[TOKYO]銀座は食の世界地図
[SEOUL]4つの潮流から韓国食文化の核心を体感する
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A Microcosm of Global Cuisine
銀座は食の世界地図
世界各国のレストランがひしめく街、銀座。この街は、まるで食の世界地図のようだ。明治時代からの長い歴史を辿ると、そこには、飽くなき食いしん坊たちの情熱が見え隠れ。流れは今も、GINZA SIXの中に息づいている。
美食の「どこでもドア」を求めて
料理人も食通も幻惑される美味しい魔境
上の写真をご覧ください。パリ? ロンドン? 実はこれ、銀座です。1966年に数寄屋橋に開業した「マキシム・ド・パリ」。フランスの老舗レストランが東京に支店をオープンとあって当時は大いに話題になったようで、2015年に惜しまれつつクローズしたものの、今でも当時を知る人々は愛着を込めて「銀座マキシム」の名を口にします。
皆様を誘うのは、2023年の銀座。ただし、ここを単なる美食街として紹介するつもりはありません。「GINZA」と聞けば、料理人やフーディーはある種の緊張と期待感にふっと身を固くします。というのも、銀座というのは日本を代表する飲食街であるのはもちろん、遠い昔の江戸時代末期より、広い世界への“どこでもドア”が開く特別な場所だったから。1866年(慶応2年)に鯛茶漬けで有名な「竹葉亭」が創業し、1869年(明治2年)には洋食店が多数入る複合ビル「木村屋総本店」が開業。江戸の情緒が色濃く残る東京の街で、恐る恐るパンや洋食を口にしたであろう市井の人々の冒険心に心から拍手を贈ります。以降も、カフェ、ブラジルコーヒー、イタリア料理店、中国料理店、ビアホール、インド料理店にフランス料理店と、各国料理店開業の波は途切れることなく今へと続き、365日が食の万国博覧会というべき様を呈している、それがこの街、銀座なのだといえます。
写真/●今も世界の料理店が、続々開業中。1枚目_2022年11月に開業した「M_mugen」(東京都中央区銀座7-4-6 ACN銀座7)。上海で15年のキャリアを築き数々のレストランアワードでも1位を獲得した料理人、内田達仁さんが凱旋オープン。モダンで洗練された料理がいわゆる「ザ・中国料理」とは一線を画す。2枚目_韓国グルメ好きであれば「たらちゃん」(東京都中央区銀座3-13-5 鈴木ビル)も外せない。2021年12月にオープンし、伝統的な干し鱈のスープ「プゴク」定食1本のみで勝負、朝7時から営業する稀有なスタイルで話題に。なんとも滋味深い味で老若男女を魅了する。しかし、なぜ銀座なのでしょう? 今ではそんなことはありませんが、昔の銀座はいわゆる「敷居の高さ」が持ち味でした。東京に集う人々はここで散財したり料理を味わったりすることによって、世界や未来への足掛かりを掴もうとしていたのでは? いかがでしょうか。
この次では「銀座は食の世界地図」を体現するGINZA SIX内の各国料理店を一挙ご紹介。ちなみに「マキシム・ド・パリ」の名品「苺のミルフィーユ」は、GINZA SIXが開業した2017年より13Fの「THE GRAND GINZA」にて復活し、今も変わらない味を求めて人々が集う風景が見られます。
山口繭子
神戸市出身。『婦人画報』『エル・グルメ』編集部(共にハースト婦人画報社)を経て独立。現在、レストランやホテル、ワインといった飲食業界を舞台に活動中。SNSでは自身の仕事に絡む食体験を発信する一方で、居酒屋や町中華での一人飲みが猛烈に好き。インスタグラムは @mayukoyamaguchi_tokyo
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日本が誇る食の財産、
「魚とごはん」を届けたい
銀座は食の世界地図。連綿と続く銀座のこの流れは今もノンストップ。それはGINZA SIXでも同様だ。この8月10日にオープンしたニューフェイス「魚とごはん 黒座椿亭」は、そんな中にあって「日本食」の良さを伝えるべく誕生した店。テーマに据えたのは魚介と米の美味で、これらを刺盛りや丼物など、カジュアルに楽しめる形でバリエーション豊かに展開する。看板料理の「刺身の盛り合わせ」(¥2,750)や「旬の焼き魚」(時価)は、多彩に揃う日本酒を合わせてぜひ。「焼き鮭とイクラのひつまぶし」(¥2,200)は出汁で味わう本格派。壁にアーティスティックな金魚の映像が浮かぶ幻想的な空間も、居心地良く楽しい。
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王道の中国料理はいつまでも飽きない味
家寳 跳龍門(6F)
