GINZA SIX EDITORS
ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。
茶の湯のもてなしに通じる、編集力と融通無碍なもてなし力 A Curator’s Vision and Boundless Hospitality Recall the Art of Chanoyu
中村 孝則
今回、GINZA SIXをじっくり巡って、ここには、茶の湯の極意に通じるもてなしの原点があると感じました。いきなり茶の湯などというと、約束事が多く敷居が高く感じる人もいるかもしれませんね。確かに、茶の湯が網羅する範囲はとても幅広い。庭木の植栽から石組に至る路地の塩梅。茶室をめぐる建築に微細から、床の間のしつらえに必要な書画に茶花、炭道具から香から懐石料理に菓子、季節ごとの着物に至る、ライフスタイルの全てが含まれますから。それらの全ての微細に、アート的な感性を入れるのが茶の湯の面白いところで、千利休はその達人だったのですね。GINZA SIXも見方を変えれば、ライフスタイルの総合的な演出をしているわけで、そこに美的で編集的な仕掛けが随所に施されていることが、茶の湯的だと、私は思うのでありました。利休は、茶人でもありましたが、同時に審美眼を持ったアートディレクターであり、イベントプロデューサーでもあったわけですが、もし彼が蘇ってGINZA SIXを見たのなら、「やられた!」と随所に驚き悔しがるがるのではないか。私も茶人の端くれであるから、今回は利休さんにでもなったつもりで、茶人目線で選んだGINZA SIXを巡ってみたいと思います。
地下2階の「くろぎ茶々」の店構えは、まさに茶席の設えがそのままに。蹲を配した小さな路地を通り店内に入ると小間の茶室のような5人がけのカウンターが配され、市中の山居よろしく非日常感を演出します。
ここのメニューは、名物の「鯛茶漬」(3,000円 以下全て税抜価格)のみ。しかし、ただのお茶漬と侮るなかれ。茶事の一汁三菜ではないが、この御膳にはご飯と味噌汁の他に、特製ゴマだれに和えた新鮮な鯛の刺身、小鉢、酢の物、香の物までつくではないですか。これで十分な懐石料理になっているのです。
まずは、炊き上がった白いご飯だけで鯛を堪能した後に、別の丼でお茶漬として味わいます。別々の味わいが楽しめるのが味噌です。そのお茶も、煎茶や焙じ茶などから選ぶことが可能。
ご飯だけでなく、なんとゴマだれの鯛まで、満足いくまでお代わり自由という。ちなみに、午前10時半から開店しているので、遅めの朝食としてオススメしたいですね。東京は美味しい和食の朝食をたべられるところが少ないのです。
デザートのお菓子は、お土産でも買える「常葉白練」。上半分が宇治抹茶の入った葛羹で下半分は北海道産のクリームチーズで構成されています。
菓子と一緒に抹茶が点てられます。こちらの店は寛政2年創業、京都のお茶の老舗「福寿園」とコラボレーションしているので、本格的な抹茶が楽しめます。
この日は、手慣れた手つきの中村大輔さんによる一服。「お服加減、まことに結構です」
13階の「GRAND CRU CAFÉ GINZA」は、ミカフェートの創始者でコーヒーハンターでも知られる川島良彰さんプロデュースのコーヒー専門店。まるで高級フランス料理店のような店構えですが、コーヒーの究極のサロンとも言える、世界でも類を見ない演出がなされています。川島さんは、前に私がレギュラーを務めていたNHK BS1「エル・ムンド」にも出演してくださったご縁があるのですが、「コーヒーも高級ワインのような楽しみ方がある」という持論を具現化したお店になっています。
こちらのコーヒーの特徴は、世界中から厳選した究極のコーヒー豆が焙煎されたうえ、シャンパン用のボトルに一本づつ詰めれています。ゲストは、ワインバーの要領で好きなボトルを購入して淹れてもらうシステムです。
なぜ、コーヒー豆をシャンパン用のボトルに詰めるかといえば、豆から出る炭酸ガスを封じ込めるため。炭酸ガスには、コーヒー豆本来の香りやフレッシュさが含まれているからです。ゲストの目の前で栓を開けると、「ポン」という小気味いい音と共に、焙煎したての芳しい香りが広がります。それは、ここでしか楽しめない快感です。
コーヒーは一杯ずつ客の目の前でドリップされます。この日は、プリンシパルコーヒーエバンジェリストの正木俊樹さんによるお点前。きっちり量を図り、87度のお湯でドリップします。これも官能の瞬間。
この日選んだ豆は、パナマのコトワ農園の「リオ クリスタル ゲイシャ バーガンディー ナチュラル」。川島さんは常に「コーヒーはフルーツ」と言いますが、このコーヒーも上質なブルゴーニュ・ワインのようなベリー系のフルーツ香が、口腔から鼻腔に心地よく抜けていきます。
こちらのコーヒーカップは、ほとんどオールド・ノリタケの一品モノばかり。貴重な器で飲む体験もまた格別な体験です。
同じく13階にある「THE GRAND GINZA」は「銀座の大人にふさわしい、日本のトレンドや文化の発信地」をコンセプトに、約500坪のフロアにラウンジ、レストラン、パーティスペースから、多目的ホール、茶室、12席限定のシェフズカウンター、バーを備えた総合的なもてなしを目指しています。
今回は、VIPルームでお食事をいただきました。銀座のど真ん中で、このような和の空間があるとは驚きです。ここは予約制ですが、別途の室料を払えば併設するレストラン「THE GRAND47」の料理も楽しめます。
「THE GRAND47」のコンセプトは、47都道府県の素材と食文化を、期間ごとに楽しめるというもの(ランチコース:3,800円〜、ディナーコース:7,000円〜)。2018年2月15日から3月31日までのテーマは「四国」。
こちらの前菜は、鳴門海峡をイメージした盛り付けに、四国の鯛が昆布締めに。
メインの料理は、届いたばかりの四国の旬の筍や、オリーブ牛が珠玉の一皿に。
デザートはかつて銀座の味として親しまれて、2015年に閉店した「マキシム・ド・パリ」の名物だった「苺のミルフィーユ」のレシピを、当時の初代パティシエと元総支配人から受け継ぎ再現。こちらは、一日限定20個でテイクアウトも可能だといいます。
今回、茶人目線ということもあり、あえて着物でGINZA SIXの館内を巡りましたが、大人が一日中着物で巡るにふさわしい、アート・オブ・ライフの空間であることを知ることができた、貴重な体験となりました。
Text:Takanori Nakamura Photos:Kanako Noguchi Edit:Yuka Okada
GINZA SIX EDITORS Vol.27
中村 孝則
コラムニスト。ファッションやグルメ、旅やライフスタイルなどをテーマに幅広く執筆や講演などを行う。現在「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士七段、大日本茶道学会茶道教授。著書に「名店レシピの巡礼修業」(世界文化社)、共著に「ザ・シガーライフ」(ヒロミエンタープライズ)などがある。Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中