究極の美、700年つづく伝統芸能にふれて、体感する。こども能体験講座 観世三郎太|能楽師× SCUOLA GINZA SIX
GINZA SIXのB3Fには能楽堂があります。正式名は「二十五世 観世左近記念 観世能楽堂」。2024年7月15日、この観世能楽堂で、伝統と歴史を継承することの大切さを学ぶことを目的に、700年の歴史をもつ日本を代表する伝統芸能「能楽」を学び、体感する「SCUOLA GINZA SIX 子ども能体験講座」が開催されました。
教えてくださったのは二十六世観世宗家・観世清和先生の嫡男で、次期観世宗家として注目される観世三郎太先生。プログラムの最後には三郎太先生が面(おもて)・装束をつけ、ダイナミックな演目「土蜘蛛」を目の前で演じてくれるという、スペシャルな鑑賞会も。日本が誇る伝統芸能の本質に触れられる「セッション」に、参加した子供たちの瞳も輝いていました。
700年続き、神様に奉納する能楽は
所作の美しさを鑑賞する芸能
講師を務める観世三郎太先生は現在25歳。5歳で初舞台、16歳のときに初めて面(おもて)をつけて演じる「初面(はつおもて)」を勤めたそう。NHK「にほんごであそぼ」をはじめ、様々なメディアで活躍する能楽界の若手のホープです。今回、子どもたちに近い世代として、能楽を見たことのない参加者でも、自然に能楽について学べ、どんな特徴をもった伝統芸能なのかを体感できるプログラムを考案してくれました。
約2時間のプログラムは能楽に関する豆知識や謡の稽古、お囃子のレクチャーなどの座学、そして能面や装束を実際に身につけたり、白足袋を履いて舞台に立ってみる能楽ワークショップ、その集大成として観世三郎太先生が演じる「土蜘蛛」の鑑賞会の3部構成です。700年続く能楽は、究極の美を舞台で表現し、美しい所作を見せる伝統芸能。幻想的で神々しい幽玄の美とはなにか、実際に体験しながら、その謎にせまります。
第一線で活躍する現役能楽師
お囃子方が直接、子どもたちに指導
観世三郎太先生のあいさつの後に、能楽堂の形式について、観世流一門の能楽師、角幸二郎先生がわかりやすくレクチャーしてくれました。
「能楽堂に必ず老松が描かれているのは、能が神様に奉納する芸能であり、松には神様が宿っていると信じられているからです。」
こちらをみてください、と揚幕(五色の幕)と舞台をつなぐ廊下、橋がかりに植えられた3本の松を指しながら
「舞台側より奥の方がだんだんと小さくなっています。700年前の人々がもう遠近法を活用していたんですね」。
国に認められた重要無形文化財総合認定保持者である角幸二郎先生は、時にはクイズ形式で問いかけるなど、小学生にもわかりやすく能舞台について解説してくれました。同じく神様に奉納する相撲の土俵と違って、能舞台には必ず4本の柱があるのも特徴です。
「激しく格闘するお相撲では、テレビ放送のために柱が邪魔になるということで外してしまいましたが、能楽にはこの柱がないと大変なことになってしまいます。そのことは能面をつけてみるとわかりますよ」
とにっこり。
「そう、面(おもて)をつけると視界が狭くなり、足元が見えません。舞台から落ちたりしないように、柱で位置を確認できるからです」
と正解を教えてくれました。
能は演者がうたい、舞う、いわばジャパニーズミュージカル。謡(うたい)と言われる節をつけたセリフの発声法にも挑戦してみました。能楽は初体験という参加者も、独特の音程でお腹から声を出すことができ、先生も驚いていた様子。
次は音楽を担当するお囃子方のみなさんによる、能楽で使われている楽器に関しての解説です。笛はわざと音程が安定しないつくりで能楽ならではの幽玄さを表現していること、小鼓、大鼓、太鼓の違いや手入れ法、どんな場面でその音色が使われるのかなどを楽しく解説してくれました。小鼓を打つリズムにみんなでチャレンジしてみる体験も。能の舞台が様々な芸術家、専門家によって支えられていることを学びます。