(カポ チョウリュウモン)
開業以来2年が経ち、今や人気店に成長した「家寶 跳龍門」。人気の理由はひとえに料理長の袁 家寶(えん かぽ)さんが細部まで丁寧に作り上げる王道中国料理の数々だ。例えばフカヒレ1枚を用いる「ヨシキリサメの姿上湯煮込み」(¥8,800)は、5時間かけて作る金華ハムや丸鶏、黒豚の赤身肉のスープで完成する。さらに訪れる客の多くが注文するという「鶏のクリスピー姿揚げ」(¥11,000)は、家寶さん自らが吊るした鶏肉に少しずつ熱い油をかけて火を通し、完成させる。これは3〜4人でシェアして食べるのがおすすめで、シャンパンやビールとの相性は言わずもがな。エレガントで落ち着いた店は常に訪れる客を温かく迎えてくれる。
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モダンオーストラリアの粋をたっぷりと
カンガルーとコアラが観光の頼みの綱だったのは過去の話で、ここ7〜8年ほどでガストロノミー大国として急成長したのがオーストラリア。オージーワインの秀逸ぶりには多くのソムリエが感嘆し、自然豊かな国ならではの利も活かしたモダンな料理で世界中のフーディーから注目されている。GINZA SIXにはそんなオーストラリア料理店もあり、中央通りと交詢社通りの角に面する館内きってのロケーションも意外な穴場なのがここ。海の幸と山の幸を合わせる「サーフ&ターフ」(¥10,000)は粋なワインごはんのお供に。隠れた名品は「季節のフルーツのパフェ」(¥2,000)で、季節に合わせて果物がチェンジする楽しさもお見逃しなく。
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フランスの街角の味わいを、ずっと銀座で
6Fの飲食店の中でも目を引く真っ赤な内観。ギンガムチェックのクロスや壁にかかる絵は、パリのビストロそのものだ。しかし、本当にその気分が盛り上がるのは目の前に料理とワインが運ばれてきたとき。ジュージューと音をあげる「鴨もも肉のコンフィとカスレ」(¥3,278)はフランスで愛される郷土料理で、どんな人も笑顔にする美味の塊のような一品。そして鋳物ホーロー鍋の蓋を取れば「モンサンミッシェル産 ムール貝のワイン蒸し」(¥3,080)が。こちらもスープの最後の一滴までバゲットを浸して堪能したくなる深い味わい。銀座2丁目に産声を上げた名店は、こちらにも支店を構え27年。間違いなく、老舗の誇りが宿っている。
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イタリアの気取らない美味しさを気軽に
仲間と共にワイワイ過ごすと楽しそう、という雰囲気が入った瞬間から伝わってくるイタリアン。しかし実際にはひとり飲み客や女性のソロランチ需要も高いという。理由は幅広いメニュー内容と、タイプの異なる席が選べることにありそうだ。1980年に銀座ソニービルに開業した名店「サバティーニ・ディ・フィレンツェ」の系譜を継ぐトラットリアでもあり、“イタメシブーム”のずっと前からかの国の美味を日本に伝え続けてきた。「シェフおすすめの鮮魚料理(アクアパッツァ」(100g / ¥1,200)は、オーブン焼きかスープ仕立てのチョイスが可能。「ストラッチャテッラと焼きトマトのカプレーゼ」(¥2,400)はロゼのスパークリングワインに合わせて。
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スター気分を味わえる韓国マカロンの店
GINZA SIXの小さな韓国といえば、ここ。こぢんまりとした店構えながら、店先のショーケースの中に並ぶ色とりどりのマカロンは、行き交う人々の歩を止めてしまうほどに魅力的だ。韓国のマカロン「トゥンカロン」(各¥380)は、ひとつ4cmほどもあるサイズ感とチョコレートやいちごミルク、クッキー&クリーム、ソルティーキャラメルといった、ビジュアルコンシャスな見た目。ぎゅっと詰まったバタークリームは、子供時代を彷彿とさせる美味しさだ。季節限定の味もさまざまに入れ替わるので、定期チェックが欠かせない。トゥンカロン以外にも「抹茶マカチーノ」(¥890)」「ゆずフラットチーノ」(¥750)などのドリンクもぜひ。
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偉人たちも虜にしたイタリアの甘い味
