考え、創り、発表する。
親子でアートを体験。
清川あさみ|美術家 × SCUOLA GINZA SIX
写真に刺繍を施す手法や、ビーズや布、糸で織りなす美しい作品で注目を集め、書籍や絵本、プロデュース写真集なども数多く出版している美術家の清川あさみさん。GINZA SIXで運営している次世代を担う子どもたちに向けたカルチャープログラム「SCUOLA GINZA SIX」で、世界でたったひとつの空想植物を作るワークショップをGINZA SIXガーデンにて開催しました。
今回子どもたちが体験したのは、彼女の代表的な作品シリーズの1つである「Dream Time」の手法を用いて、造花にビーズやクリスタルで命を吹き込んでいく作品づくり。考え、創作し、発表、そして展示するところまでを見据える、清川さんの考えるアート体験とは?
宝箱を開いたような、
キラキラとワクワクがいっぱい。
よく晴れた青空の下、ワークショップのテーブルに用意されたのは、大きな葉っぱやきれいな花の造花。12色のパステル絵の具とキラキラとかわいいビーズやスパンコール、シール、ボタンにリボンやレースまで。ずらりとそろった手芸の材料を見ると、子どもの頃に宝物を集めるようにビー玉やクリスタルを大切に箱にしまっていたような懐かしさとワクワク感が込み上げてくるようです。
「みんな好きな造花と材料を選んでね。キラキラしたものをたくさん付けてもいいし、色を塗っても、葉っぱを切っても、何をやってもいいんだよ。自分が思った世界にたった一つの空想植物を自由に作ってみよう! 完成したら作品に名前をつけて、みんなの前で発表してもらいます。もしかしたら、美術館に展示されちゃうかも!?」(清川さん)
難しい説明はそこそこに、清川さんのかけ声と共に早速ワークショップがスタートします。子どもたちはセンターのテーブルに集まり、材料選びに夢中です。
今回のワークショップで清川さんが取り入れたのは、代表作「Dream Time」の手法です。造花に刺繍を施し、ビーズやクリスタルで新たないのちを吹き込んでいきます。
「実はこのワークショップは、ずっと頭の中で寝かせていた企画だったんです。今回は会場がGINZA SIXの屋上ガーデンということで、私が思い描いていたワークショップにピッタリだな、と。屋上を使った外遊びは自然との境界を感じないというか、造花ではありますが創り出した妄想の植物が周りの植栽とも溶け込むというか、自然と連動したインスタレーションにも繋がると感じました」(清川さん)
親子の動きをよく観察しながら、
一人ひとりの個性を把握する。
材料を選び終わり、作業テーブルについた子どもたち。慣れない環境に最初はソワソワしていた子どもたちも、次第に真剣な表情で植物づくりに没頭していきます。
迷わず絵の具を選んで大胆に色を塗っていく子。慎重にビーズを選びながら、どこに置こうかと吟味する子。ハサミで葉っぱをカットしたり、絵の具を混ぜ合わせて自分だけのオリジナルカラーを追求する子。一人で黙々と手を動かしたり、親子で相談しながら一緒に作業を進めたり、やり方もイメージも、みんな本当に個性的です。
「面白い形の葉っぱを選んだねぇ」、
「何かイメージがあるのかな?」、
「もうできたの!? 早い! カッコイイ!」、
「生命力が強そうだねぇ」、
「余った葉っぱも使えるかもしれないから、よく観察してみよう」、
「リボンだけちぎって使ってもいいよ」
「こんな使い方があったんだ!」
各テーブルを回りながら子どもたち一人ひとりとコミュニケーションをとっていく清川さん。子どもたちそれぞれの面白さを引き出しながら、さりげないアドバイスを忍ばせて、彼らの自由な発想と表現力と触れ合い、清川さん自身も楽しんでいる様子です。2児の母でもある清川さんは、自身も親子でワークショップに参加するのが大好きだそう。
「ワークショップは、企画するのも参加するのも大好きなんですが、親子ワークショップは特に面白いですよね。自分が教える側の立場にいる時は、親御さんの動きも見ながら子どもたちの個性を把握していきます。個性的だけどそれがうまく表現できない、アイデアはあるけど技術が足りない、ゆっくりだけど丁寧……。子どもたちに話しかけながら、個性を掴んで、それを伸ばしてあげられるように心がけています」(清川さん)
子どもの個性が
アート作品として完成する。
1時間ほどの作業で、それぞれ2つの空想植物を完成させた子どもたち。そして出来上がった作品と向き合いながら、配られた名札に作品タイトルを書き込んでいきます。
「工作をして終わりではなくて、作品にきちんと名前をつけてそれをみんなの前で発表するというところまでを一つの流れとして体験してもらいたかったんです。名前をつけて発表するということは、コンセプトを人に伝えるという意識につながりますし、空想で何を作ってもいいんだ、という自己肯定感も育つと思います。ただ参加するだけではもったいないので、これが何かしらの学びの場になってくれたら嬉しいと思っています」(清川さん)
