[TOKYO]VERBALが描く日韓カルチャーの未来地図
[SEOUL]韓国カルチャー、成長から成熟への分水嶺
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Creating Culture Beyond Borders
境界を越える、新たな文化が生まれる
写真/シャツ“COMBI SHORT SS” ¥61,600・デニムパンツ“BOOTS DETAIL DENIM PANTS” ¥57,200・サングラス“FHONIX” ¥35,200・AirPodsケース“A' FLAP AIRPODSCASE” ¥45,100/アンブッシュ® ワークショップ ギンザ(3F)
VERBALが描く日韓カルチャーの未来地図
「ソウル、東京銀座、GINZA SIX」を特集テーマとした今回の『GINZA SIX magazine』。
VERBALさんはそのオープニングを飾るにふさわしい存在であり、韓国と日本の文化的つながりにおいて、その功績を無視することはできない。m-floのラッパーとして知られ、K-POPブーム前夜から韓国のアーティストらと親交を深め、両国の音楽カルチャーを牽引。今年2月にはパートナーのYOONさんと手掛けるファッションブランド「AMBUSH®」がGINZA SIXにもオープン。銀座にも足を運ぶ機会が増えた。誰よりも世界を飛び回り、国境もジャンルも問わず縦横無尽に活躍し続けるVERBALさんは、ソウルと東京のカルチャーに何を見るのか。
写真/今撮影のためGINZA SIXにやってきたVERBALさん、近年はTERIYAKI BOYZ®としてアジアンカルチャーを発信する「88rising」のフェスに出演するなど、新旧多くのアーティストから愛されるアジアのアイコンになってもいる。いつかは日韓アーティストが集まり、フードやテクノロジーのトレンドも紹介されるようなフェスをつくってみたいという。
国を超えて、異なるカルチャーをつないでいく
「20年前から韓国のカルチャーはエネルギッシュで、僕自身刺激も受けました。日本と同じ面もたくさんあるけれど、韓国は昔から国を超えた広がりを強く求めていたんです」
そう言ってVERBALさんは韓国カルチャーとの出会いを振り返った。日韓のクリエイティブカルチャーを考えるうえで、彼の存在を無視することはできないだろう。m-floのラッパーとしてデビューしたVERBALさんはエンタメやファッションはもちろんのこと、いまではWeb3シーンを考えるうえでも無視できない存在となっている。その領域横断的な活動こそが、日韓の音楽カルチャーを盛り上げてきたことも事実だ。m-floが実践した「featuring」というコラボレーションスタイルや洋楽/邦楽の枠組みに収まらない多言語表現は新たなスタンダードをつくり出し、いまK-POPやK-HIPHOPのシーンで活躍するアーティストにも少なからぬ影響を与えている。
「留学時代からよく聴いていたJINUSEANというヒップホップデュオと2000年に韓国でたまたま出会ったんです。そこで今ではBLACKPINKのプロデューサーを務めているTEDDYやG-DRAGONとも知り合い、有機的に親交が深まっていきました」
当時は日本の音楽産業規模も大きく韓国市場に注目する者は少なかったが、その後K-POPブームが巻き起こり、世界中を魅了したことは言うまでもないだろう。
「韓国は効率的なクリエイティブの仕組みをつくるし、リスクをとって海外へ出ていく。政府もそれを支援します。日本は少し職人気質で、内にこもりがち。でも日本のマンガやアニメは世界で愛されていて、活用できるIPはたくさんある。これからはコンテンツを一種の“武器”として海外に打ち出す仕組みが増えてもいいはずです。その方が若いアーティストも海外に進出しやすいですから」
VERBALさんの特徴は、こうしたプロデューサー視点や戦略性にもある。ポップアートからインスピレーションを得たデザインで、今年からGINZA SIXにも仲間入りした「AMBUSH®」でも、パートナーのYOONさんとはデザインとビジネスで役割を分担しながらその活動を広げる機会を伺っている。
写真/2023年2月、GINZA SIXに「AMBUSH® WORKSHOP GINZA」がオープン。銀座エリア初となる旗艦店とあって、他店舗より好奇心の強いMZ世代の来店が多いそう。
「ファッションビジネスは体力が求められますがそのぶん達成感も大きく、音楽とは異なる刺激を感じます。AMBUSH®は渋谷や大阪・梅田から始まり上海、香港など海外にも直営店を展開していますが、ブランドの成長を見据えラグジュアリーなエリアで勝負する時期に来ていると感じていたので、GINZA SIXを通じて銀座に出店できたことはうれしいです。特にこうした商業施設はシナジーも生まれますし、この店舗を新たなカルチャーのポータルへと育てていきたいですね」