店名の「ビチェリン」(¥1,155)が看板商品。イタリア・トリノで1763年に創業したカフェが生んだチョコレートドリンクで、エスプレッソ、チョコレート、生クリームの3層が品良く調和した温かい飲み物だ。イタリア初代首相カブール、哲学者ニーチェ、文豪ヘミングウェイなど、錚々たる偉人がこの味に魅了されたという逸話は、一口飲めば納得する。どこまでも滋味深く甘さは控えめ。ウイスキーを思わせる濃厚さとチョコレートの香り高さが印象に残る。マカロンの原型「バーチディダーマ」と金塊型のフィナンシェをセットにした「GINZA インゴット」(¥4,860)は、ここだけの限定品であり企業秘書の手土産としても大人気だ。
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Sharing Korean Food Culture
한식을 널리 알리다
4つの潮流から韓国食文化の核心を体感する
続いては、ソウルの食の真髄へ!シェフを経て、今は韓国食の研究者の傍ら、古き味わいを伝え、世界的食アワードの要職も務めるチェ・ジョンユンさんがご案内。
“韓食”の独自性を研究し未来へ手渡す
私が5年前から運営するインスタグラム@jytourでは新鮮な食材で満足度の高い味を提供し、ビジュアルとしてもインパクトのある韓国のローカルフードを紹介してきました。
なぜか。私は地元の人々に愛される古き良き焼肉店や食堂こそ韓国の食文化の核心であり源泉だと考え、MZ世代にその独自性を味わってほしい。韓食を研究し共有することが、自分のミッションだと考えているからです。
味だけでなく、食卓での行為も食文化の一部です。BBQや韓国の食堂にはカスタマイズの要素があります。注文せずとも豊富な野菜のキムチやナムルが出て、タレを付け足し、肉と一緒にサンチュで包む。食べる人が自ら味を仕上げます。つまり、同じテーブルを囲んでも、ひとりひとり味が違うんですね。
なんといっても韓国人の食卓は忙しい(笑)。焼き上がった肉を渡したり、おかずを回したり、スープをよそったり、お互いにケアをします。お店側のサービスもスピーディです。食卓で巻き起こる動的なリズムと社交、カスタマイズは、韓国の国民性やクリエイティブな精神に通じていることでしょう。
私は26年間のキャリアで、国内外のホテルのキッチンやファインダイニングでのシェフを経て、現在は大手調味料メーカーの研究職のポストにつき、また、イギリスのファイドン社から韓国家庭料理の真髄を伝える書籍の出版もこの10月に控えています。
世界各国の食に国際的な評価を与える「世界のベストレストラン50」の韓国の評議委員長の仕事を通して、世界各国の美食の最先端にも接してきました。国際的な視野のなかで韓国料理の個性とは何かを考えてきたのです。
ここでは老若男女でにぎわう親子経営の老舗の食堂、伝統の研究をもとに発想される正統な韓国料理、産地にこだわり地域性を重視した焼肉店、海外で学び韓国料理に新解釈をもたらすモダンコリアン。韓国の食文化の潮流が体感できる、4つのお店を紹介します。
Jungyoon Choi | 최정윤
チェ・ジョンユン/ソウルのウェスティン、オーストラリアのハイアットリージェンシーホテルで経験を積み、韓国のファインダイニングの元祖、チョン食堂でヘッドシェフを務める。その後、スペインのエル・ブジのフェラン・アドリアシェフが設立したアリシア研究所で研究者としても勤務。現在は韓国の大手調味料メーカーに研究員として所属しながらBBQや老舗食堂を発信する@jytourを運営している。GINZA SIXにも何度か訪れ、手土産が揃うB2Fがお気に入り。
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韓国の定番を味わう活気に満ちたローカル食堂
한성칼국수(漢城[ハンソン]カルグクス)
1983年に創業し、最近、親から子に代替わりした家族経営の食堂。国産の食材にこだわり、付け合せのおかずは全て手作り。ほっとする真面目で誠実な味わいが魅力で、スーツを着た仕事帰りの大人たちや若者のカップル、家族連れなど老若男女が集う。じっくり茹でた柔らかい豚バラ肉「チェユク」(大₩36,000)、牛肉の「スユク」(大₩¥41,000)にニラキムチをのせ、小エビの塩辛セウジョッやスパイシーなサムジャンにつけたらサンチュに包み込んで。茹でタコ(₩31,000)で箸を休め、ビールと焼酎のソジュが進む。締めくくりは優しい味わいの餃子スープ(₩11,000)だ。チェさん曰く「これまでもずっとあった韓国の定番を、とても丁寧につくっている、というお店です。活気があって回転率が早いため、食材は常に新鮮です」。
●Shop Information
Address: 江南区彦州路148ギル14 2F/2F, 14, Eonju-ro 148-gil, Gangnam-gu
Open: 11:30 - 15:00, 17:00 - 21:50 (日11:30 - 15:00, 17:00 - 21:30)