子どもたちが成長して、社会に出て必要になるであろう、企画、制作、プレゼンという流れが全部組み込まれ、それが楽しく遊びながら体験できるという素晴らしい仕掛けまで隠されていた今回のワークショップ。そして発表の途中では、「あの子にあげたい」と、完成した空想植物を女の子に差し出す微笑ましいシーンもありました。
魚のような形の葉っぱには「おさかな葉っぱ」、
紫色のシンメトリーな葉っぱには「ひかる葉っぱ」、
葉っぱにレースの重ね付けを施した「ちょうちょ」、
紅葉を糸で繋いだ作品には「あきちゃん」、
中には「わたし」という堂々たるタイトルも。
作品に負けず劣らない個性的な名前がつけられた空想植物たちは、まさに新しい命を吹き込まれたように生き生きと輝いて見えます。
空想して、
ゼロから1を生み出す。
「大切にしているのは、無理をさせないということ。“やっちゃいけない”、“こうしなきゃいけない”と押し付けてしまうと子どもの個性は隠れてしまうし、無理やりやらされていると感じると、飽きてそっぽを向いてしまう。親子で楽しく過ごす時間の中で、たまたまアートが出来ちゃった!という体験が大切!」(清川さん)
今回のワークショップは3歳~5歳、6歳~10歳の子どもたちが対象でしたが、今年の4月から大阪芸術大学の客員教授に就任した清川さん。教育の現場に触れ、大学生たちと一緒にプロジェクトを進める中で社会と教育のあり方に対する独自の気づきがあったそうです。
「私のゼミでは、美術、アートサイエンス、デザイン、放送といろいろな科の学生が集まっているので、学生さんたちそれぞれに得意なものをプレゼンしてもらって、各自適切なポジションに配置して1つのプロジェクトを進行しています」(清川さん)
それぞれの得意分野を持ち寄って、1つの仕事やプロジェクトを成し遂げる。それはまさに、実際の社会の現場で行われていることだと言えます。
「だから学生自身が学校での勉強も上手に利用して、社会にコミットしていってほしいと思っているんです。これからの時代、空想すること、ゼロから1を生み出すことが大切。どれだけたくさんアイデアを見せられるか、提案できるかが大事になると思います」(清川さん)
自身も二人の男児の母である清川さん。家庭では、子どもたちとどのようなコミュニケーションを取っているのでしょうか。
「目に見えていることの裏側にあること、背景やストーリーを考えることを大切にしています。例えば食事の準備をしている時でも、『この野菜はどこから来たと思う?』、『これを使って何が食べたい?』、『どういうところが好き?』『なんで好きなの?』という具合。我が家は3歳児以上に、大人もナンデ?ナンデ?なんです(笑)。自分も子どもたちも、未来につながる、いつでも意味のあることをしていきたいと思っているんです」(清川さん)
この日のワークショップで生み出された空想植物は、1つはご家庭へお持ち帰り。そしてもう1つは美術館展示のために、清川さんが責任を持ってお預かりさせていただいています。
「今回モチーフにした『Dream Time』は、今後もインスタレーションとして続く作品シリーズです。その中に、子どもたちが作った作品が紛れ込んでいったら面白いかなあ、と思って。彼らの作った空想植物が旅するように、いつかどこかの美術館で出会えることを楽しみにしていてください」(清川さん)
今後も「SCUOLA GINZA SIX」では楽しいワークショップを開催していきます。これからの「SCUOLA GINZA SIX」にもぜひご期待ください。
清川あさみ|美術家・絵本作家・プロデューサー
兵庫県・淡路島生まれ。服飾を学ぶと共に雑誌の読者モデルをしていた2000年代より“ファッションと自己表現の可能性”をテーマに創作活動を行う。2003年より写真に刺繍を施す手法を用いた作品制作を開始。代表作に「美女採集」「Complex」「TOKYO MONSTER」などがあり、個人のアイデンティティを形成する内面と外面の関係、そこに生じる心理的な矛盾などを主題とした作品を発表している。空間、店舗デザインなども手がけるほか、絵本や作品集も多数。2021年に音楽ユニットのYOASOBIのMVの監督・絵コンテ・原画を担当、2022年4月に大阪芸術大学の客員教授に就任するなど幅広く活躍する。
Photo:Masanori Kaneshita
text:Chisa Nishinoiri
Edit:Rina Kawabe(Edit Life),Hitoshi Matsuo(Edit Life)
ABOUT SCUOLA GINZA SIX
GINZA SIXが企画運営を行う「SCUOLA GINZA SIX(スクオーラ ギンザ シックス)」は、次世代を担う子どもたちに向けたカルチャープログラム。「Enrich your creativity」をテーマに各界で活躍する一流の講師陣を迎え、カルチャー・アートを中心としたワークショップを開催していきます。今後の企画にもぜひご注目ください。