GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
もうひとつのステージを隠したハレの場所 A Special Place with the Promise of Another Hidden Stage
小西 克博
京橋の出版社に長く勤めていたから銀座は庭のようなものだった。仕事が終わりまだ日の残る夏の夕べなどは特に艶やかで、これからもうひとつのステージが確実に用意されているように思えた。
仕事が変わり、銀座に来ることが少なくなったが、それでもここに来るといつも気分は高揚する。午前中に用をすませた私はランチを銀座でとることにした。
GINZA SIX6Fに広がるレストランフロアを歩き、気になっていた「TEPPANYAKI 10 GINZA(テッパンヤキ テン ギンザ)」に入る。いつも客が溢れている印象だが、今日は運良くカウンターに座ることができた。
目の前で香り付けの炎が上がるカウンターで平日限定とあったステーキランチのショートコースを頼む。3,800円(税抜価格)で北海道彩美牛のステーキが食べられるのは魅力的だ。ホール感のある鉄板焼きというのはなかなか珍しく、それにリーズナブルな料金設定も人気の秘密なのだろう。
シャンパーニュを頼み、サラダをいただく。目の前で繰り広げられるシェフの動きを眺めながら、泡で喉を潤し、サラダを口に運ぶ。体がシャキッとするようだ。
ほどなくサイコロ状に食べやすくカットされたステーキが運ばれてきた。赤ワインが欲しくなり、ジューシーな牛肉に合わせる。柔らかくて優しい味だ。
最初は肉を塩とコショウでいただき、それからうずらの卵が入ったタマネギ醤油だれでいただいた。この醤油だれはステーキの脂をさっぱりさせてくれていい。ステーキの量は150gだが、昼下がりのランチにはちょうどいい量だと思う。
ワインが切れたころにご飯とともに高菜が用意される。
「最後はぜひ高菜茶漬でどうぞ」
勧められるまま高菜茶漬けをいただいたが、鰹と昆布のシンプルな一番出汁とご飯と高菜でしめることで、なぜかステーキの旨さが最後にもう一度よみがえってきた。
続いてパティシエがワゴンでデザートを運んでくれる。デザートはすべてフランス人パティシエ、アレクシ・パオラさんのオリジナルで、何品か選んでいただいた。他にパンケーキは目の前の鉄板で焼き上げてくれる。日本語の上手なアレックスさんの一捻りあるカヌレやスフレをいただき、昼間からフルコースをいただいた気分になった。
店を出て、いい気分でフロア内を歩く。
夕方の約束までまだ時間はあったので、B2Fのフードフロアに降りてみた。「BLUE BOTTLE COFFEE(ブルーボトルコーヒー)」が新たにオープンしたというニュースは聞いていたので、寄ってみることにする。白を基調にしたシンプルなしつらえの店内はゆったりしていて、都会のオアシスといった感だ。
注文してから豆を炒りハンドドリップで淹れてくれる「シーズナルブレンド」(¥500)をいただき、おいしそうだったので「リエージュワッフル」(¥500)も注文した。
カップとプレートはGINZA SIX店のためにデザインしてもらったという磁器作家イイホシユミコさんによるもので、ひとつひとつが岐阜県の工房で手作りされたものだという。手触りも口に運んだときの重さの感じも自然でいい。浅めに焙煎されたこの日のエチオピアとケニアのブレンドは、フルーティで酸味が立ち爽やかだ。
目を瞑れれば遠く、コーヒーの木々が茂る深い森の緑に迷い込む。良質なコーヒーは想像力に羽をつけてくれる。食事の後ではあったがほどよい甘さのワッフルは本当においしく、ぺろりとたいらげてしまった。
気になったのはレジ横に置かれたアイスコーヒーの缶(1個600円)。とてもおしゃれで、6個入りのバッグも売られていた。こんなコーヒーを会議の席で出したら気分は上がるだろうな、と思い、お土産に買って帰ることに。
夕方の約束までまだ時間はあったので、そのままフードフロアを散策する。実はけっこう好きな場所なのだ。食のセレクトショップから生まれるトレンドには世相が見事に反映される。
「ワインショップ・エノテカ」ではときどきワインを買う。パリの紅茶専門店「ベッジュマン&バートン」の日本限定だというロイヤルミルクティー味のソフトクリームや焼き菓子は禁断の味だ。
みかんのビールがその場で飲めて農園から直に仕入れた各種みかんを使ったプロダクトが揃う愛媛の「10FACTORY」、福岡県で創業300年を超えるお酢の老舗によるまろやかなお酢や食品のラインナップがすばらしい「発酵酢屋 庄分酢」、福寿園のお茶を使った最上の軽食とお菓子を提供する「くろぎ茶々」…と歩き、酒屋「いまでや銀座」で足が止まる。
角打ちがあるのか。
見るととてもユニークな品ぞろえの店で、ヴァンナチュールからめずらしい地酒まで、リーズナブルな値段で売られている。希少な菊姫の10年物を立ち飲みできるのがうれしくなり、一杯いただくことに。
これはなかなかGINZA SIXの迷宮から脱することができないぞ。
夕方の会合の席に持っていこうと決めていたのは「南風農菓舎・デザートハウス」のデザートだ。ここでは大隅半島で育った芋やハーブを材料に、フランスMOFパティシエ、ダヴィッド・ヴェスマエルさんとオーナー・パティシエの郷原拓東さんがGINZA SIXへの出店にあたり共同でつくったオリジナルのケーキが買える。
自然の甘さを湛えた芋は絶品だ。
3品種のカラー芋でつくった色鮮やかなケーキは、芋のおいしさと見た目の美しさでちょっとした手土産にも喜ばれる。女性がいる席などにはとくに。
「紫芋のショコラベリー」「黄金芋のアーモンドキャラメル」「紅芋のオレンジコアントロー」。これらはどれも溶けないアイスケーキといわれ、完成と同時に冷凍保存されているので、フランス流に彩られた大隅半島の大自然をフレッシュな状態で自宅で味わえるのだ。
3種入りのセット(1,070円)を会合の人数分ギフトラッピングしてもらい、ようやく外に出たときには、もう日が落ち、茜色の空の下、銀座の街には灯がともり始めていた。風の中に秋の気配がある。
これからもうひとつのステージか。ふと昔の自分が重なった。
Text:Katsuhiro Konishi Photos:Kanako Noguchi Edit:Yuka Okada(edit81)
GINZA SIX EDITORS Vol.85
小西 克博
「ヒトサラ」編集長。大学卒業後に渡欧、北極から南極まで約100ヶ国を食べ歩く。共同通信社を経て、中央公論社で「GQ」創刊に参画。2誌の創刊編集長、IT企業顧問などを経て、現職。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中