Closed: 土曜
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忘れ去られた食の“古典”に光を当てる正統派
온지음(オンジウム | ONJIUM)
古い調理書の記録と現代の調理法と掛け合わせてメニューを考案。エグゼクティブシェフは宮廷料理を修行し理論に強いチョ・ウニさんと、韓国料理を専攻して新羅ホテルで経験を積み技術面に優れるパク・ソンべさんの2人組だ。ディテールを見逃さない研究的な態度と、現場を切り盛りする推進力。この両輪で韓国料理の正統を追求してきた。宮廷料理は陰陽五行思想に基づき、古くから衣食住を構成する色彩の青・赤・黄・白・黒の「五方色」を重視。その調和を壮麗に並べた薬味で表現したのが、写真左の最新メニュー「ヨルグジャタンバン」。宮廷料理を代表する鍋料理であるシンソンロに、古都・開城で発展したスープとご飯を掛け合わせたクッパ文化を融合させた。ランチのコースは₩140,000、ディナーは₩220,000。
●Shop Information
Address: 鍾路区孝子路49 4F/4F, 49, Hyoja-ro, Jongno-gu
Open: 12:00 - 15:00, 18:00 - 22:00
Closed: 土曜、日曜、月曜
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地域性に特化して味を極めた韓国式BBQの新鋭
산청숯불가든(山清[サンチョン]炭火ガーデン)
「最近、韓国でニーズが高まっているキーワードが“地域性”です。特定の産地にこだわり、エリアの魅力をまるごと味わうお店が人気なんです。ここは、ソウル近郊にあって登山のメッカでもある 1,915mの名山、智異山の麓で育った高原黒豚の『伝統的塩焼き』(500g ₩58,000)が名物のニューカマー。脂身と赤身のバランスをよく、食感よく提供するために、包丁を斜めに入れるなど切り方にも繊細な工夫があってとにかく味がいい。『山清チャーハン』(₩11,000)のお米、野菜、塩に至るまで、これでもかと智異山の麓で育てられたものが使われています」とチェさんは太鼓判を押す。山小屋風の店は映画のセット制作業者が手掛け、オープンしたばかりだが細部に至るまで年季が入ったお店のムードにも食欲がそそられる。
●Shop Information
Address: 江西区麻谷中央8路85/85, Magokjungang 8-ro, Gangseo-gu
Open: 11:30 - 23:00
Closed: 無休
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現代的な手法で食を更新する、モダンコリアンという新体験
스와니예(スワニイェ | SOIGNÉ)
アメリカで5年間修行しニューヨークのミシュラン3つ星獲得店「Per Se」でキャリアをスタートさせたイ・ジュンシェフ。帰国後、コンセプトの異なるポップアップレストランを多数手掛けて人気を博し2013年にフレンチと韓国料理を巧みに掛け合わせた「SOIGNÉ」をオープン。ランチコース(₩170,000)、ディナーコース(₩270,000)ともに物語のように展開する“エピソードメニュー”が特徴だ。料理の過程が感じられて作り手と食べる人がつながる舞台としてのオープンキッチンは、若手育成の役割も担う。キッチンの脇にシェフテーブルを設け、若手のシェフはそこで料理人の手元や表情を間近に見ながら食事ができるという。純粋に料理が好きな若手に惜しみなく技術を共有したい、応援したいという思いから生まれた。
●Shop Information
Address: 江南区江南大路652 2F/2F, 652, Gangnam-daero, Gangnam-gu
Open: 12:00 - 15:00, 18:00 - 22:00
Closed: 月曜
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[TOKYO]
Edit & Text: Mayuko Yamaguchi (Food Contents)
Photos: Shintaro Oki
[SEOUL]
Edit & Text: Yoshikatsu Yamato
Photos: Hana Yamamoto
Illustrations: Adrian Hogan
Coordination: Shinhae Song (Seoul / TANO International)
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