WELCOME INTERVIEWS
100年前のパリの空気感を伝えたい
祐真朋樹 Tomoki Sukezane
Creative Director of LANVIN COLLECTION
ショップで触れて、試着して良さがわかる服
ファッションディレクターの祐真朋樹にとって、銀座は“青春の街”だ。
〈祐真さんのリクエストを受けて撮影が行われたのは、「銀座千年茶館」(中央区銀座6-8-17)。貴重な中国茶などを楽しめるティーサロンは古く貴重な照明や絵画に彩られ、曰く「パリにもありそうな店ですよね」。GINZA SIXからもほど近く、静かな時間が流れる隠れ家的なスポットだ。〉
「21歳で京都から東京に出てきて、仕事をしたのが東銀座の出版社、マガジンハウス。毎日通勤しながら、この街はどこかアットホームな雰囲気だなと思っていました。どうしてだろうと考えていたら、銀座の街自体が個人商店の集まりのようなものなんだと。当時の銀座には、戦前や江戸時代から続く小さなお店がたくさんあって、それがとても魅力的に思えた。それぞれがこだわりを持って、それが形として受け継がれていることがとても素敵だなぁと思ったんです」
〈銀座は若き日を過ごした街。「毎日、チョウシ屋のコロッケパンを食べていました。他にもナイルレストランのムルギーランチとか、竹葉亭の鰻とか。今でも好きな店がたくさんあります」。〉
日本のメンズファッションを30年以上にわたってリードしてきた彼がクリエイティブディレクターをつとめる「LANVIN COLLECTION(ランバン コレクション)」のメンズのショップがGINZA SIX5階にオープンした。従来の“年配層向け”というイメージを一新、ミニマルでスタリッシュ、歴史あるLANVIN(ランバン)のスピリッツを感じさせる、この春注目のブランドだ。
「リブランディングしたいという依頼があったのは、昨年の春。その前年にイベントのスタイリングを担当したことで、ランバン コレクションというブランドの“可能性”は感じていました。本格的にクリエイティブディレクターをやるのはほぼ初めてですが、おもしろいチャレンジになるだろうと思い、すぐに『やりましょう』と返事をしました」
祐真さんがまず取り組んだのは、ランバンというブランドについて学ぶことだった。当初、彼の頭のなかにあったのは、90年代以降のランバン。特に2006年から2011年ごろまでのデザイナー、アルベール・エルバスやルカ・オッセンドライバーの時代のメンズコレクションは、「かなり好きだったし、たくさん買って、今でも持っている」という。
「ランバンというブランドは、1889年にジャンヌ・ランバンという女性が立ち上げたブランド。当時の資料を見ていくと、僕が好きな“ベル・エポック”、ジャン・コクトーやパブロ・ピカソがパリを闊歩していた時代なんです。そこからいろいろ連想していくと、僕が好きなアルベール・エルバスのコレクションも実はこのベルエポックの時代の影響を受けていたんだなと気づかされたりしました。ランバン コレクションは、日本生まれのブランドですが、この時代のパリを追求し、今の時代にどう表現していくか。100年前の空気、エッセンスをいかに取り入れていくかを考えていきました」
彼には、もうひとつこのブランドでやりたいことがあった。
「価格を抑えたいと思ったんです。具体的にいうと、コートでも10万円以内で買えるようにしたいと。ブランドが生まれ変わる以上、たくさんの人に買ってもらいたいですから、まず財布に負担をかけないことが大切。最近ファッション関係の話題と言うと、限定品やコラボ商品といったスペシャルだけど高価なものか、お得感満載、誰でも買えるような価格のものか、どちらか。興味がある人は、高くても買うんでしょうけど、そうでなければみんなと同じ安いものでいいやとなっちゃう。そういう状況はさみしいなと思います。僕が若いころは、少し頑張って背伸びすれば、人と違う素敵な服が変えた。それでガールフレンドに褒められたりしたら、ハッピーなわけじゃないですか(笑)。そういうことがあれば、みんなもっとファッションに関心を持つはず。ファッションがカルチャーとして、多くの人の話題であり続けるためにも、クオリティーは維持しつつ、価格はなるべく抑えたいと思ったんです」
昨年10月にはリブランディングの立ち上げとなるカプセルコレクション「ミッドナイトブルー」を発表。ミニマルでありながら、素材やディテールまでこだわったデザインは、エレガントでありつつ実用性も兼ね備えている。さらに着てみてわかるのは、手触り、着心地が抜群にいいということ。「背伸びして」買っても決して後悔しないクオリティーだ。
〈 左:ジャケット 72,500円・ベスト 28,600円・シャツ 26,400円・パンツ 30,800円・ハット 15400円・シューズ 35,200円/中:ジャケット 92,400円・ベスト 39,600円・シャツ 26,400円・ショーツ 30,800円・ロングホーズ 7,700円・シューズ 35,200円/右:ジャケット 83,600円・シャツ 37,400円・パンツ 26,400円・シューズ 35,200円〉
「とにかくまずはランバン コレクションというブランドを知ってもらい、いい服と思ってもらうこと。そのうえで、自分が着てみたいと思う服を作る。マーケティング的なデータは、無視してます(笑)。大事なのは、今売られている服と同じようなものを作るのではなく、これからの時代を生きる男たちにどんな服が求められているのか、それを直視して、そこに僕のテイストを入れていく。そんな考えで、僕の仕事人生の35年間を注ぎ込みました」
〈今季の広告ビジュアルにも使われたセットアップは、同じグレーのチェックでありながら、微妙にチェックの種類が異なる。ジャケット 81,400円・ベスト 33,000円・半袖のタートルネック 28,000円・パンツ 35,200円〉
〈ランバン コレクションに年齢は関係ない。「20歳代の若い子でも、50歳過ぎた僕でも着られる服」。洗練と洒脱、そして実用性のバランスが絶妙。資料に残るジャン・コクトーの着こなしなどをヒントに100年前のパリを思わせるコレクションが仕上がった。ジャケット 81,400円・ベスト 33,000円・フーディ 33,000円・パンツ 35,200円〉
GINZA SIXのショップには、ランバンを愛したジャン・コクトーの着こなしにヒントを得た膨大な数のファーストコレクションが並ぶ。春らしい色とりどりのラインナップには、祐真さんが考えた“パリらしさ”と、日本生まれのブランドならではの細やかなこだわりが詰め込まれている。
「このブランドの服は、手にとって、試着してわかる良さがあると思っています。ショップで見て、着て、感じれば、買おうと思っていた以外の服も欲しくなる。ネットとはちがって、ショップにはワクワクするようなハプニングもあるし、ライブ感もある。そういうことも、ファッションを楽しむうえですごく大切なんじゃないかと思っています」
誰かに語りたい、誰かと語りあいたいブランドに、久しぶりに出合えた気がする。
祐真朋樹
ファッションディレクター、スタイリスト。1965年生まれ、京都府出身。雑誌『POPEYE』のエディターを経て、スタイリストに。数多くの雑誌、広告などを手がけるメンズファッションの第一人者。IG: @stsukezane
Text: Kosuke Kawakami
Photos: Junji Hata(Cyaan)
Edit: Yuka Okada(81)