さらにAMBUSH®ではNFTやメタバースを活用しウェブ上にファンコミュニティをつくるほか、自分でもWeb3や様々なテクノロジーを使って若手デザイナーをインキュベートするプラットフォームの構築などに取り組んでいるという。かようにVERBALは常に自分だけでなく周囲の環境を考え続けているように思える。
「多くの人は、既存の事例があるものしか信じられない。だから率先して未知の領域に飛び込んで世界を広げながら、自分のビジョンを証明し続けるしかない。挑戦だらけで大変だけど、これが僕の“性”なんです」
そう言ってVERBALさんは笑う。既存の枠組みを打ち破ることで、異質な文化が交わり、新たなクリエイションが生まれる。不断に領域を超え続けるVERBALさんがつくっているのは、未来の文化の土壌なのだろう。
VERBAL
バーバル/アーティスト、経営者。1975年東京都生まれ。米ボストン・カレッジ卒業。98年にm-floを結成し、音楽活動を開始。2008年にパートナーのYOONとスタートしたブランド「AMBUSH®」ではCEOを務めている。いま注目する韓国のアーティストはLØREN。
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A Sustainable Environment for Creativity
창작 활동을 위한 지속가능한 환경
写真/MOTHER Mediaがオフィスを構える漢南洞(ハンナムドン)は、近年新たなショップのオープンが相次ぐ注目エリア。ゆったりとしたコの字型のソファはスタッフのチルスペースでもあり、背後の本棚には、ウギのルーツでもあるストリートカルチャーを感じさせるアイテムやアートブックが散りばめられている。
成長から成熟への分水嶺
そしてカルチャーとエンターテイメントをめぐる視点は東京からソウルへ、K-POP、映画、ドラマ……世界は韓国の映像表現に夢中だ。現地のクリエイティブシーンを牽引するスタジオが問うその熱狂の先とは?
成長よりも成熟を求めなければいけない
BTSからIUにHYUKOH、LE SSERAFIM……クリエイティブスタジオ「MOTHER Media」のポートフォリオは、現代の韓国カルチャーを象徴しているかのようだ。事実、韓国エンタメの本格的なグローバル化を抜きに同社の活動を語ることはできない。多くの人気アーティストはもとよりSM EntertainmentやYG Entertainmentといった大手レーベルの成長が音楽のみならずクリエイティブシーンを発展させたように、ファウンダーで映像ディレクターのキム・ウギさんもまた、K-POPシーンと並走するように仕事の幅を広げていったという。
「初めは僕らもアーティストも手探りだったから、対等な立場で意見を交わしながら作品をつくれたんです。加えて、2010年代はエンタメ産業のデジタル化が進んでもいた。僕もひとりで編集から撮影まで行えるようになったので、急速に挑戦の機会が増えていきました。自分でも信じられないくらいのスピードで産業規模が大きくなっていて、食事も睡眠も関係なく働き続けていましたね」
何につけても速度を求める韓国の文化はときに批判の対象ともなるが、その姿勢こそがクリエイティブを成長させてもいたのだろう。「韓国の人々は、海外からの影響を吸収し、再解釈し、アウトプットするのがとても速い」とファウンダーで代表のキム・ウンナさんが指摘すると、今後そのスピードはさらに速くなるだろうとウギさんは続ける。
「私たちの世代は留学などを通じ海外の文化を吸収していましたが、今の若者はすでに海外と接続されているので飲み込みも速いし、様々な文化を組み合わせて自分なりの表現をつくれる。今後はもっと複雑で複合的なアウトプットも増えるかもしれませんね」
写真/01. BTSリーダーのRMソロ作では、広大な草原を舞台に花火や嵐も取り入れられ、心象風景ともつながるドラマティックなシーンが表現されている。02. 今年GUCCIが景福宮で行ったショーに先立ち公開された映像には、EXOやNewJeansのメンバーなどK-POPスターが代わる代わる登場し、アイコニックな場所を訪れる。03. 3ピースバンド「SE SO NEON」の中心人物であり故・坂本龍一との親交も深かったシンガー、So!YoON!のソロデビュー作はギター1本で荒野を切り拓くクールで力強い女性像が表現されている。04. 日本でもよく知られるLE SSERAFIMのMVは、メンバーを異形の存在として描きながら、これ自体が一本の映画になりそうなほど雄弁で謎めいた世界観を演出。
加速に次ぐ加速に、人々は付いていけるのか。ふたりは、ひたすらクリエイティブを考えるだけの時代は終わったのではないかと語る。
「韓国のエンタメは世界的にヒットしているけれど、クリエイティブ産業が成熟しているとは思いません。韓国の人々が必死に徹夜しながら働く一方で、海外のプロダクションにはクリエイターを守るシステムがあり、環境が整備されている。私たちが海外から学ばなければいけないことはまだたくさんあります」
