知れば知るほど人間くさい街。
この街のプレイヤーとして、
銀座に思うこと。
田島朗|『Hanako』発行人
『BRUTUS』『POPEYE』『Hanako』など個性的な雑誌のラインナップが知られる出版社・マガジンハウスが本社を置くのは銀座。その編集者としていくつもの雑誌に携わり、この春から『Hanako』『BRUTUS』発行人および『BRUTUS』編集長を務める田島朗さん。20年以上通ってきた銀座に自分がふさわしいと思えるまでには、ずいぶん時間がかかったと笑います。その理由とは、編集者としての銀座という街への思いとは? GINZA SIX前面の銀座中央通りを見下ろす、6F「EATALY 銀座店」のテラスでお話を聞きました。
MAGAZINE|2022.04.01
--田島さんはこの春まで雑誌『Hanako』の編集長を務められ、今春から『BRUTUS』編集長に就任されました。ずっと銀座勤めということですね。
「僕のマガジンハウスへの入社は1997年。今年で25年間銀座に勤務していることになります。銀座に通っている期間がようやくこの数年で人生の半分を超えて、やっと最近 “銀座のことなら知っています”と胸を張って言えるようになったところです(笑)。元々は出身地の埼玉県浦和市から通っていたのですが、すごく若い頃は、銀座は大人の街すぎて自分なんぞが闊歩するには畏れ多いという気持ちでした。マガジンハウスが銀座にあるのは、創業者の縁もあって築地の印刷所の2階に拠点をかまえ、その後近くの東銀座へ移ったと聞いています。編集者としては、より魅力的でトレンドを感じられる街に近いことはアドバンテージですから、とてもいい立地だと感じています」
--『Hanako』編集長時代に、GINZA SIXとのコラボ企画なども手がけていただきました。
「僕が『Hanako』の編集長になったのが5年半前。GINZA SIX開業の少し前で、オープンに合わせて大きなタイアップをご一緒しました。誕生したときは、いわゆる商業施設でここまでアートをきちんと扱っていることに驚いたのを鮮明に覚えています。現在、名和晃平さんの作品が展開している中央の吹き抜けのアートは、オープン時は草間彌生さんでしたよね。あの規模の作品をけっこうな頻度でかけかえているのはすごい! それからパトリック・ブランやチームラボなど、パブリックアートもかなりクオリティーの高い作品揃いで、ちょっとしたミュージアムのようでもありますね。さまざまなテナントの入る商業施設は、“受け皿”であるハコそのものの魅力は出しづらいもの。ところがGINZA SIXは谷口吉生さんによる建築、そしてアートによってハコの魅力がきちんと出ている。それこそがGINZA SIXの個性ですし、アートやデザインにプライオリティを置くこと自体、銀座という質の高い街だからこそ成立している気もします」
--雑誌『Hanako』は、定期的に銀座特集も手がけられていますよね。
「『Hanako』の創刊は1988年。今年で34年になるのですが、その間に銀座特集を80回以上、つまり年2回以上のペースでやっているんです。僕が編集長の間は、月刊誌でありながらも春と秋の2回。ただこの2年と少しのコロナ禍の間は、地元からの広告も減ってしまったこともあり、正直なところ、銀座の特集を存続させるのはきつかった。やめた方がいいのでは……という向きもなくはなかったのですが、銀座特集を止めることは、『Hanako』にとってもマガジンハウスにとっても、何か大事なものを失くしてしまうのではないかという思いがあって、踏ん張って特集をつくり続けました。そして今回、5周年を機にまたGINZA SIXさんからお声がけいただいてご一緒できたので、踏ん張ってきてよかったなあと感慨深いです」
--田島さんにとって、銀座はどんな街ですか?
「僕ね、若い頃は金髪短パンでビーサンで出社したりしていたので(笑)、それもあって銀座の中心には行きづらかった。ちょっと背筋を伸ばして、それなりの格好をしていかないとふさわしくない街、という印象が今もありますね。そういったきらびやかで、道行く人たちもおしゃれで……というイメージは変わらないのですが、一方で銀座は知れば知るほど人間くさい街だなあと今は思います。
世界に類を見ない美しい大きな街なのだけど、街に関わる人々が皆、街に対する思いが強い。取材などで会う若旦那の方々や、お店を営む方々など、誰もがどうすれば銀座はもっとよくなるかを考えている愛情深い方ばかりです。この規模の街で、それはちょっと奇跡的なことだと思います。「世界一、大きな下町」とでもいう感じ。皆さんが銀座という街が保ち続けてきたブランド性をリスペクトしながら、新しい風を吹かせようと日々努力していることに感心するばかりです。だからこそ銀座を本拠地とする者の一人として、街に対して何かしたいなという気持ちは僕にもあります」
--編集者としてGINZA SIXに求めるものや今後へのご希望があれば教えてください。
「取材でいろんな街へ行きますが、やはり銀座は稀有な街。GINZA SIXは、建築やアートの力もあってブラブラと歩いて楽しめる、かつての“銀ブラ”感に近い感覚を残しているので、銀座のよさを表している商業施設だと思います。谷口吉生さんによる建築の外観も、商業施設にありがちなするっと真っ平なものではなくて、店が連なっているように見えますよね? 若いニューラグジュアリー層にとって、大人のための老舗ばかりが並んでいる印象の銀座は、行く理由を見出すのは難しい面があったと思う。でもGINZA SIXには、魅力的なテナントがあり、カルチャーにも触れられるし、かつそこで過ごすことで銀座のよさを体感できる。この街の魅力が次の世代につながっていくきっかけになりそうですよね。
GINZA SIXって、屋上や廊下などの共有部分など、ちょっと寛げる“余白”の場所が多いですよね? コロナ禍が落ち着いたら、ああいう場も活用しながら雑誌のイベントなどでもっとご一緒できたらなあと思います。実は『Hanako』では、創刊30周年のイベントで、今いるこの6Fのテラスで読者の方々をお招きしてシャンパンで乾杯したんですよ。銀座を見下ろすこのロケーションはなかなかない。今はコロナ禍のこともあって人を呼ぶイベントは難しい面もありますが、時機を見てまた何かやりたいですね。
それからせっかくマガジンハウスは銀座にあるのだから『BRUTUS』『Hanako』『POPEYE』『GINZA』『& Premium』……とそれぞれの編集部セレクトのポップアップをつくるなんて試みも面白いかもしれないですね。お互いに銀座を盛り上げるプレーヤーとして、これからもお付き合いが続いていくことを楽しみにしています」
>>『Hanako.Tokyo』に掲載されているGINZA SIXの記事はこちらから。
・「GINZA SIX春グルメ① ニューオープン情報も。春グルメニュース!」
・「GINZA SIX春グルメ② 限定メニュー目白押しのB2フロアで、ワンランク上の手土産を」
・「GINZA SIX春グルメ③ レストランフロアで味わう、春の限定メニュー」
〈プロフィール〉
田島朗(たじま・ろう)|マガジンハウス『Hanako』『BRUTUS』発行人、『BRUTUS』編集長。1974年生まれ、97年マガジンハウス入社。98年『BRUTUS』編集部に配属、2010年副編集長に。16年『Hanako』編集長就任、大リニューアルを行う。22年より現職。
Text: Sawako Akune(GINGRICH)
Photo: Mai Kise
Produce: Hitoshi Matsuo(EDIT LIFE),Rina Kawabe(EDIT LIFE)