GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
ワインラヴァーにとって素通りの許されない、新たなランドマーク A New Landmark No Wine Lover Should Miss
柳 忠之
ワインジャーナリストなどという職業を生業にしていると、「いつも美味しいワインが飲めていいですね~」と周囲から羨ましがられる。家内も同業なので、事実、毎晩の食卓にワインを欠かすことはまずない。ところがそんな我が家でも、日常ワインの在庫を切らすことがたまにある。頼りにするのは昔から決まってワインショップ・エノテカだ。
エノテカとの付き合いは長い。まだ広尾にしか店舗がなかった90年代の初め、「モンテス」のカベルネ・ソーヴィニヨンやルイ・ラトゥールの「アルデッシュ・シャルドネ」といったコスパの高いワインを買い込み、有栖川宮記念公園で花見に興じたこともある。それから間もなくして、日本全国に支店を展開。海外にまで進出し、2017年4月、GINZA SIXの開業に合わせて旗艦店を地下2階にオープンした。大躍進である。
GINZA SIXのショップは旗艦店を名乗るにふさわしく、エノテカ最大級の広さと品揃え(なんと1600種類以上!)。エノテカというと、とりわけボルドーに強いイメージだが、ブルゴーニュも充実しているし、イタリア、ニューワールド、さらに近年なにかと話題の日本ワインもラインナップされている。とはいえ、話題の割にアタリハズレの大きな日本ワイン。私がもっとも信頼する山梨のワイナリー、「グレイスワイン」の甲州が産地違いで各種揃っているのはうれしい限りだ。
じつはショップに辿り着いて、真っ先に目に飛び込んで来たのはロゼワインのコーナーだった。銀座のロゼで「銀ロゼ」と題し、100種類ものロゼワインが並ぶその様は、色調の美しさも相まって圧巻のひと言。欧米ではすでにロゼワインが大ブーム。日本でもロゼが市民権の得る日を今か今かと待ち望んでいた。なんでもオープンから1ヶ月間の売り上げトップ3はいずれもロゼだったそうで、その勢いは今なお衰えないという。白と赤のいいとこどりをしたロゼワインは、料理とのバーサティリティが高く、とりわけ日本の日常的な食卓にぴったりのアイテムだと思う。
ショップの奥、格子の扉で隔離された「ワイン・ライブラリー」はお宝の山だ。「マルゴー」や「ラトゥール」といったボルドーのトップシャトー、「コルギン」や「スクリーミングイーグル」などカリフォルニアのカルトワインが鎮座する。いずれも6桁以上の超高級ワインだが、さすがは銀座、さすがはGINZA SIX、このクラスのワインもよく動くというではないか。たとえ買えずとも見るのは自由(ただし、通常は鍵がかかっているので、お店の人に声を掛けること)。偉大なワインはそのラベルを眺めるだけで、満たされた気分に浸ることができる。
地下2階のメインフロアからワインショップへと続くアプローチにはカフェ&バーがある。取材日はリリースして間もないボジョレー・ヌーヴォーから最高は2013年のシャトー・ムートン・ロッチルドまで、グラスで飲める贅沢さ。凍てつくような寒い日にぴったりのホットワインも用意されている。ピカソやウォーホルが描いたムートンのラベル画を眺めつつ、ショッピングの合間に味わう一杯のワイン。うまし。
「ドン・ペリニヨン」の吉岡徳仁リミテッドエディションやルイ・ロデレールの「クリスタル」などプレステージシャンパンが並ぶコーナーから我が家のクリスマス用に1本選び、13階の「ロムデュタン シニェ ア・ニュ」へ。
広尾「ア・ニュ ルトゥルヴェ ヴー」の姉妹店。シェフは同店のスーシェフを務めた蓑原祐一さんだ。夏過ぎに南アフリカからワイン生産者が来日し、このレストランでプレスランチが開かれた折に伺ったが、パーフェクトなマリアージュに心底感心した。
聞けば、コース料理のひと皿ごとにワインを合わせるペアリングメニューがあるというではないか。リストの中から1本のワインを選ぶのもレストランでの醍醐味だが、最近、ペアリングメニューのあるお店では、それを楽しむことが多い。ひとつには近頃のフレンチは皿数が多く、1本のワインですべての料理を通すと、必ずどこかで妥協を強いられてしまうこと。もうひとつには、ソムリエ渾身のマリアージュの妙技を味わってみたいという、好奇心からである。
