどいい。
続いて向かったのは、B2Fのフーズフロアにある「CAFÉ EXPERTO(カフェ エクスペルト)」。前から気にはなっていたけれど、お店の様子が少し変わった? コーヒーブレイクに、ふらりと立ち寄ってみる。
「ブルーマウンテン ジュニパー ピーク農園で、朝日を一番に浴びる特級畑で育ったコーヒーです。コーヒーはフルーツなので、ゆっくり熟していくと完熟になるまで糖度が上がっていく。たっぷりと日の光を浴びた後、ブルーマウンテンミストがかかることにより、クールダウンされる。この寒暖差がゆっくり熟成するのに欠かせないのです」と、バリスタの宮﨑壮史さん。「コーヒーはフルーツ」というインパクト大のひと言。今度どこかでこのフレーズを使わせてもらおう。
平日限定の2種飲み比べセット1,000円と迷ったけれど、本日のコーヒー(750円〜)をオーダー。見よ、この集中力! ドリッパーに顔を近づけるようにしながら、一定間隔でお湯をドリップ。豆の状態をつぶさに確認し、同時に香りもチェック。コーヒーと向き合う姿勢を側で見ているだけで、何かが覚醒しそう。
聞くところによると、酸味の概念も変わってしまうのだとか。粗挽きした豆をたっぷりと使うことで余計な苦みや渋みを出さずにバランス良く、マイルドですっきりと美味しい味わいが実現するそう。抽出の効率を上げるため、最初にコーヒーにお湯を含ませて焙煎した後に出る炭酸ガスを放出。コーヒーのエキスをお湯に溶けやすい状態にするようだ。落とし切ったコーヒーは、アロマがすっかり抜け落ちている。適温のお湯を注いだだけなのに…アメージング!
「日本では焙煎ばかり注目されがちですが、当店は主に産地、農園、栽培、品種にもフォーカスを当てています」と、宮﨑さん。耳を傾けていると、自分もコーヒー通になったかのよう。舌だけでなく、耳で味わうことも大事だな。大型施設なのに、まるで商店街や個人店にいるみたいな距離感で接することが出来るから不思議。どんなにいい店でも、結局は人なんだ(持論)。
近頃、ギフトを贈る機会が急増。プチプラの気軽なものからスペシャルな逸品まで、情報=ネタのアップデートが追いつかない。そんなところへ来て、頼もしい存在を発見しました。一級畑で穫れる最高クラスの「プルミエ クリュ カフェ」(3,000円〜)。畑の選別、栽培、収穫、精選、輸送、保存に至る全行程に厳しい品質基準があり、クリアした豆だけが冠することが出来るブランドラインです。炭酸ガスによる内圧に耐えられるようシャンパンボトルに入れているそうで、アロマをしっかり閉じ込めてくれるという利点も。冷凍庫に入れずに、常温保存でOKなのも魅力のひとつ。パッケージデザインも絵画のようで素敵だし、見栄えするラッピングもぐっとくる。
最後は普段あまり足を踏み入れる機会のない、13Fの「THE GRAND GINZA(ザ グラン ギンザ)」へ。約500坪ものフロアにラウンジ、レストラン、VIPルーム、バンケット、チャペルに茶室まで有する複合空間で目指すのは、ラグジュアリーなシェフズカウンター「銀座 極-KIWAMI-」。聞けば、京都・東山にある「高台寺 極-KIWAMI-」の東京店とか。ホテル内のどこかでひっそり営業している麺どころや、デパートに潜むバーみたいに、隠すようにある店はそそられます。
「全国各地の素材を扱いながら、世界各国の食材もプラス。その都度その都度でベストと思う調理法でお出ししています。カウンタースタイルなので、お客さまと会話のキャッチボールを交わしながら、お好みやシチュエーションも考慮します。基本はフレンチですが、食材に合わせて和のテイストを加えたりと、フュージョン料理フレンチにも柔軟に応えます」とは、シェフの齊藤隼人さん。臨機応変な対応、引き出しの多さは実力の証!
ある日の冷前菜は、軽く昆布締めしたシマアジ、北海道産のウニ、キャビア。下には、紅芯大根、緑芯大根、黒大根のシートを忍ばせて。大葉のソース、バルサミコ酢、最後に柑橘のドレッシングをかけて、柚子のゼストを散らしたひと皿。おまかせの極上コースは10品構成(20,000円)。乾杯酒であるシャンパンのミネラル感と相性の良い貝や魚介のアミューズからスタートし、温冷前菜、スープ、フォアグラ料理、魚料理、オマール海老や蟹といった甲殻類の料理、メインディッシュ、デザートという流れ。時間がないゲストには、ショートコースなどで臨機応変に応えるそう。
メインディッシュの牛肉は低温でゆっくりと火入れをし、柔らかい状態に。仕上げにお客さまの目の前でフランベし、表面だけ香ばしく。たとえ肉汁が流れ出ようと、肉は熱々で食べたい私には堪えられない逸品。
「かずさ和牛ロース肉と季節の野菜とトリュフの香り」。千葉県・佐原市に系列の宿があるそうで、今回は地元のかずさ和牛をローストで。フランベし、仕上げにイタリア産トリュフのスライスを。このほかにも、天然記念物の見島牛や1年間に50頭しか出荷されない北海道産のアニョードレも登場。
サービスマネージャーでソムリエの高橋正英さんが選んだワインは、「Y by Yoshiki」。アーティストのYOSHIKIとナパ・ヴァレーの醸造家ロブ・モンダヴィJrとのコラボレーションにより生まれたというフルボディの赤ワイン。普段ではなかなかお目にかかれない銘柄に出会えるのも、名ソムリエがいてこそ。
最後にラウンジで提供中の名物スイーツ「銀座マキシム」の苺のミルフィーユを堪能して、4時間ほどのGINZA SIX巡りも終了。美味しい発見もさることながら、それぞれのプロフェッショナルに出会えたことは大きな収穫でした。十分チャージできたつもりだけど、あれもこれもと欲張り根性が顔を出しそう。楽しみは後に残しておくといい。また日を改めて出直します。
Text: Mamiko Kume Photos: Kayoko Ueda Edit: Yuka Okada
GINZA SIX EDITORS Vol.94
粂 真美子
ライター・エディター。「東京カレンダー」「料理王国」の副編集長を経て、フリーランスに。レストランをはじめフードカルチャー、日本各地の食の現場や国内外の旅をメインに取材・執筆。「BRUTUS」のグルマン温故知新、「週刊新潮」の記念日の晩餐など連載を担当中。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中