GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
GINZA SIX はしご酒 Barhopping at GINZA SIX
マッキー牧元
「これは、はしごのしがいがあるぞ」。GINZA SIXに初めて訪れたとき、そう閃いた。
早速計画を立てて、食いしん坊仲間の亮介と絵里子、詩織を誘った。銀ブラならぬ「銀ハシゴ」である。「面白そう」と、計画に乗った3人だったが、GINZA SIXの前で、少し面食らっている。
「さあ、今日の予算は1万円。だから、みんな1万円ずつ出して。僕が管理するから」。はたしてこれだけで、どこまではしご酒が出来るのだろう? GINZA SIXだぞ。
まず連れて行ったのは地下2階である。酒屋「いまでや」一画にある立ち飲みコーナーには、数種類の日本酒やワインが用意されて、日によって一杯400〜500円から飲めるようになっている。
「ここで食前酒といってみよう」。店長の説明を聞きながら選ぶのだが、コメントがいい。的確で分かりやすく、すべて飲みたくなってしまう。おすすめに従って選んだのは、僕が「山形正宗」純米吟醸の斗瓶囲い、亮介が「飛露喜」の純米大吟醸、絵里子が「丹波ワイン」ソーヴィニヨン。詩織が「フェルミエのシュワシュワ」というスパークリングワインだった。
「山形正宗」は、きれいな切れがありながら膨らみがある。「飛露喜」は吟醸香がしつこくなく、「丹波ワイン」は和食に寄り添う品がある。「フェルミエのシュワシュワ」は味わいの優しさが体に染み入っていく。それぞれを回し飲みしながら、盛り上がってきた頃合で、「よしもう一軒」」と声をかける。
今度は「ワインショップ・エノテカ」である。こちらは「銀ロゼ」と名付けて力を入れているロゼワインが、一杯500円から飲める。白桃やライチなどが香るすっきりとした辛口ロゼが、食欲をくすぐる。さあ、いよいよ戦闘開始である。今度は6階 「銀座大食堂」へと向かう。
ずらりと並んだ様々なジャンルのレストランから、好みの料理をとって、宴会を企てるのである。席は、中央通りを見下ろすテラス席を選んだ。眼下に銀座の街並みを見下ろしながらの食事は、大銀座を制したようなゼータクな気分がある。
まず前菜に選んだのは、山田チカラ氏監修のバルから「セビーチェクラシック(¥1,700)」(以下全て税抜価格)と「雲丹とお出汁のフラン(¥800)」、「マグロとろたく アボカドエスプーマ(¥500)」。
お寿司屋からは「京豆腐 七味薬味(¥600)」。
中国料理店から「蒸し鶏と北京ダックの棒棒鶏(¥950)」、「四川風麻婆冷奴(¥680)」といってみた。
一方で酒は、いかなる状況にも対応できるよう、白ワインに日本酒、麦焼酎と頼み、万全である。
次々と料理が運ばれてきた。ハハハ。楽しいぞ。セビーチェは、下に注がれたマリネ液の通称「虎のミルク」を、各魚貝類にたっぷりとからませると、その酸味と辛味が食欲を刺激する。フランは、ウニと玉子の甘みが抱き合ったうまみの品の良さが、宴の開始を滑らかにする。これらは白ワインだな。
マグロトロたくは、初めて見るお姿だが、アボカドのコクとトロの脂の香り、タクワンの食感が次々と口の中を通過して、実に楽しい。これと浸し汁にほんのり辛味を効かせた京豆腐は、日本酒だな。
棒棒鶏は、北京ダックが入って、通常のそれとは違う噛み締めがいあり、麻婆冷奴は、なんと冷たい麻婆豆腐である。しかし冷たいながら、油っこくなく、辛味と山椒の香りがきっちりと立って、舌をキックしながら鼻孔と胃袋をくすぐる。いいぞ、これらは麦焼酎で迎え討とう。
早くも6皿だけで盛り上がってきた。お次は温かい皿である。「黒酢とバルサミコの黒胡麻酢豚(¥1,480)」、「黒毛和牛ロース昆布〆炙りたたき(¥1,800)」、「河豚唐揚(¥1,800)」、さらに「だし巻きとハムのサンドイッチ&ソーセージココットプレート(¥1,800)」といってみた。
ここで赤ワインも頼み、酢豚や和牛ロースに合わせてみる。酢豚は、黒酢のコクにバルサミコのフルーティーな香りが加わって、赤ワインが進む。和牛ロースは脂の香りが甘く、白ワインでもいいかな。サンドイッチは後回しにし、添えられたソーセージで、麦焼酎を飲む。こうして運ばれる料理を、様々な酒と合わせて、相性を確かめながら食べ進むのも、なんとも楽しいじゃないか。
河豚唐揚は、香ばしい衣に歯を立てれば、うま味に満ちた身が弾けるが、問題があった。3切れなのである。これはジャンケンである。ジャンケンで順番を決め、順位を決定する。4番目になった人は、ふぐは食べることはできない。しかしシメに頼む、握り盛り合わせで、一番先にどれを選ぶかという権利を得る次第である。
様々な料理を頼むだけでなく、こうした遊びもまたいい。さてそろそろシメである。先ほどの、出汁の旨みが染み込んだ卵焼きに思わず顔がくずれる、だし巻きハムサンドイッチの他に12貫の握り、そしてフカヒレ麺と頼んでみた。仲良くシェアしながらうたげを締める。そうそう、フカヒレ麺に乗せられた白木耳は、美容に効くから、女性にあげるようにね。
これだけ頼み、満腹、ホロ酔い気分、大銀座を制圧しながら、一人一万円でお釣りがくる。これはクセになりそうだが、まだ終わっていない。デザートである。
再び地下2階に舞い戻り、「PHILIPPE CONTICINI」を目指す。カウンター仕立てのスイーツバーで作りたてのオリジナルパフェで有終の美を飾ろうという算段である。選んだのは、ルバーブや苺、ピスタチオクリームやショコラなど18種類が組み合わされた「ヴェリーヌパフェ」(¥2,000)である。
多くの香りや酸味、異なる甘みや食感が巧みに共鳴する。いやそれだけではない。
プレリュードからクライマックス、そしてコーダに至る楽曲のようなドラマがある。食前酒から始まった、今夜の「ギンザシックスはしご酒」とも重なるような、パフェが届ける夢の時間に酔う。他の3人も食べながら無言となって、夜のひと時を楽しんでいる。
よし今度は休日に、昼のはしご酒を企ててみるかな。
Text:Macky Makimoto Photos:Takashi Kaizuka Edit:Yuka Okada
GINZA SIX EDITORS Vol.23(Food)
マッキー牧元
1955年東京生まれ。株式会社味の手帖 取締役編集顧問、タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ・テレビ出演と多彩に活躍。『味の手帖』『料理王国』『食楽』他、連載多数。鍋奉行協会会長。著書に「東京 食のお作法」(文芸春秋)、「出世酒場」(集英社)ほか。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中