代々使われてきた面(おもて)を手に取り
舞台ですり足を体験するお稽古も
能楽ワークショップでは、3つのグループに分かれて、演者の視点から能楽と向き合います。一人ひとり、実際に舞台で使われている能面を手に取り、その重さや質感、つけたときの視界などを体感してみます。
「一つの面(おもて)が微妙な首の傾きで悲しい表情に見えたり、怒った顔に変化したりするんですよ」
と角度を変えて見せてくれました。実際に使用している面(おもて)の中には博物館・美術館に飾られるような、歴史的、美術的価値の高い平安・鎌倉・室町時代の貴重な面(おもて)もあり、三郎太先生の家(観世宗家)には、実際に重要文化財に指定されている面(おもて)もあるそうです。
「そんな面(おもて)や装束を身につけて演じている能楽の舞台は、動く美術館でもあるんですよ」
装束を着けてみるワークショップでは記念撮影大会に。普段は立つことのできない舞台にあがり、白足袋を履いて、身体の軸をぶらさずすり足で歩いてみるお稽古も体験しました。
観世能楽堂で初めての能楽鑑賞
土蜘蛛が繰り出す糸の迫力にわきました
「こども能体験講座」を締めくくるのは観世三郎太先生演じる「土蜘蛛」の能楽鑑賞。実際に面(おもて)をつけたときの視界の狭さ、装束の質感や重さを体感したからこそ、演者からの視点でも鑑賞することができそうです。謡は昔の言葉が使われているので、理解するのは難しいかもしれませんが、まずは感じてみることが大事。
「能の舞台では物語が終わっても拍手はすぐにせずに、お囃子方がこの柱のあたりまで歩いたころに拍手をしはじめます」
とあらすじはあえて伝えず、先生は能鑑賞のしきたりだけ教えてくれました。
室町時代の末期から演じられているという「土蜘蛛」は悪い蜘蛛の妖怪を退治するストーリー。1日の最後に演じられる5番目物、切能(きりのう)と呼ばれる演目です。ちなみに切能は「ピンからキリまで」という表現の語源でもあるのだそう。
5番目物は鬼や天狗、龍神などの人間ではない異類が登場することが多く、派手でダイナミックな演出が特徴です。「土蜘蛛」の舞台も迫力満点。塚から土蜘蛛が現れ、投げつけた蜘蛛の糸が放物線を描くシーンでは、子どもたちが息を飲む気配を感じました。ダイナミックな舞台演出に引き込まれて、初めての能体験は終了。
「土蜘蛛が強そうだった」
「糸がぱあっと広がるところがかっこよかった」
「自分も蜘蛛の糸を投げてみたい」
などいろんな感想が。蜘蛛の糸は細い和紙で作られているのですが、それを作れる熟練の職人さんも減っているのだそう。
蜘蛛の糸を、今回特別に、記念として持ち帰ることができました。
将来、世界に羽ばたく次世代が
日本の伝統文化に誇りをもつきっかけに
「世界で活躍し、次世代を担う子どもたちが日本の文化について聞かれたとき、思いつくのが、お寿司やお相撲だけではもったいない。日本には700年継承されてきた能楽という芸術があることを、将来、思い出してほしい」
能楽という美しさを表現する芸能に触れ、感じ、誇りに思ってほしい。興味を持つきっかけになってほしい。今回のプログラムにはそんな狙いもあるのです。
観世能楽堂では通常より、スヌーピーとコラボした限定グッズを展開。能楽師になったスヌーピーが土蜘蛛や翁に扮した可愛いクリアケースや巾着なども販売しています。終了後は真剣におみやげを選ぶ子供たちの姿も。かわいいグッズとともに、今日の想い出も胸に、参加者は帰路につきました。
ABOUT SCUOLA GINZA SIX
「SCUOLA GINZA SIX(スクオーラ ギンザ シックス)」は、GINZA SIXが、2022年より、継続して開催している次世代を担う子どもたちに向けたカルチャープログラム。「Enrich your creativity」をテーマに各界で活躍する一流の講師陣を迎え、カルチャー・アートを中心としたワークショップを行っていきます。
※SCUOLAとはイタリア語で「学校」という意味です。