THE ART OF GIVING あらゆるつながりに手土産で少しの愛を
この春GINZA SIXにオープンの店舗で探す、軽やかな手土産のススメ。相手にも自分にも負担にならない品を手に、どんな関係も出会いも、我がものに。
麻布野菜菓子
野菜の造形美をリスペクト 本当においしい野菜菓子を追求
野菜って、なんでこんなにかわいいんだろう?
赤や黄色、緑や紫。野菜本来の美しい色合いと、直線や曲線、でこぼこが混じったユニークなフォルム。そんな自然の造形美に魅了されたオーナーが、野菜の“かわいい”色と形を、本当に“おいしい”お菓子にして多くの人に伝えたいと、2012年、麻布の住宅街でひっそりとはじめたのが「麻布野菜菓子」。
深い野菜愛に加え、元々デザイナーだったオーナーのビジュアルへのセンスとこだわりをもってして、グラフィカルでおいしい野菜菓子が誕生。あっというまに人気店となった。
3月1日にオープンしたGINZA SIX店でも一番人気の野菜のフィナンシェは、トマト、ほうれん草と抹茶、かぼちゃ、紫芋、しょうが、ごぼうを使ったカラフルなお菓子。ピシッと整った正方形に、チェリートマトや抹茶、クルミやラムレーズンのトッピングがアクセント。厳選した小麦粉とアーモンドパウダー、北海道日高産のフレッシュバターが効いたしっとり生地に、野菜そのものの優しい味わいが加わって、なんとも美味! 真っ白い皮に野菜の薄焼がのった美しい最中も、色鮮やかな野菜チップスも、とにかく野菜のかわいさと風味を存分に楽しめる。
〈左から減圧フライ製法でカリッと仕上げた野菜チップス 2,325円(あじ塩、果物チップス、カリーセット)・野菜最中 3,082円(蓮根、薩摩芋、黒胡麻と木の芽3種3個入りセット)・野菜のフィナンシェ 1,815円(6個セット)〉
使用するのは、その時期一番おいしい産地の、一番おいしい旬の野菜たち。特別なものではなく、ふだんスーパーで見かけるいわゆる普通の野菜をあえて使うのは、「いつもの野菜が、こんなにかわいくおいしくなるんだよ」というオーナーからのメッセージ。
ちゃんと甘くて、お菓子としておいしい野菜菓子。ヘルシー志向の人も、そうでない人も、老若男女問わず、手土産にぴったりのビジュアルと味だから、誰に、どんな思いで、どんな色や形を届けるか、選ぶのも楽しい時間。
〈左:元デザイナーのオーナーはパッケージにもこだわりが。シンプルで優しい色合いが野菜の色や形を引き立てる。右:野菜チップスのパッケージは、窓からちらりと、中身がのぞくデザイン。〉
ひとくち、またひとくちとつまみながら、季節とか実家とか子供のころの記憶とか……さまざまな風景を思い出すきっかけにもなりそうだ。
ギフトでもプレゼントでもなく 軽やかな“手土産”は 日本独自のコミュニケーション
銀座にある、週替わりで一冊の特別な本を売る、ちょっと風変わりな書店「森岡書店」。
その店主である森岡督行さんは、多くの交流の中で、様々な手土産を受け取り、渡してきた人。
そんな森岡さんが次世代とも共有したいと願う手土産の文化とは?
そもそも「手土産」という言葉は、どこが発祥なのでしょうか。
辞書を引いてみたら「自分で手にさげて持って行くみやげ」「人を訪問するときに持っていく、ちょっとしたみやげ」「挨拶がわりに持参する簡単なみやげ」と書いてありました。
なるほど。どうやら、この“ちょっとした”“簡単な”という点が手土産のポイントのようです。
となると、英語でいう「プレゼント」や「ギフト」とはちょっと違う気がします。再び調べてみると、プレゼントは、誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントなど、親しい間柄で交わされる贈り物。
対してギフトは、贈り物そのものを意味する言葉でもありますが、もうちょっとフォーマルな感じ。結婚や出産などのお祝いや内祝い、お中元、お歳暮など、ややマナー色が強い印象です。総じて、プレゼントはもらう、ギフトはいただく、というイメージでしょうか。手土産は、そのどちらとも違う、日本独自の奥ゆかしさがある気がしてなりません。
そう考えると、「手土産」のなんと軽やかなことか!
僕は、この「手土産」という文化が好きです。
手土産もプレゼントもギフトも、どれも相手を想い、選び、届けることには変わりはありません。けれども、手土産は少し気が楽で、同時にちょっとワクワクする。添える〝気持ち〟が違うような気がするのです。
コロナ禍の6月、銀座の老舗広告制作会社「ライトパブリシティ」の杉山恒太郎社長を訪問した際、僕は銀座の名店「野の花 司」で見つけた、鎌倉のあじさいを手土産に持っていきました。おいしいお菓子やお酒も考えたけれど、店先でその大ぶりなあじさいが放つ、あふれる生命力と瑞々しさに、「これだ!」と思ったんです。杉山さんは、「季節を感じるねぇ」と大変喜ばれ、僕もしみじみうれしい気持ちになりました。
このとき、僕が「手土産、何をもっていこう?」と集中して考えるのに使った時間は、たぶん、事務所からご近所の「野の花 司」まで歩いたほんの数分。もちろん、前の晩から、杉山さんなら何がいいかな、とぼんやり思ってはいましたが、実際に決めたのはピンときた、その数秒です。
この、相手のことを思う時間がほんの数分、というのも手土産のいいところかもしれません。身構えすぎず、それゆえ押し付けがましくもない。それでいて、相手の好みや季節感、こちらの近況やサプライズなんかも、気持ちとともに添えたりする。なんだかちょっと粋な感じ。手土産に宿る軽やかさは、そんなところにもあると思うのです。
何より、手土産には愛があります。
愛、といっても、深くて濃い愛情のように、ある種の見返りを求めてしまうような重いものではなくて、小さな気遣い、優しさのようなもの。
この瞬間だけは、あなたを愛することを許してくださいね、というエクスキューズが楽しい思いやり。
そんな、ほんの少しの愛がのっかっているのが手土産だと僕は思います。地球上で、星の数ほどいる人と人が、一瞬だけ、接点をもつ。ものすごい確率だけれど、偶然であり、必然とでもいうような……。その瞬間にお互いに何かを刻む。手土産って、とても素敵なコミュニケーションだと思いませんか。
いじわるなウイルスのせいで、なかなか人に会えない、触れられない、会話できない、直に接することができない今、この手土産という文化の大切さを、僕はひしひしと感じています。
手土産という軽やかな愛で、世界が世代を超えてもっと平和に優しくなればいいな、と思っています。
〈今年1月に惜しまれながら閉店したGINZA SIX 2F「SIXIÈMEGINZA(シジェーム ギンザ)」と森岡書店のコラボ企画として誕生した架空のお菓子やさん「森岡製菓」では、手土産にぴったりの商品も開発。第1弾のチョコレート(上)は、収益の一部を保護犬保護猫への支援プロジェクトに寄付。第2弾は、障がいをもつ方々の雇用促進をサポートする目的で施設に制作を依頼したフルーツバターサンド(下)。いずれも反響を呼んだ(現在は販売終了)。〉
Text: Miho Tanaka
Photos: Teruaki Kawakami
Edit: Yuka Okada(81)