定番のアミューズは、客自ら具材を焼き立ての生地に挟んで仕上げるエクレア。この日の具材はピメント・エスプレットをまぶしたサバに、ビネガーで和えたカキとカブ、白いカボスのクリームという組み合わせ。稲毛友紀ソムリエがこれに合わせたのはシャンパーニュ、「ブノワ・ラエ」のブラン・ド・ノワールだった。ブラン・ド・ノワールとは黒ブドウのみから造られた白いシャンパーニュで見た目は白でも赤い果実のフレーバーがあり、サバの血合いの風味をオブラートに包んでくれる。
次はサクラのチップで瞬間スモークしたホタテとキクイモのタルタル。上にはキャビアがトッピングされている。そのままシャンパーニュを続けてもよさそうだが、稲毛ソムリエがおすすめするのはなんと日本酒。退潮傾向が続く日本酒業界だが、若く優秀な造り手が増えているので積極的に紹介したいという。新潟「加茂錦」の純米大吟醸。キャビアの塩味がポイントで、塩を舐めながら日本酒を楽しむイメージだとか。
続いて備長炭でサッと炙った気仙沼のカツオのボルシチ仕立て。赤いパスタ状のものはビーツで黒いのがクルトン、緑はディル。これにカリフォルニアはサンタ・バーバラ、「ブロック・セラーズ」のカベルネ・フランを合わせる。フレッシュでエレガント、滑らかな口当たりのカベルネ・フランはカツオの血合いの生臭さも強調されず、品種特有のハーバルなニュアンスもアクセントのディルで中和される。
前菜にもう一品、マダラの白子のムニエル。春菊のソースにグリュイエールチーズのチップ、ローズマリーの泡が添えられている。ワインは「ドメーヌ・ド・ボングラン」のヴィレ・クレッセ。クリーミーな白子にトロリとした質感のシャルドネ。このペアリングはテクスチャーのハーモニーが素晴らしい。
魚料理はサワラの上に細かく刻んだ牡蠣をのせ、蒸し焼きにしたもの。シャンパーニュのクリームソースと一緒にいただく。「口の中をリセットするために」と稲毛ソムリエが注ぐのはギリシアはサントリーニ島の白ワイン、「ガイヤ」のアシルティコ。ピュアな酸味とミネラル感が特徴で、口中がきれいに拭われる。それに加えてエーゲ海の潮風を感じさせるヨード感が、カキの風味と見事な調和を奏でてくれた。
肉料理はえぞ鹿のロースト、赤スグリのポワブラードソース。前衛的に攻めた皿が続いた後、最後はクラシックな料理で締める構成。ワインも王道中の王道、「シャトー・ラ・ネルト」のシャトーヌフ・デュ・パプである。えぞ鹿の甘みとグルナッシュ主体のワインの果実味、赤い果実のフレーバーやスパイシーな後口など、皿の中の要素とグラスの中身が渾然一体化。まさに教科書的マリアージュだ。
デザートはワゴンでサービスされ、お好きなものをお好きなだけ。これでランチコース7,000円(税・サービス別)、ワインのペアリングコース6,000円の価格設定はじつにリーズナブル。次回はぜひ、家内を連れて伺いたい。マリアージュには人一倍うるさい彼女がどう評価するか楽しみだ。
自宅用からプレゼント用までチョイスに迷うほど豊富なワインが揃い、バーでちょい飲みも可能。さらにじっくりと料理とワインのペアリングまで楽しめるGINZA SIX。ワインラヴァーにとって素通りの許されない、新たなランドマークと言えるだろう。
Text:Tadayuki Yanagi Photos:Toshio Tagaya Edit:Yuka Okada
GINZA SIX EDITORS Vol.18(Food)
柳 忠之
ワインジャーナリスト。1965年生まれ。ワイン専門誌記者を経て、97年よりフリーで活躍。「BRUTUS」「Winart」「GQ JAPAN」などの雑誌に多数執筆。自由が丘ワインスクール講師。土壌、歴史的背景を含めた論理的観点からの鋭い切れ味ある批評に定評がある。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中