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GINZA SIX EDITORS

ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。

The “Right Now” of the Venerable Old Stores at GINZA SIX

山下 英介 フリーエディター

食事や買い物といえばチェーン店しかない、味気のない新興住宅地で育ったことの裏返しだろうか。大人になった僕は、生活すべてにおいて歴史とか様式美とか、それに裏付けられた味わいってやつを求める、メンドクサイ男になってしまった。

そんな僕にとって、長い歴史を誇る老舗が軒を連ねた銀座とは、侵すべからざる存在である。「煉瓦亭」のオムライスで腹ごしらえをしたら、「カツミ堂」や「三共カメラ」でライカの古いレンズを探して、歩き疲れたら「カフェ・ド・ランブル」でひと休み……ってのが理想の休日。三つ揃いのスーツに中折れ帽をかぶって、鼻歌まじりに並木通りあたりを闊歩しているときの僕は、1920年代の〝モボ〟気分に浸っているので、できればひとりにしておいていただきたい。

でも、決して僕は単なる懐古主義者ではない……と思っている。なぜなら僕の仕事はファッションエディター。明治以降、世界中から最先端かつ最高級の文物を取り入れながら進化し続けてきた銀座という街は、そのフィールドワークに最もふさわしい街でもあるのだ。ずいぶん前置きが長くなってしまったが、僕がなぜ「GINZA SIX」に通うのかといえば、ここには大好きな老舗や、歴史あるブランドの〝今〟が、ジャンルを超えて凝縮されているからなのだと思う。

たとえば、ダンヒル。1893年に英国で創業し、ビスポークスーツ、ドライビンググッズに至るまで、紳士に必要なありとあらゆる品物をそろえた、言わずと知れた名門ブランドである。日本では銀座中央通りにバーバーやテーラー、バーを備えた本店を構え、僕たち日本人に本場のジェントルマンスタイルを伝え続けてくれている。

しかし、こちらが「GINZA SIX」にオープンさせた「ダンヒル GINZA コンセプトストア」(2F)は、ひと味違う。その商品のラインナップは、今まで日本では手に入りにくかった、最新のランウェイコレクションが中心。オーバーサイズのニットやワークパンツ、スニーカーなどなど、今まで僕たちがダンヒルに抱いていたイメージを覆す、ストリートテイストのカジュアルアイテムばかりである。

とはいえ、もちろん名門ダンヒルらしさは健在。一見ラフなジャージーであってもその素材は驚くほど上質だし、シャツにプリントされた幾何学模様は、ブランドのルーツに紐づくクラシックカーの、塗装が剥げた質感からインスパイアされたもの。業界でも屈指の洋服マニアとして知られるクリエイティブ・ディレクター、マーク・ウェストン氏ならではの深い考察が、ひとつひとつに息づいている。また、上質なテーラードウエアの内部には複雑に組み合わせた芯地が使われているのだが、それを大胆にもジャケット(330,000円 ※以下全て税込価格)の表地として使ってしまうあたりには、確信犯的な遊び心も感じさせるのだ。

なかでも個人的に気になったのは、英国紳士御用達のアタッシュケースを、なんと今どきサイズのミニショルダーバッグにアレンジしてしまった、『ロックバッグ』というシロモノ(ブラックのパテッドレザー320,100円・ゴールドのメタル573,100円)。まさにクラシックとモダンのフュージョンともいえるこちらが、ダンヒルの新しいアイコンバッグなのだという。

これならカジュアルな装いにも気軽に取り入れられそうだが、専門の職人が手がけただけあって、つくりは過剰なまでに超本格派! 精巧なケースの設計から真鍮製の金具、そして開閉した時の「パカッ」という手応えに至るまで、本物のアタッシュケースを完璧に再現している。正直いってお値段はカワイくないし、金属製のものにいたっては中にモノを入れられないほどの重量感なのだが、こういうユーモアのセンスを備えた男こそ、現代のジェントルマンだと思うのだ。

さて、『ロックバッグ』に後ろ髪引かれつつ向かった次なる目的地は、「ライカ」の直営店である「Leica Store」(5F)である。何を隠そう、僕はちょっとしたライカの愛好家。フィルム機から最新のデジタルカメラまで、編集者としてはそこそこのコレクションを所有し、仕事でもよく使っている。

紳士諸兄ならご存知だろうが、銀座という街は、クラシックカメラとライカの街でもある。これほどカメラ店が密集して、希少かつ状態のよいレンズやカメラが手に入りやすいエリアは、世界的に見ても唯一無二。コロナ禍以前は、外国人観光客で大繁盛していたものだ。