世界的に韓国エンタメへの注目が高まり、ピークを迎えていると言われるからこそ、ただ瞬間最大風速を追い求めるのではなく持続可能なクリエイティブ環境をつくる必要がある。それは成長から成熟への移行と言えるのかもしれない。ふたりもまた、アーティストマネジメントやカフェ「MOTHER Offline」の運営など新たなことに取り組みながら、自分たちらしい表現の場を追い求めているようだ。
「現代のエンタメ産業は新鮮なコンテンツをたくさん発信していますが、画一的で消費を駆り立てるだけで、人々に悪影響を与えるものもあります。今の韓国には、子どもが安心して観られて、学びにもつながる映像がもっと必要です。その点、日本の方がクリエイティブ業界に多様性があるようにも思える。ちょっと羨ましいですね。今後は僕たちも、クライアントに依存するのではなくオリジナルコンテンツにも取り組みながら、もっと多様な韓国カルチャーを提示していきたいです」
今もなお膨大な量のコンテンツが生み出され続けるなかで、すでにクリエイターは新たな方向を向いている。私たちはその視線の先に目を向けなければいけないのだろう。
MOTHER Media | 마더미디어
マザーメディア/映像ディレクターのキム・ウギ(左)と代表のキム・ウンナ(右)が2007年に立ち上げたクリエイティブ・スタジオ。ウギは元スノーボーダーの経験をもちエクストリーム・スポーツの映像をつくったことがきっかけで映像制作の道へ。アスリート時代は合宿のため新潟に住み込んでいたこともあるという。
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◊ ◊ ◊ COLUMN ◊ ◊ ◊
ローカルに根づいたカルチャー発信拠点
마더오프라인|MOTHER Offline
コミュニティファーストの空間づくり
MOTHER Mediaがオフィス1階にオープンした「MOTHER Offline」は、同社のもつネットワークやコミュニティ、それらをとりまくカルチャーが具現化した空間だ。オープンからわずか1年ながら、今ではローカルのアーティストに愛されるカフェ&バーとして人気スポットのひとつになりつつある。
「私たちのまわりには多くのクリエイターがいますし、人々が集まり自然発生的に多様な現象が生まれてくる場をつくりたかったんです。だからカフェとして収益を上げるのではなく、とにかくコミュニティをつくることが大事でした。そのためにはまず、イベントをたくさん行う必要があると思ったんです」
写真/1. 日々行われるイベントのフライヤーも多種多様だ。昨年の国際トランスジェンダー認知の日から始まったDJパーティ「TRANSPARENT」はインクルーシブな空間を創出。2. 注目の映像作品を上映するスクリーニングイベントも定期的に実施。3. 複数のカラオケルームを貸し切り店舗外で行われたレイブ「BBIGARI」。4. アーティストのソン・ホジュンが人工知能を使った参加型のイベントを行うなど、アートシーンとの結びつきも。ウギさんがそう語るとおり、MOTHERのチームはコミュニティ育成のために絶えず多くのイベントを企画している。それもただのイベントではない。MOTHER Offlineのイベントに登場するのは、今や欧米音楽シーンからも注目される女性デュオ「SALAMANDA」やストリートから支持されるオルタナティブラップデュオ「Y2K92」など、注目すべきアーティストばかりだ。ときには映像やライブパフォーマンスも取り入れながら多様なイベントが企画されることで、ある日ステージ上にいたアーティストがまた別の日には観客として訪れるなど、有機的に人々が混じりあうコミュニティが生まれるのだろう。
「常に“何か”が起きているような場所にしたいんです」とウギさんは語る。その“何か”が新たなムーブメントを生み出し、韓国カルチャーを牽引していくのだろう。
●Shop Information
마더오프라인|MOTHER Offline
マザー オフライン
昼はカフェ、夜はバーとして営業。日中は黙々と作業する者やミーティングを行う人も多く、ただの遊び場ではなくクリエイターの生活の一部となっていることが伺える。
Address:
龍山区梨泰院路55ナギル6/
6, Itaewon-ro 55na-gil, Yongsan-gu
Open:
11:00 - 23:00 (金・土 11:00 - 24:00)
Closed:
無休
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[TOKYO]
Edit: Yuka Okada(81)
Photos: Keita Goto
Text: Shunta Ishigami(MOTE)
Hair & Makeup: Go Takakusagi (VANITES)
[SEOUL]
Edit & Text: Shunta Ishigami(MOTE)
Photos: Taemin Ha
Coordination: Shinhae Song (Seoul / TANO International)
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