そんな土地柄ゆえか、「GINZA SIX」と同じ銀座6丁目には、世界で初めてつくられたというライカの直営店がある。ここでは現行アイテムのフルラインナップをそろえるとともに、万全の修理体制を整えており、僕もしょっちゅうお世話になっている。

直営店があるのに、どうして目と鼻の先にある「GINZA SIX」にもLeica Storeをつくったのだろう?と思わなくもなかったが、これが使い勝手がいい。定休日がなく、しかも直営店より営業時間が長いので、仕事が終わったあとやディナーのついでに、ふらっと寄ることができるのだ。

広々とした開放的な空間のせいか、いつもは遠慮しがちな試し撮りも、ここなら気軽にバシバシ試せる。ライカにおける屈指の名作レンズを復刻した『ノクティルックスM f1.2/50mm ASPH.ブラック』(990,000円)や、僕の現在の主力機『ライカ SL2』に着けたいズームレンズ『バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.』(352,000円)など、憧れの高級レンズを次々と試写。

そして、このところ気になっていた、ライカ初のスマホ『LEITZ PHONE 1』(187,920円 ※GINZA SIX店では試写のみで販売はなし)を、初めて手に取る機会にも恵まれた。その凝ったつくりはもちろん、写り具合までも見事に〝ライカ的〟で、編集者としては「こんな写真が世の中に溢れちゃったらどうしよう?」と不安にさせられるほど。僕ももっと腕をあげないといけないなあ!

最近、時計やジーンズ、クルマ、カメラなど様々な分野でヴィンテージ人気が過熱しており、ライカのオールドレンズにも、驚くほどの高値がついている。それらを現行のアイテムと較べてみると、大概のケースで「昔のほうがよかった」と思わされることが多いのだが、ライカだけは別。昔のものと今のもの、それぞれにまた違った魅力があり、このデジタル時代においてもきちんと共存できているのだ。その分、ファンとしてはほしいモノだらけになってしまって非常に困るのだが…。

さて、試着&試写疲れに効く甘いものを求めて、移動したのは地下2階。ここには葉山の人気店マーロウや、言わずと知れた銀座千疋屋など、僕好みの名店が軒を連ねている。しかも「GINZA SIX」限定スイーツも売っていたりするから、油断ができない。そんな中、ふと目に留まったのが、岐阜県恵那市に本店を構える老舗和菓子店、「恵那栗工房 良平堂」の看板である。

実はちょうど昨年の秋、仕事で中山道を旅する機会があったのだが、その際に偶然こちらに立ち寄り、新栗でつくった栗きんとんのキュートなビジュアルと、東京で食べるそれとは全く異なる、豊かで複雑な味に驚かされたのだった。生まれて初めて体感した、木曽〜美濃エリアの〝山の文化〟を象徴するようなこの名店に、支店があったとは知らなかった!

今日は朗らかな名物スタッフの加藤さんに勧められて、干し柿の中に栗きんとんを仕込んだオリジナルの逸品『栗福柿』(1個300円〜)など、何種類かのスイーツを購入。どちらも栗の自然な甘みを活かした風味だから、和菓子が嫌いな方でも美味しく頂けるに違いない。僕はあまり強くないほうだが、シングルモルトに合わせてもいいだろう。

1893年創業のダンヒル、1914年創業のライカ、そして1946年創業の良平堂。ジャンルこそ全く異なるが、今日訪れた3つの老舗ブランドに共通するのは、その歴史に安住せず、新しい商品やサービスに果敢に挑戦する、前向きなスピリットだった。そうして進化し続けたからこそ、現在の地位があるのだろう。

なにかと大変な時期だけれど、僕も前を向いて頑張ろう! と、決意を新たにしたついでに、ライカのレンズでも1本買って帰るか…。えっ、そんな無謀な買い物をしたら奥さんに怒られるんじゃないかって? いや、それは心配ない。だって今日のお土産は、彼女の大好物である良平堂の栗きんとんなのだから。

Text:Eisuke Yamashita Photo:Yuichi Sugita Edit:Yuka Okada(81)

GINZA SIX EDITORS Vol.112

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山下 英介

1976年埼玉県生まれ。『LEON』や『MEN’S EX』など、2000年代前半から様々なメンズファッション&ライフスタイル誌の編集を手がける。2009年からは『MEN’S Precious』の創刊に携わり、2020年秋までクリエイティブ・ディレクターをつとめる。趣味はカメラと海外旅行。英国からインドにいたるまで、世界各国のクラシックスタイルと、ものづくりの現場を取材している。現在は週刊文春、文藝春秋などでファッションページを手がけるとともに、2021年秋に、新しいオンラインメディアをローンチ予定。 Instagram: @eisuke_yamashita
Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中

ダンヒル GINZA コンセプト ストア

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Leica Store

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恵那栗工房 良平堂

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2021.08.16 UP

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